モギー もぐらのタクシードライバーはひっぱりだこ
ニーナを連れて、ボーラにある病院に急いだ。
モグラロードを使えばあっという間の速さだ。
ニーナも体調を崩すことなく、ボーラに着いた。
ボーラは中立国。
ニーナのいた戦争中の国や、内乱が起きている国からの
難民やけがをした避難民を救済していた。
ボーラの病院の医師にニーナを託す。
ここでニーナは手厚い治療を受けることができる。
そして、爆撃に怯えないで生活することもできるのだ。
ニーナの身よりが誰もいないのが気になったが、
敢えて聞かなかった。
周りにおらず、ベルテ国の医師も何も言わなかった、
ということは、すでにだれも生存していない可能性が高い。
俺はニーナに別れを言い、モグラロードを使って自分の国に戻った。
ニーナのことは気になったが、俺がこれ以上詮索する理由はなかった。
戦地のベルテ国から、けが人を脱出させたことが
人づてに伝わり、俺にはその後もそんな依頼が多く舞い込んだ。
出来る限り、依頼は受けて何人ものけが人や避難民を
安全な地域に移動させた。
ある日、革命が起きている国の王族から家族を脱出させたい、という依頼があった。
王は自国に残るが、家族だけは逃したいと。
正直、危ない計画だった。
妃と子供3人。友好国まで連れだしてほしいというのだが、
すでに王一家は捕らえられ幽閉されていた。
モグラロードをで一番近くまで行っても、
一家のいる場所までかなりある。
その間、無事に通過できるか。
それでも計画は決行された。
王一家の身の上がいよいよ危ないとわかったから。
モグラロードを抜け、穴をほり一家にいる部屋までたどり着いた。
ここまではなんとか順調だ。
王は俺のことを待ち構えており、
王妃と子供たちに、俺について行くように促した。
王は家族を見送り、一人ここに残る。
家族は後ろを振り返りながら、俺に続いた。
その時、王のいる部屋に革命軍の兵士がなだれ込んだ。
脱出の計画が漏れたようだ。
俺は急いで家族をモグラロードまで連れて行こうとしたが、
その時、王妃が立ち止っていった。
「私は王と共にここに残ります。子供たちを逃がしてください」
そういい、部屋に戻っていった。
去り際に子供たちを抱きしめ、
「誇り高き王の子であることを忘れてはいけません」
と言って。
王妃を引き留める間もなく、
革命軍の兵士がこちらに向かってくるのが見えた。
モグラロードまであと少し。
3人の子、一番上の王子、まだ小さい王女、と弟王子は
動揺しながらも懸命に俺と走った。
だか、ついに兵士に追いつかれた。
ここまでか、そう思ったとき、
一番上の王子が
「ここは僕が奴らを引き留めます。早く行ってください」
俺に言った。
妹と弟に向かって
「お前たちは必ず生き延びるんだ。そして父上とこの国の意思を受け継ぐんだ」
そう言って腰のちいさな剣を抜いた。
そして、迫ってくる革命軍兵士の前に向かっては走り出て行った。
残された小さな王女と王子は
怯えてはいるもののしずかに俺に向かって言った
「あなたはわたくしたちを助けてくださるのですか」
と。
この子たちは真の王族なのだ。
俺はこの子たちをなんとしてでも脱出させねばならない。
その一心で二人を連れてモグラロードに急いだ。
遠くで、剣のぶつかり合う音が聞こえ、子供の悲鳴が聞こえた。
俺は夢中でモグラロードを通り、王女と王子を友好国まで送り届けた。
革命が起きたその国はその後あっという間に鎮圧され、
新しく、王の弟が王座に就いた。
王と、その一家の犠牲は何だったのだろう。
その後、俺はタクシードライバーをやることができなくなっていた。
しばらく休業ということにした。
そんなある日、ボーラの病院に運んだニーナがすっかり元気になって
退院したと聞いた。
しかも、消息不明だった両親とも無事に再会できボーラで家族そろって暮らせることになったと。
そんな家族の夕食に俺は招待された。
俺は久しぶりにモグラロードを通り、ニーナの家にお邪魔した。
ニーナの家でニーナと両親に大歓迎してもらった。
バラ色のほほをして笑うニーナ。
俺はそんなニーナ一家の姿を見て、あの王一家のことを思い出し心が苦しくなった。
それでも、幸せそうなニーナの姿を見て嬉しかった。
もうあの時の目ではない。暖かい、安心しきった目をしていた。
別れ際、ニーナが俺に抱きつき
「モギー、ありがとう」と言った。
ニーナの父も母も俺を抱きしめた。
あたたかいぬくもりだった。
そのぬくもりをまとって俺はモグラロードを使って家路についた。
ニーナを助けられてよかった。
王一家の件依頼、ずっと悲しく無念でもやもやしていて、それはこの先も続くだろうけど、
いまはニーナのことが嬉しかった。
久しぶりにうきうきした気分になった。
ニーナ、本当によかった。
そして、俺はついついモグラロードを外れて走ってしまっていた。
うっかり地上近くまで上がっていた。
その時、俺のタクシーの車体の先端に何かが当たった。
その瞬間、俺のタクシーも俺の体もばらばらになった。
俺は地雷にふれてしまったようだ。
地上近くには戦闘地域に多く残されている地雷が埋まっている。
地上の人々も地雷にを踏んで命を落とす人が後をたたない。
俺は地雷を踏んだのではなく、つついてしまったのだが結果は同じだった。
ばらばらになった俺の体は、世界のいろいろなところに散らばった。
そしてそこから何故か花が咲いた。
安全な場所では白い花、地雷が近くにある危険な場所なら赤い花が咲いた。
俺から咲いた白い花には不思議な力があった。
それを見た人は優しい気持ちになるんだ。
ニーナの母国、ベルテ国が戦争をしていたルイン国と停戦に合意した。
形だけの停戦という見方も多かった。
停戦の合意記念式典に、ニーナが平和の使者として選ばれ、
両国の代表に花を贈った。
それは俺の身体から咲いた白い花だった。
花を持った両国の代表の目が暖かく変わっていくのが見えた。
だいぶ前に構想した童話です。
実際に書いてみるといろいろと粗が多いですね。
これで完結です。