表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「リアル彼女?」  作者: でふ
第十一羽

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/13

マイルド珈琲、ビターチョコレート

 朝が来た。

 迎えたクリスマスイヴ、当日。

 緊張のあまり全然眠れずに一夜を過ごしてしまった。目覚まし代わりにスマホにアラームをセットしていたはずだが、あまりにも寝れなくてセットの意味がまるでなかった。そして、ベッドから体勢を立て直し、伸びをした。スマホにはラインの通知が一件届いている。ライン通知は横田先輩からのラインであり、カリンさんからのライン通知は届いていない。僕はゆっくりと制服の学ランに袖を通しながら、横田先輩のラインを既読にした。

「横田:夜遅くにすまん。あの話だが、覚悟は決まったか?」

 あの話、というのは桃咲カレンさんと卒業式後に挙式を行いたい、という旨の内容であることは想像に難くなかった。ただ一つ、懸念点がある。横田先輩の決心は良いとして、桃咲カレンさんはどう思っているのだろう? 二人の意思は疎通できているのだろうか?

 しかし、そんな野暮なことを朝っぱらから聞くわけにもいかない。僕はラインに返信をした。

「僕:おはようございます。覚悟は、できています」

「僕:具体的に今日は何をすればいいでしょうか」

 五分ほど時間が経ったのち、先輩から連絡が来た。内容をしげしげと見る。

「横田:おお、よかった」

「横田:今日の十二時頃、カナリアの門の前で待ち合わせしようぜ。他の北高生も呼ぶといいぞ」

 いよいよマジなんだな…という気にさせてくる。

「僕:わかりました!」

「横田:一つアドバイスを。カレンさんに聞いたところ、カリンさんは甘い食べ物に目がないそうだぜ。んじゃ、よろしく頼むわ」

 僕も僕で事前準備をしようと思っていたが、これは好都合すぎる。この阿吽の呼吸のような先読みに助かってしまう。

「僕:ありがとうございます! 事前準備して僕も文化祭行きます!」

 僕と横田先輩のラインはそこで終わった。時刻は六時を回ろうとしていた。僕は手早くトースターにトーストをセットし、アイロンを襖の奥から取り出した。トーストが焼き上がる前に制服にアイロン掛けをする。南中学園学園祭以来のアイロン掛けだな…。僕はひとりそうごちて、丁寧に仕上げていった。

 アイロン掛けが終わった辺りで、いつメンのライングループを起動し、文字を走らせる。

「僕:クリスマスプレゼントは用意しておいた方がいいよ」

 既読件数があっという間に三件に達し、ラジャースタンプが押されまくる。

 僕はスマホを確認して、これから行く予定の店の開店営業時間を確認した。よしよし、時間的には大丈夫そうだ。

 僕は恋の段取りが組めてきたことにホッと胸を撫で下ろし、靴に履き替えて家を出た。外の天気は冬の青空の快晴で、目が眩んだ。



 扉を開く。カランコロンと音が鳴って、暖かい照明の光と暖炉による心地良い空気に身体が包まれる。

「いらっしゃいませ」

 マスターがティーカップをナプキンで拭きながら出迎えの挨拶をしてくれた。僕は扉をゆっくりと閉めて、マスターの元に向かった。

「マスター、お願いがあります。先日、この暖炉の前の席に座っていた北高生徒の者ですが、一緒にいた南部中央学園の生徒が淹れてくれた珈琲をパックでいただけないでしょうか」

 マスターはナプキンで拭くのをやめて、「覚えていますよ。桃咲家の方ですね」と言った。

「それならこの自家焙煎珈琲を持っていくといいです」

「わかりました、ありがとうございます。それで、幾らですか?」

 多少高くても僕は別によかった。

「プレゼントですよ、もちろん無料です」

「え⁉︎」

 僕は素っ頓狂な声を上げた。マスターは驚きもせず、にこやかな笑顔を絶やさずに話を続けた。

「今日はなんて言ったってクリスマスイヴですからね。羽休め喫茶からの贈り物として受け取ってください」

 マスターはそう言って、緑のリボンをくるくると蝶々結びにして珈琲パックに貼り付けた。

「あ、ありがとうございます!」

 僕は深々と礼をしてパックを受け取った。これはこの店の常連になるしかないな。子どもながらに僕はそう思った。

 僕が喫茶店から去ろうとした時、マスターがそっと僕を呼び止めた。

「あ、そうそう。メリークリスマス。素敵な時を、お過ごしください」

 僕は目を丸くしながら再度礼をして、「メリークリスマス」と小声で言った。そして店を出た後、何気なく羽休め喫茶の外観を見た。煙突の煙は前回ほど立ち昇ってはいなかった。

「さては、マジでサンタさんこの店に来たな…」

 僕は足早に目的地の中部中心高校に向かった。文化祭の開始時間は午前十時からだ。



 中部中心高校へ向かう道すがら商店街を通る。商店街の街頭には垂れ幕が掛かり、垂れ幕には「カナリアの祝祭へようこそ!」の文字が踊っていた。案の定、商店街は北高生徒と南中学園生徒でごった返しており、商店街の店の前には数多くの屋台が立ち並んでいる。その立ち並ぶ屋台の店員さんを見ると、なんと黄色いスカーフを首に巻いた中高男子生徒たちと黄色のリボンを制服に巻いた中高女子生徒で構成されていた。

 いくら中高がマンモス校とは言え、高校までの商店街さえも貸し切るとは…。

 人の波に乗りながら、屋台を見ていると、クレープ屋さんやらタピオカ屋さんなど、文化祭の案内に書いてあったチラシの通りに店が開いていた。僕はいい香りが漂う先のとあるクレープ屋さんに目を付け、立ち止まった。

「お、北高生徒さん。へいらっしゃい。何にします?」

 粋の良いお兄さんが対応してくれた。僕は嬉しくなってチョコクレープを一つ注文した。

 クレープ生地をフライパンで焼き上げている最中、一通のラインの振動音がポケットから伝わってきた。通知アイコンはピンクの桃アイコンだった。僕はついに来た!と喜びを爆発させてラインを起動する。

「カリン:お誘いは嬉しいんだけど、今日は文化祭で別の人と一緒に行く予定があるので、難しいです…。ごめんなさい」

 一瞬の間があったのち、店員さんから「へい、チョコクレープお待ちの方!」という声と共にクレープを渡された。

 僕は自分でも何を言っていたかよくわからなかったが、確か「ありがとうございます…」と小声で言って受け取っていたと思う。片手にスマホのライン画面、もう片手にできたてほやほやのクレープを持って、僕はその場で固まっていた。



 いつの間にか人の波に乗せられるまま、カナリアの門の前に来ていた。門を見上げると二匹の鳥たちが向き合っていた。そう、中谷の言っていた通りだった。周りを見渡す。数多くのつがいのカナリアたちが写真をパシャパシャ撮りながら大はしゃぎをしていた。また、南中学園女子の中には中高生徒と手を繋いで門を通っていく二人組の姿も見えた。

 僕はゆっくりと校内に進んでいく。校内には色とりどりのバルーンアートが宙を飛び回り、所狭しと絵画や彫刻が飾っていて、手作りアクセサリーが展示してある出店が並んでいた。そのどれもが暖かみのある原色使いで、その暖かさが僕にとって逆に悲しさを増幅させていった。

 …静かなところを探そう。僕はそう思って高校の中庭に向かった。中庭にはとてつもなく大きなクリスマスツリーが配置してあり、その周りを赤やら緑、金色の大きなプレゼントボックスがコロコロと並んでいた。まだ開演して間も無くだからだろう、クリスマスツリー周辺に人影はほとんどいなかった。

 僕は近くのベンチに腰掛ける。そのベンチから見えるクリスマスツリーには大小煌びやかな飾り物が施されていて、天辺には一際大きなスターが飾ってあった。そして見上げた空は、雲ひとつない快晴であった。

「今夜は、星が綺麗そうだな……」

 左手に持っていたクレープはとうに萎れていた。僕は静かにラインを起動し、ライングループに連絡を入れた。


「僕:ごめん、今日は単独行動をさせてほしい」

「中谷:上手く行ったのか!」

 間髪入れずに中谷から連絡が来る。一瞬固まったのち、ラインに文字を書いた。

「僕:いや、全然ダメだった…。ちょっと一人にしてほしい」

「短澤:アホなこと言うな!」

 ……え? 短澤の文字から、本気の声が届いてきた気がした。

「短澤:俺も全然ダメだったぞ! 言いたくないが。だとしてもな、俺ら四人で始めたことだろう。しっかり、会って報告し合うぞ」

「長代:俺も空振りですわ。現実の恋愛ってやっぱ難しいんだなと痛感したっす。だからさ、お前らに会いたいわ…」

「中谷:…会おうぜ。気に病むのもわかる。だからこそ、会おうぜ」

 僕は複雑な思いでいっぱいだった。そしてよく考えてみると、僕から先に逃げ出そうとしたことを恥じた。みんな同じ気持ちなんだ。みんなそれぞれ好きな人がいて、それぞれなんとか考えられうる策を実行し、それでもダメだったのだ。そんな僕たちだからこそ、お互いを励まし合えるのではないか。言い出しっぺの僕が最初に抜けたら、世話ないではないか。そして、友人たちの温かさに、心がジーンとした。

 僕はベンチから立ち上がり、カナリアの門に急いだ。お互い場所なんて指定していなかったが、そこなら待ち合わせ場所になるんじゃないかと淡い期待を寄せてしまう。


 萎れたクレープからはチョコが地面にポツ、ポツ、と足れていた。手についたチョコを舐めると、味は確かにほろ苦かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ