7、ボスエネミー討伐
「…聞きたいのですが、ここのダンジョンって難しい方ですよね?」
「まぁ、難易度的には難しい方ですね。」
「なんか弱s…ヴッ」
烏一さんが輝くんの顔に向かって勢いよく蹴りを入れた。
「輝、もう口を開かないでくれませんか?」
「言い始めたのは千日だろって!」
「私は遠回しに言いましたから」
「喧嘩はしないでくださいっ!それに輝くんの言う通り上級者にとってはそこまで難しくは無いところですから!」
私は少し離れた所から2人に向かってそう言った。
ここはボス部屋だ。ボス部屋はダンジョンに1つしか無い場所でここにいるボスエネミーを倒すことが出来ればダンジョンをクリアしたと言える。大体のボスエネミーはダンジョンの中で1番強い敵がなるらしい。
「輝だけ庇って貰ってずるいですよ?」
烏一さんが少し不貞腐れたように言った。さっきから烏一さんって思っていたけど子供みたいだなぁ。
「はぁ?知らん、知ら…」
「輝?」
「それはもう理不尽だろ!?」
「私はいいんですよ。私は」
「なんだよ、それ。まぁいいか、そーいりゃ、こいつから魔力はあんま感じ…」
「輝?それ以上言うのであれば口を縫ってあげてもいいんですけれど?話を逸らした上に失言をするなんて、お仕置でもして欲しいんですか?」
2人ともずっと言い合いしてるな…でも烏一さんがあんな崩れた言い方をするということはよっぽど仲がいいんだろう。
「すまん、すまん」
輝くんは悪気の無さそうな様子で謝った。
「あ、あの〜、敵倒さないですか?」
今私達の目の前にいるのは確かにボスエネミーのはずだが…今はずっと攻撃を避け続けている。
「だって攻撃遅いんですもの」
「攻撃遅いもんなぁ」
「遅いから。」
3人がほぼ同時にそういった。
「え、これが遅く見えるんですか!?」
…3人は遅いと言っているが私にとっては目に見えないスピードだ。
それなのに私が怪我していない理由は私は今、凪ちゃんにお姫様抱っこをされている、正直すごく恥ずかしいし凪ちゃんの速さでは掴まっているのもやっとだ。
ちなみにボスエネミーの見た目はフクロウ?の様な見た目で、凪ちゃんの3倍以上はあるサイズだ凪ちゃんの身長は確か170以上だったはず。なんであの大きさであの速さが出せるのかは分からないな。
「なぁ、千日もうそろそろやってもいいか?」
輝くんが何かしたそうにうずうずしている。
「あと少しだけ待ってください」
「天、怖くなったら直ぐに言ってね。早めに終わらせるから。」
「…倒さないの?」
「あぁ、久々にこのくらいの敵を見たので少し遊…観察しようかと」
そう言う烏一さんの表情は凄く楽しそうだ、ていうか今遊ぶって言おうとして無かった?
「天、わかったでしょこいつらまだ殺そうとしないから。」
凪ちゃんは呆れた様子で2人の方をちらりと見た。
「なぁ、なぁ、千日、1回やってみてもいいか?」
「手加減してくださいね」
「よっしゃあ!」
私も視線を追って見てみると烏一さんと輝くんが2人で話していた。なんか勝手に決まってるけど大丈夫なのかな…
「勝手に決めてませんか?今は一応チームでなんでしょう?話の共有はしてください。」
「まぁいいじゃないですか」
「良くないです。」
凪ちゃんがずっと正論しか言ってないような気がする。別に凪ちゃんがいつもふざけてる訳では無いけど…
「遠藤さんも攻撃したらどうですか?」
「いや、天がいるので。」
「そうですか。では、ちゃんと守ってくださいね」
「言われなくても」
凪ちゃんは当たり前だとでも言うように少し表情を変えて自慢げな顔をした。
「うぉぉぉぉぉぉぉらっ」
2人が会話をしていると輝くんが大声を出しながら敵に向かって大きな剣を振りかぶりながら突撃していった。
ザシュッ
輝くんは凄い音を出しながら大剣を振り敵に大きな切り傷をつけた。
よくあんなに大きな剣を振り回せるなぁ凄い…
「私も手加減した方が良いか…?」
輝くんの攻撃を見て凪ちゃんは何を思ったのかそう言った。
「凪ちゃん!?私を下ろしてからにしてね?」
ただでさえ速度を落としてもらってる今でもギリギリなのに、凪ちゃんのいつもの速度で動かれたら私死んじゃうよ!
「大丈夫、天を抱いたままではいかないよ」
私の言葉を聞いて凪ちゃんは私に優しく微笑んでくれた。
「もしや輝、実力が上がりましたか?」
「前よりは上手くできるようになったかもな」
「手加減しましたね。」
凪ちゃんが何かに気づいたらしく、問い詰めるように輝くんに向かって言った。
「マジで!?分かったんですか!?」
「あんな分かり易く減速したら誰だって分かりますよ。」
凪ちゃんは何かが減速した事に気づいたらしい、私には何も見えなかったけど…
「凪さんって動体視力いいのか…?減速の仕方に問題があったのか…もっと改善する必要があるな…」
輝くんは考え込むように下を向いてブツブツと何かを言っている。走りながらなのに器用だなぁ。
「気が変わりました、私も行っていいですか?」
「いや、大丈夫です。私が殺しますから遠藤さんは天さんを守ってあげてください。」
烏一さんがそう言ったあとにゆっくりと敵の方に向かって歩いていった。
敵は警戒しているのか羽を広げて威嚇の体勢で烏一さんを1点に見つめている。
ザッ
烏一さんが地面を蹴る音が聞こえたと同時に、羽が舞って、目の前の敵が真っ二つになった。
「…うーん、難しいですね」
敵を倒せたというのに烏一さんは少し不機嫌そうに自分の持っているナイフを見た。
「千日、手加減するんじゃなかったのか?」
輝くんが烏一さんに近付いて煽るように言った。また喧嘩しないといいけど…
「難しいんですよ!」
烏一さんは顔を少し赤らめて恥ずかしそうにしている。あれ?それより、烏一さん手加減に失敗したの?
「早く帰ろっか、天」
2人の喧嘩している所をよそ目に私をお姫様抱っこし続けながらダンジョンの出口へと向かっていった。
「うん」
私も早く帰りたかったからすぐ返事をした。
不便なことにダンジョンはクリアしてもゲームのようにテレポートが出来ないから歩いて向かうしかない。
「もう帰るんですか?」
「マジか、早くない?」
凪ちゃんはバレないようにゆっくり出口の方へ向かっていたが、烏一さんに気づかれてしまった。
「早くここから離れたいので」
「うーん、でもまだ離れない方がいいかもしれないですね」
「そーだな」
「…天、ここで待ってて」
2人の会話を聞いてから何かに気づいたような反応をして凪ちゃんは私をさっきの戦い?で落ちてきた岩の後ろに降ろした。
「なにかいるの?」
「天は気にしなくて大丈夫だよ」
凪ちゃんは落ち着かせるようにいつもの優しい表情をしながら頭を撫でてくれた。
「…天さんを戦わせてあげないんですか?」
「何があるか分からないのでね」
遠くで凪ちゃんと烏一さんの会話が聞こえる。
「この気配の方は見ればわかるでしょうから安心してください」
「千日のその言葉は安心できないんだよな〜」
「輝?」
「スゥー…」
「はぁ、早く向かいますよ、早く帰りたいんです。」
「あっ、すみません。忘れるところでした。向かいましょうか」
烏一さんの声を最後に3人の声が完全に聞こえなくなった。
大丈夫かな…何か嫌な予感がする。