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ヒロインの親友に転生したことですし、推しの死亡ルートをぶっ壊しますわ  作者: アオ
第6章

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49.思惑と弱点


「────……容体は安定したと聞いた」

「……殿下」


塔内の病室へと移されたダリア。

真っ白で清潔なベッドの隣に腰かけるヴィンスに声をかけたのは、トピアスだった。


「そんな死にそうな顔するなよ。

ダリア嬢が起きたら驚くだろう」

「……ああ」


トピアスの言葉に、ヴィンスは短く返す。

あの時────矢が放たれ、ダリアに突き刺さった瞬間……。


何がダリアを突き動かしたのか、分からない。

それでも、ヴィンス自身が危険に気が付く前にダリアは飛び出していた。

ヴィンス自身が撃たれたわけではないのに、あの瞬間の衝撃はヴィンスをも貫いた。


ギリッと皮膚が軋む音がする。

トピアスが音のするように目を向けると、ヴィンスが強く自身のこぶしを握りしめていた。


「……」


婚約者(ダリア)と────、うまくいけば良いと思っていた。

グレンフェル家の嫡男という立場は、ヴィンスの肩に重く伸し掛かっていた。

あちらこちらから上がる、グレンフェル家を陥れようとする悪意に満ちた声。

当然、トピアスの耳にも入っていた。乳兄弟でもあるヴィンスを、トピアスから離そうとする周囲の思惑に腹が立ち、年甲斐もなく報復に動いたこともあった。


ヴィンスは良い奴である。

それは、トピアス自身がよく知っていた。

どれほど根拠のない噂を浴びようとも、それを言い訳にせず、ただ前を向いて立ち続ける。

その姿は、すでに王太子の側近として申し分ないが、同時に危うさをも感じていた。


いつか、ヴィンスが壊れてしまうのではないか、と。


ふとした拍子に。

誰にも気づかれないまま。

ぽきりと、折れてしまうのではないか。

そんな予感が、拭えなかった。


トピアスにとって、ヴィンスはかけがえのない存在だ。

だからこそ──


彼には、支えが必要だと思った。

政治でも、執務でも、公の場でもなく。


もっと、内側の。

トピアスでは踏み込めない領域を、埋めてくれる存在が。

だがヴィンスは、それを拒む。

プライベートなど不要だと言わんばかりに、執務室にこもり、食事さえ抜く。

まるで、自分を削ることでしか立っていられないかのように。


そんな彼の“欠けた部分”を、誰かが補ってくれればと願った。

あわよくば、婚約者が。

──そんな、自分勝手な期待を。


押し付けるように……。


現在、トピアスの思惑通りに事は進んでいる。

二人は確実に距離を埋めていき、ヴィンスの危うさは徐々にその影を薄くしている。


そしてだんだんと、ダリアはヴィンスにとって、なくてはならない存在になりつつあった。


それは、トピアスにとってのヴィンスと同じ……。


(……かけがえのない存在は、

────弱点にもなる……)


ヴィンスがダリアを失ったら……


(今回ばかりは、ダリア嬢の魔力量の多さに助けられたな)


静かに規則正しく呼吸するダリアに視線を移す。

その滑らかな頬を、ヴィンスの指先がそっと撫でる。

無意識に伸ばしたその指先は、ダリアの体温を確かめるようだった。


「────あァ、良かった。

二人ともここに居たんだねェ」


そこに、間延びした声が入ってきた。

振り向かずともわかるが、トピアスとヴィンスは反射的に振り向く。


「ヴェイル……」

「あっは、二人とも無事で良かったねぇ。

俺に何か言うことあるんじゃない~?」


へらへらと笑うヴェイル。

トピアスたちが塔にやってきて、丸一日以上が経過している。

その間、ヴェイルが休憩している様子を一度も見ていない。

常に動き回っていて、神出鬼没にあちらこちらでその姿を見かける。

それなのに、目の前のヴェイルに疲労の色は見られない。

どこか不気味ささえ覚えつつも、ヴェイルの薄ら笑いに小さくため息をついた。


「……それで、何か用か?」

「あれぇ、そんな言い方ってなくねェ?

俺恩人のはずなのになぁ……。

まァ、良いや。二人に報告があるんだよ」


ヴェイルはそう言うと、病室から出るように促す。

トピアスはすぐにヴェイルの後に続いて病室から出ていく。

ヴィンスは名残惜しそうにダリアの髪を一束掬い、その毛先に唇を当てた。


「……また、あとで」


そう言ってヴィンスも、トピアスたちから少し遅れる形で病室を出た。


ヴェイルに促されるがまま入ったのは、執務室のような書斎のような場所。

ヴェイルが主に使用している部屋なのか、研究資料やら古代魔法の本、中には博識であるトピアスやヴィンスでさえ知らない言語で書かれた本までもが乱雑に散らばっている。


「お茶も出せずにごめんねェ」


まるで悪びれていない声音のヴェイルに、トピアスたちは何も返さない。


「それで、君たちを呼んだのには理由があるんだよね」


そう言いながらヴェイルはボタンがたくさん付いている小型の魔道具を取り出し、空中に向けた。

すると、その小型の魔道具から光が放たれ、空中に映像が投影される。


古代魔素遺構(デプス・コード)区分Ⅳ(オルド・セレス)へ潜ることに成功した」

「!?」


ヴェイルの発言は爆弾のように投下され、衝撃を生む。


「前回の研究では、区分Ⅲ(ルミエ・ヴァース)までが精いっぱいだと言っていなかったか?」

「あっは、まァ俺の日々の研鑽のおかげだよねぇ」


へらっと笑って見せるヴェイル。

その表情の裏側は分からない。


ヴェイルはボタンを操作し、投影される映像をページを捲るように変えていく。


「塔としては有益な情報だらけで涎ものだけど……。

殿下たちにとって有益なのは……あった、これだ」


一つの朽ちかけた本が投影される。


「これは?」

「ン~、いろいろ割愛するけど……。

区分Ⅳ(オルド・セレス)で見つけた手記のようなものだよ」

「手記?」

「そんな怖ェ顔しないでよ。

内容がかなり興味深かったんだからさぁ」


そういうとヴェイルは書きなぐられた資料とも呼べぬ紙をトピアスに手渡す。

トピアスとヴィンスは、言われる前にそこに綴られた文字に視線を添わせた。


「────これは……」


二人の瞳が、大きく見開かれる。


歴史が大きく動く音が、

────聞こえたような気がした。


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