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ヒロインの親友に転生したことですし、推しの死亡ルートをぶっ壊しますわ  作者: アオ
第7章

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51.決断と異変



王城に戻ったトピアスとヴィンスの元へ、駆け寄ってくる影があった。


「殿下!」


目に眩しい白い甲冑を纏った、ルカーシュである。

ガシャガシャ、と甲冑特有の金属音を鳴らしながら駆け寄るルカーシュの表情は暗い。


「捕らえた正史連について、だな」

「は……。その存在が明るみに出ました」


正史連、という名前があれど、その肩書を外せば彼らは“貴族”である。

貴族を拘束したとなると、その事実を隠し通すことは難しい。


「すでに保守派が動いております。

殿下が不当に貴族を拘束した、と……」


ルカーシュの声が固い。

トピアスもルカーシュからの報告を受け、その眉間に皺を刻む。


(先手を打たれたか────……)


今更考えても、もう遅い。事は起こってしまった。

起こってしまった出来事をなかったことにすることもできない。

トピアスは現状かき集められるだけの情報をルカーシュから受け取り、頭の中で整理する。


「……陛下に謁見を申し出る。

すぐにだ」

「はっ」


ルカーシュとヴィンスを伴い、トピアスは迷うことなく王の居る執務室へと向かった。


生まれ育った王城は、いかに広いといえどトピアスにとっては我が家である。

曲がり角を一度も間違えることなく進み、重厚な扉が開かれた。


そこには、すでに数名の貴族たちが集まっており、入ってきたトピアスへと視線を向ける。

中には保守派の貴族もおり、その視線はトピアスを抉る勢いで向けられた。


入口から入って正面に、豪奢な椅子に腰かけた男が低い声を出す。


「……トピアス」

「陛下、突然の入室申し訳ございません」


頭を下げ、腰をほぼ直角に曲げるトピアス。

重苦しい声と空気に、トピアスの額に汗が吹き出る。

トピアスの一歩後ろに控えるヴィンスとルカーシュも、その苦しいまでの空気に押しつぶされそうだった。


「報告は受けている。

貴族を不当に拘束している、と……」


王の発言は、一言一言がずしりと重く、トピアスの肩に伸し掛かる。


「申し開きがあるのならば────発言してみよ」


その言葉は機会であると同時に試練でもあった。

トピアスは顔を上げ、まっすぐに王の顔を見つめる。


そこには荘厳な王がいるだけで、トピアスの父はいなかった。

圧すらも感じるほどの、威厳ある姿に震えだしそうだった。


トピアスは震える足を一歩、前へと踏み出す。

同時に、王族としての仮面を被った。


「────陛下、本件は単なる拘束の是非ではございません」


静かに、しかしはっきりと。

明瞭に話すトピアスの声は、張り詰めた空気を震わせる。


「スヴァルトシェレナ、オーケリウム…

両国関係悪化の発端、その“真実”に関わる問題です」


ざわり、と場が揺れる。


「何を────」


誰かの声をさえぎるように、トピアスは続ける。


「現在、古代魔素遺構(デプス・コード)より発見された手記が確認されています」

「……手記だと?」

「そこには――海駆人の王の死、そして海詠人の王の断罪が、“仕組まれたものであった可能性”が記されています」


一瞬、沈黙が落ちた。


「────ば、馬鹿な……!」

「証拠もない戯言を――」

「そもそも、魔法研究塔(アルカ・ヴィーテ)の話なぞ、信用してはならん!」


ざわめきが広がる中、トピアスは一歩も引かない。


「証拠ならばある」


一歩も引くことのない、凛とした声に空気が凍る。


「そして、その真実を確かめる方法も存在している」

「な、何を……」


トピアスのまっすぐな言葉とは裏腹に、それぞれの思惑と困惑が混ざりあい、複雑に絡まっていく。


「────時遡行クロノ・リグレッションという魔法を、ご存知だろうか」


愚問だな、とトピアスの後ろでヴィンスは静かに笑う。

この場に居る貴族の殆どが保守派である。

保守派は塔を嫌うため、塔で研究されている魔法になど興味の欠片もないことを、トピアスは知っていて問いかけているのだ。


「その名の通り、時間遡行の魔法のことです」

「時間……遡行……!?」

「禁忌だ!時間を魔法で操るなど……!」

「外道だ!」

「そもそも、不可能だ!」


予想通りの声が上がる。

この場にヴェイルが居たら、さぞ面白いほどに混沌としただろう、とトピアスは少し残念に思う。


「結論から申し上げますと────可能です」


トピアスは断言する。

混乱する空気を一刀両断するほど、まっすぐな言葉に空気はざわめきもしない。


「そして、その鍵となる存在がいます」


一瞬だけ、言葉を区切る。

その一瞬、トピアスは躊躇した。

記憶の中で屈託なく笑う彼女の姿を思い出したから。

彼女を、こんな薄汚い貴族とのやり取りに利用などしたくなかった。


(……決めただろう。

塔を出るときに。俺は……)


王族として、自分の立場を精一杯利用し、この腐った歴史の真実を解き明かすのだと。

そもそも、そのために手に入れたアンジェリカ()なのだ。

彼女は命をかけてスヴァルトシェレナに来てくれた。

ここで利用せずして、いつ彼女の存在を利用するのだ。


トピアスは一瞬の思考の後、ゆっくりと肺に溜まった空気を吐き出すように続けた。


「アンジェリカという少女を保護しています。

彼女は――海詠人(ポエシア)海駆人(ロウファ)のハーフです」


再び、空気が揺れた。

どよめいた、と言ったほうが表現としては正しいだろう。

空気が揺れ、地面までも揺れているように感じる。


「……彼女の魔力保有量は、既存の枠を逸脱しています。

時遡行の発動条件を満たし得る、唯一の存在です」


王の視線が、わずかに鋭くなる。


「……続けよ」


その一言に、場の全てが沈黙した。

トピアスは息を整え、そして告げる。


「歴史の真実を、明らかにすべき時です」


その言葉が落ちた瞬間――


「────失礼いたします!」


場を切り裂くような声が響いた。

血相を変えて飛び込んできたのは、一人の伝令である。


「何事か」


王の威厳ある低い声が地面を這う。

伝令は息を切らしながらも姿勢を正し、まっすぐに王を見つめる。


「はっ、……スヴァルトシェレナ国宰相であらせられる、ハロルヴァ卿が倒れました」


その一言に、空気は一瞬凍り付き、そしてすぐに震えだした。

ざわめきが広がる中、ヴィンスは目を見開く。

この場に入室してきて感じていた違和感に、答えが出た。


(どうして見落としていた……?

宰相がこの場にいないことを……っ)


ハロルヴァ卿、ダリアの父はこの国の宰相であり、常に王の隣に立っていた。

それなのに、今この場にその姿さえないのだ。

トピアスにとっても寝耳に水であったようで、伝令の背中を困惑した瞳で見つめる。


「現在意識はなく、原因は不明。

王宮医師団による治療が始められております」


場はざわめく。病なのか、怪我なのか。

病だとすれば、それは流行り病なのか否か、憶測が飛び交う中で、トピアスとヴィンスの脳裏にだけ浮かび上がった不穏な単語に、冷や汗が背中を伝う。


(……まさか────毒なのか……)


ヴェイルの元で見た手記の内容が反芻される。

貴族間で毒が盛られるなど、珍しいことではない。

しかし、タイミングがタイミングである。


誰が、何故、どういう理由で。

すべてが謎に包まれている今、憶測で話を進めることは危険である。

トピアスもヴィンスも黙って事の成り行きを見守るしかなかった。


その時だった。


「――お騒がせしてしまい、申し訳ございません」


静かに、しかしよく通る声が響く。

振り向いた先に立っていたのは────ライラックだった。


「ライラック……」


トピアスの視線が鋭くなる。

ライラックは一礼し、ゆっくりと顔を上げる。

その表情には、悲しみとも取れる影が浮かんでいた。


「父が倒れたとのことで、私が代行として参りました」


その声音は、あまりにも整いすぎていた。

まるで、すべてを知っているかのように。


「以後のことは、この場にて私が引き継ぎます」


その言葉が落ちた瞬間――

誰もが気づかぬうちに、盤面はすでに動いていた。





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