彼女作ろう大作戦!作戦本部
檸檬さんと別れて家に向かってトボトボと帰っていった後のことはよく覚えていない。ひとつ言えることは、僕は諦めが悪い男であり、今日の出来事があったからと言って本命を諦める選択はしない、ということだ。だから家に着いてもカリンさんとのライン画面を見返しつつ、ベッドの上に横になっていた。
カリンさんとのラインのやり取りは短い。そこは否定できない。やり取りにして五往復ほどだろう。ただ、画面を見返すと確かにあの時あの瞬間に悩んだ末の選択をしっかりと送信したことだけはわかる。その選択の積み重ねが今の結末なのならば、それはしっかりと受け止めないといけない。そしてこれから先の選択次第では、未来を良い方に変えられるかもしれない。
諦めが、悪いなら悪いなりに、足掻いてみせよう、ホトトギス。
僕はラインにとある文章を打ち込んで送信ボタンを押した。宛て先はもちろん桃咲カリンさんだ。もしかしたら既読にならないかもしれない。もしかしたら返信も返ってこないかもしれない。それでも僕の想いは確かに伝えた。伝えたから、僕は次の行動に移るだけだ。
部屋の壁にかかっているカレンダーを見る。クリスマスイヴの日まで、あと一日しかない。この残り少ない時間で何をするのか、僕は再度ラインを取り出し、とある人に連絡を入れた。
「明日からいよいよ文化祭だな」
校舎裏でいつものメンツ、長代と中谷、短澤とタバコを燻らせながら談笑をしていた。四人でこの場所に昼休みに集まるのは恒例のことではあるが、今日はちょっとばかし意味が違っていた。
「で、最近長代はどうよ? これの方は?」
これ、とは女の子のことである。中谷はそう言いながら小指を立てた。つまりは彼女の有り無しを聞きたいのだ。
長代は丸眼鏡をクイっとあげて「進展はそんなにないっすね」と言った。
ほう、そんなに、ということはあるにはあったのか。僕と中谷、短澤の三人の視線が一斉に長代に集まる。
「夏の学園祭で知り合った女の子を自分なりになんとかこうとか誘ったんすよ。事務局の女の子の一人っすね」
「ああ、彩花ちゃんね」
中谷と短澤が昔を懐かしむように名前を出してきた。ほう、彩花さんか。僕はついこの前の記憶を脳内から引っ張り出す。僕がカリンさんとベンチでりんご飴を頬張っていた時に長代たちがナンパしたという南部中央学園事務局の女子生徒のうちの一人だ。
「彩花さんは一応、文化祭には来てくれることにはなっているんすけど、一緒に回れるかどうかはまだ未知数っす」
ふむふむ。僕ら三人は頷いた。
「短澤、お前はどうよ?」
中谷はそう言って話を短澤に振る。短澤は吸っていたタバコの火を缶で消して、僕らに向き直った。
「俺は沙良さんを誘ったぞ。沙良さんも来るみたいだけど、同じく上手くいくかはわからないな…」
「ああ、沙良さんか。俺も似たようなもんだ。事務局の女の子の花音ちゃんを誘ったぜ。俺が連れてきた子、覚えているだろ? あの子だよ」
中谷がそう言って長代と短澤の二人に首を向ける。
「でも、花音ちゃんも花音ちゃんで最後のひと推しが難しくてな。難儀してるんだよ。文化祭でどうなるのかは神のみぞ知るな…」
長代たちも僕と同じようにやることはやっていたんだな、僕はひとりそうごちた。確かどの子も学園祭で別々にいたところをナンパして食事会に誘ってみたら、偶然にも全員南部中央学園事務局の生徒だったっていう話だったよな……。
「で、お前はどうよ?」
中谷はそう言って僕の方を見てきた。僕も吸っていたタバコの火を缶の端で揉み消して、ゆっくりと息を吐いて事のあらましを三人に説明した。三人とも黙って聞いていたが、何度か感嘆とした表情をしていた。
それでそれで?
そんなことがあったんっすね。
やるじゃん。
話している最中に三人から合いの手のが入るものだから、僕もベラベラと細部に至るまで話してしまう。
カリンさんとの全貌を話し終わった後、男たち四人はそれぞれどうすっかなーと思い悩んでいた。俺も俺でやることやってきたんだけどな、そういう考えが男たちの表情の端から見え隠れする。
「まあ、そういう空気になるだろうと思って対策は打っておいたよ」
僕はそう言ってポケットからスマホを取り出した。残りの三人は、何⁉︎、と驚いた表情をしていた。
「これ、夏の文化祭で出会った横田先輩のラインなんだけど、彼は三年生なんだ。それでいて、中部中心高校の生徒会長として今回の文化祭を盛り上げようとしているんだ」
ああ、あの時のメイド喫茶に行った時の男か。生徒会長だったんだな…。
「で、先輩はとある女の子が好きだったわけ。その女の子が桃咲カレンさんだったんだよ」
カレンさんってお前が好きな女の子のお姉さんじゃん。
「さらに、そのカレンさんと横田先輩を上手く繋げることに成功したわけ」
ほう、さっきもちらっとそんな話説明してくれたっすよね…。
「その上で、横田先輩は高校最後の文化祭のクリスマスイヴをカレンさんと最高に過ごしたいらしい」
まあそりゃあ高校生活最後の文化祭だからな…。
「それで、横田先輩が同学校の生徒会の男たちに手を回して県内の男女の仲を上手く繋げてくれるらしい」
「「「まじで???」」」
男たちの驚嘆の声が校舎裏に響いた。そんな都合の良いことある?
「中高の文化祭の歴史を横田先輩から説明してもらったけど、県の高校男女の仲を深める祝祭として中高の歴代のOB・ OGがクリスマスイヴに文化祭を実施したのが事の始まりだったらしいよ。で、その歴代のOBのひとりが横田先輩のお父さんで、息子はそれに憧れて生徒会長になったらしい。横田先輩の家系は中高の歴史と深く紐づいていて、昔の祖父母の代に建てた学校が今の中高なんだってさ」
「なんか聞いたことがあるぞ。カナリアの門って二匹の鳥たちが向かい合っている門だから、他県から恋人の聖地になっているらしいな……」
「その噂話までは知らないけど、横田先輩からは条件が一つあるってさ」
「「「なになに?」」」
男たちが興味津々に話に食いついてくる。
「来年の春の卒業式後に挙式を行う予定だから、それを最高にするための準備に関わってくれって」
「まじで言ってんの? カレンさんと?」
「らしいよ」
僕も最初にラインで聞いた時はまさかそんなことになるとは思っていなかった。どうしてもカリンさんに上手く告白がしたいので相談に乗ってもらえませんか、くらいのノリだったのに、俺は桃咲カレンと結婚したいからそれを手伝ってくれるのならお前の恋愛も上手く取り持つよ、だそうだ。
「いやまあ、それは願ったり叶ったりだけどよ、だとしても横田という男の考えはスケールがデカすぎるな…」
「そりゃあ挙式上げたいというのなら手伝うのはやぶさかではないっすが、残りの期間わかってるっすかね?」
確かに中谷と長代のいう通り、卒業までの残り四ヶ月くらいで挙式の準備というのはいささか短すぎる。
「また制限時間付きか」
短澤がそう言ってタバコに火を付け始める。制限時間付き、そう、タイムリミット付きである。ただし、制限時間のある時計は僕らの時計ではない。
「……まあ、いいんじゃね?」
それもそうだ、それもそうだ。四人は単純明快な結論に至り、乗っかれる波には乗っかってしまおうという戦略を取ることにした。乗るしかない、このビックウェーブに。明日は明日の風が吹く。まさにそれである。
そうこうしているうちに予鈴がなった。僕らはニヤニヤしながら明日の文化祭を迎えることにした。彼女作ろう大作戦。その集大成が明日、始まろうとしていた。




