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ヒロインの親友に転生したことですし、推しの死亡ルートをぶっ壊しますわ  作者: アオ
第6章

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48.時間の遡行と安寧


「────輸血量足りません!」

「血圧、下がっています!」

「止血術の方は!?」

「やっていますが、ダリア様の魔力量の方が上回るため、追いつきません!」


怒号に近い声が飛び交う。

胸に深く突き刺さった矢を抜く手術。

それ自体はそれほど難しい、複雑な手術ではなかった。


いざ傷口を確認してみると、突き刺さった矢は、ただの矢ではなかったことが分かった。

深く食い込んだ衝撃で、矢尻の機構が作動する。

鋭い金属の先端が、花弁のようにわずかに開き――

内側に折れ曲がった刃が、肉の奥で引っ掛かる形へと変形していた。


いわば“返し”だ。

一度食い込めば、引き抜こうとした瞬間にその刃がさらに肉を裂く。

無理に抜けば、傷口は広がり、出血は致命的なものになる。

つまりこの矢は、刺さった時点で“抜けないように作られている”のだ。


「……くっ、……」


────抜けない。

元々魔法医療官だった塔の職員の男は、唇を噛む。

(ここ)に来てからは手術という手術は殆ど行っておらず、腕が落ちているのは確かであった。

それでも、命を目の前にしたときの空気の重さというのは嫌でも体が覚えているもので、緊張が指先に絡んでうまく動かない。


(ダメだ。技術で勝負していては、ダリア様の体力が持たない……。

となれば、魔法を使用するしか……)


男は指先に集中した。

魔力を細く、濃くを意識し伸ばしていく。

広がった矢尻の花弁を元の形に戻す方法に移行した。

物理的な構造であり、魔法がかかっていない矢尻を物理的に元の状態に戻すには────……


「……時遡行クロノ・リグレッションを使う」

「!?」

「それは、消費魔力量が……!」


その場にいた全員がざわめく。


時遡行クロノ・リグレッション────その名の通り、時間を遡ることのできる魔法だ。


“時間”を戻す、進める、止める。

こういった魔法はタブー視されてきたが、男の知識欲は止められず、魔法医療官時代にこっそり研究していた。

時間を少しでも止めることが、戻すことができるのならば、それは医療にとって計り知れない進歩になる。

そう、信じて。


しかし、周囲はそうは思わなかった。

タブーに触れた者として、男を魔法医療官から追放したのだ。

しかし、男の研究内容に興味を持ったヴェイルが男を拾い、塔へと招いた。

そこから、男は塔で研究に没頭した。今までこっそりと続けていた反動のように。


研究の結果、植物を含む生命体に魔法をかけることはまだ出来ないが、有機物に対して魔法は有効だった。割れてしまったマグカップに時遡行クロノ・リグレッションを使用すれば、割れる前の状態に戻すことができる。


経年劣化したものに対しても有効ではあるが、遡れる時間は、魔法使用者の保有魔力に左右されるため経年劣化前に戻すことは難しい。


今回、矢尻を元に戻すには一時間から二時間ほどの遡行が必要である。

可能ではあるが膨大な魔力を消費するため、男は深呼吸して呼吸を整えた。


「止血術はそのままに、他の者は私に目いっぱいの魔力を送ってください」


その指示に、その場にいた者は深く頷いた。


「それでは、始めます。

────時遡行クロノ・リグレッション


黄色味がかった白い光が、その場を包み込む。

男は矢尻に集中し、矢尻が元の形に戻るイメージを鮮明に脳裏に浮かべる。




────……どのくらい経ったか、わからない。

体感時間としては丸一日以上経ったような気がする。

両手を強く握りしめていたせいで、ヴィンスの指先は白くなっていた。


「────グレンフェル殿」

「!!」


手術室の扉が開き、声をかけられたヴィンスは勢いよく顔を上げた。

手術を行っていた者だろうか。マスクをしたその顔色から、結果は読み取れない。


「だ、……ダリアは……っ」


声が震える。

ああ、どうか……。


男はマスクを外すと……、薄く微笑んだ。


「手術は成功です。ダリア様は生きておられますよ」

「────……っ、」


目頭が熱くなって、鼻の奥がツンと痛くなる。

喜びが溢れ、ヴィンスは叫びそうになるのをぐっと堪えて、変わりに小さくガッツポーズをした。


「止血量が多く、生命力を維持するために魔力も多く消費されています。

目が覚めるのはまだ先になりますが、ひとまず容体は安定しております」

「よ……、よか……った」


はぁ、と息を吐き、ヴィンスは椅子の上で脱力する。

侯爵家の令息がこのようなだらしない姿を見せることは良しとされないが、今日くらいは良いだろうとヴィンスは椅子の背もたれに自身の体を思い切り預けた。


ヴィンスは目を閉じる。

瞼の裏に浮かぶのは、輝く銀糸の髪と穏やかに笑う姿。


ああ、俺は。

君を失わずにすんで、こんなにも安堵している────……


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