もぐらのモギー、リストラされる。
俺はもぐらのモギー
辣腕のタクシードライバーだ。
いや、タクシードライバーだった。
そう、俺は今日、タクシードライバーを辞めた。
好きで辞めたんじゃない。
ほんとうなら会社都合というやつだ。
タクシードライバーは人手不足。
その割に利益が上がらない部門。
ということで、俺の勤める会社のタクシー部門がなくなった。
撤退したのだ。
俺たちドライバーは解雇。
しかし、会社は周到に俺たちを自分から辞めさせるように仕組んでいた。
俺たちはていよくリストラされたんだ。
俺はタクシードライバーという仕事に誇りをもっいた。
俺の知らない道はない。どんな抜け道でも知っていた。
だから、俺を指名してくれるお客も大勢いた。
リストラされて、いつもでもくよくよしているわけにはいかなかった。
俺には家族がいる。稼がないと。
そう思ったのは俺だけではなく、同じくリストラされたなかまのもぐらたちも同じだった。
それなら、俺たちでタクシードライバーをやろう。
俺たちもぐらはモグラロードを使うことができた。
地下深くを自由に行き来できるもぐら専用の道路だ。
モグラロードには時空を飛び越える力があったので、
普通に行けば10時間かかる道のりも、1時間で着くことができた。
これはもぐらの特権。
俺と仲間のもぐらたちはモグラロードを使い、人や荷物を運んだ。
あっという間の速さで。
それは口コミで広がり、俺たちは大忙しとなっていった。
そんな時、輸送の依頼が来た。
ベルデ国リーマにいるけが人を、搬送してほしい、というのだ。
ベルデ国、ここは今隣国ルイン国との戦争中だ。
毎日、爆撃され破壊されている様子がニュースになっている。
そのベルデ国でけがをした子供を中立国のボーラにある病院に運んでほしいというのだ。
破壊されて設備の不足しているベルデ国の病院では手に負えないのだそうだ。
今までなんとか搬送しようと手を尽くしたが、迎えに来た救急車が爆破されたりして
普通の経路では不可能に近いという。
俺たちのモグラロードには国境がない。
どの国でも自由に行き来ができる。
地下深くを通るので、狙われて攻撃される心配もない。
俺にはその子を病院に連れていく、という選択肢しかなかった。
しかもあまり時間の猶予はない。
すぐにベルデ国に向かった。
俺が搬送するのはニーナという女の子。
8歳だそうだ。俺の娘と同い年だった。
ベルデ国の真下に着くと、よく場所を確認しニーナのいる病院に向かって穴を掘った。
モグラロードからのびる脇道のようなものだ。
俺が地上に顔をだす。
この瞬間が危ない。ここは戦闘地だいつ狙われるかわからない。
病院に入り、少し探すとすぐに待ち構えていた医師と会えた。
ベッドに寝ているニーナは8歳にしては小さく青白い顔をしていた。
医師がボーラの病院で渡してほしいとニーナのカルテを俺に預けた。
ニーナがこちを向いたので、
「俺がボーラまで連れていくから安心しな」
と言った。
すると、ニーナは笑った。可愛い笑顔だった。
あとはニーナをモグラロードに置いてきた俺のタクシーに乗せるだけだ。
ニーナと医師、そして俺でモグラロード繋がる脇道に向かったとき、
けたたましくサイレンが鳴り始めた。
空爆が始まったんだ。
遠くで爆撃の音が聞こえ、地響きが起きた。
ニーナが怯えた表情になる。
大丈夫だ、と言ってニーナを抱きしめる医師も震えていた。
ニーナの目が「はやく爆撃をやめてください」と訴えていた。
これは、子供の目ではない。
戦争のない俺の国の子供たちはこんな目をしていない。
脇道に着くと、ニーナは自分で歩いてモグラロードまで行くという。
俺が背負ってやると言ってもきかない。
「モギーさんより大きいもん」
ニーナが言った。もぐらの俺より8歳の人間の女の子の方が大きいのは仕方ない。
医師も少しなら大丈夫と言ったので、
ニーナには歩いてもらうことにした。
ここで医師とはお別れだ。
「かならずニーナをボーラの病院に連れていく。あんたも無事で」
そう言って医師と別れた。
この医師が無事でいてくれる確証はどこにもなかった。
明日はどうなるかわからない世界に彼らはいるのだ。
脇道を進み、俺のタクシーに着いた。
ニーナも無事タクシーに乗り込んだ。
ボーラまでモグラロードならあっという間だ。
さあ、急ごう。