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ヒロインの親友に転生したことですし、推しの死亡ルートをぶっ壊しますわ  作者: アオ
第6章

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47.治療と祈り


「────ヴェイル!

悪いが、今は説明している暇はない!」


トピアスが噛みつくような声でヴェイルに告げ、腕の中のアンジェリカに視線を落とす。

どうやら気を失っているだけのようではあるが、脈拍は乱れ、酷く苦しそうだった。


ヴェイルは血を流し倒れるダリアと、苦し気に呼吸を荒げるアンジェリカ、両方の姿を見て少しだけ思案する。


「……へぇ。

とりあえず、今は説明は良いよ。

さっさと二人を塔に連れて行こ」

「塔、だと……!?」


二人に必要なのは医療の力である。

トピアスはどこまでも自分勝手なヴェイルに怒りを向けたが、いつだってどこか飄々とした笑みを張り付けていたヴェイルが、真剣な眼差しを向けていた。


「殿下のお姫さまに必要なのは、魔法医療だよ。

それに、魔法医療はそっちのハロルヴァ嬢への治療もできる。

何より、正史連の手から逃れたいなら塔が最適解だと思うけど?」


普段と違い、間延びしない声は淡々と状況を整理していく。

ヴェイルの言うことは尤もであり、トピアスは奥歯を噛んで頷いた。


「……分かった。すぐに塔に向かう。

ルカーシュ、この場は任せた」

「承知いたしました」


トピアスはアンジェリカを、ヴィンスはダリアを抱えて立ち上がる。


「そんじゃあ、行こっかぁ」


ヴェイルが指先をパチンと鳴らすと、足元に魔法陣が浮かび上がった。

魔法陣は青白く光り────やがて、トピアスたちを包み込んだ。


「────……ここ、は……」

「塔だよ。初めてでもあるまいし」


一瞬の出来事に呆けるトピアスに、ヴェイルがどこか雑に答えを投げる。


「なっ、さっきまで王城にいたはずで────……」

「転移魔法、だよ」

「転移魔法……!?」

「そんなことより殿下、今はお姫さまたちをどうにかしないとでしょ」


いろいろと聞きたいことは山積みであったが、今はヴェイルの言う通り、アンジェリカ達を優先すべきである。そう判断したトピアスはヴェイルの後を急いで追いかけた。


「殿下はお姫さまをその魔法陣の真ん中に寝かせて。

グレンフェル殿はこっち」


ヴェイルはその場にいた塔の職員たちにも、てきぱきと指示を飛ばしていく。

トピアスもヴィンスも言われた通りに動くことしかできなかった。


「────じゃあ、ハロルヴァ嬢の治療は頼んだよ」

「お任せください」


ヴェイルはその場にいた複数の職員に指示を出すと、その場から離れる。

ダリアが運ばれたのは白い清潔なベッドと医療道具が整然と並ぶ部屋だった。


「これから処置を始めます。

グレンフェル殿は申し訳ありませんが、ご退室ください」


ダリアの怪我は胸元である。

いくら婚約者といえど、プライバシーを守るためにヴィンスは退室を求められ、素直に応じて部屋から出た。しかし、ダリアから離れた途端腕が信じられないほど震え始めた。


先ほどまで抱いていた温もりが離れ、一気に不安感がヴィンスを呑み込む。

ダリアを失うかもしれない、という恐怖がヴィンスの指先に纏わりついて体温を奪っていく。


(……ダリア……)


少しでも気を紛らわせるために、ヴィンスは両手を握りしめて俯いた。

ああ、どうか神様……。そう、願わずにはいられなかった。




────……一方、トピアスは部屋いっぱいに大きく描かれた魔法陣の上にアンジェリカを寝かせ、離れたところで状況を見守っていた。


十人を超える職員が慌ただしく部屋中を駆け回り、壁の文様も急かすように点滅していた。


「ヴェイル、アンジェリカ嬢は……っ」


ダリアの元から戻ってきたヴェイルを捕まえ、そう問いただすトピアスの声は震えている。

ヴェイルは短くため息を吐いて、手元の書類を捲った。


「……午後二十一時三十七分、爆発的な魔力の増幅を王城付近にて確認。

現在、午後二十二時四分……。まあ、ギリギリかな」


書類と腕時計を交互に見やり、ヴェイルはそう言うと職員たちに位置に就くよう声をかけた。


「ぎ、ギリギリって……、一体どうなるんだ……!?」

「殿下、説明は後。今は時間との勝負だ」


不安に塗れ、とても王族とは言い難い表情でヴェイルに縋るトピアスを、ヴェイルは冷たく突き放す。

しかし、時間との勝負と言われてしまえば、トピアスもそれ以上食い下がることはできない。

説明は後でも聞けるのであれば、今はとにかくアンジェリカの無事を祈るだけだった。


「────総員、位置に就いたね。

それじゃあ、魔力を注ぐよ。三、二……一……!」


職員たちはそれぞれ魔法陣の外側に立ち、魔法陣に両手を置いて、ヴェイルの合図とともに魔力を流し込む。


「四番と七番、魔力量が多いよ。調節して。

十一番は少ない」

「はい!」


ヴェイル自身も両手を魔法陣に置き、流れ込む魔力を均等にしていく。

的確な指示を受け、職員たちはそれぞれ魔力量を調節する。

すると、色のない紙にインクが滲んでいくように、魔法陣をなぞるように光が床を走る。

トピアスが隣のヴェイルに視線をやると、その額には汗が滲んでいた。


「くっ……、全員魔力を12%増やして!」

「はい!」


ようやく魔法陣全体が輝きはじめ、淡い白い光がアンジェリカを包み込む。

アンジェリカの体がふわりと浮かび、その体が輝き始めた。


どこか幻想的な光景に、トピアスは言葉を失う。

どのくらい経ったか、少しずつ光は弱くなっていき、アンジェリカの体はゆっくりと地面に降りた。


「はぁ……はぁ……っ」


ヴェイルを含め、その場の職員全員が汗だくで呼吸を荒くする。

アンジェリカの体が輝きを失うと同時に魔法陣の光も消え、その場にいた者は全員倒れるように崩れた。


「ど、どうなったんだ……!?」

「……はぁ……とりあえず、一命は取り留めたよ」


汗が頬を伝い、それを拭いながらヴェイルは笑った。

トピアスもヴェイルの答えを受け、その場に膝から崩れ、脱力する。


「よ……良かった……っ」

「……さあ、お姫さまをベッドに運ぶよ。

そのくらい手伝ってよね、殿下」

「あ、ああ。もちろん」


まだ疲労が残ってはいるものの、やることは終わっていない。

ヴェイルが立ち上がるとトピアスもすぐに立ち上がってアンジェリカへと駆け寄る。

先ほどまでの苦し気な表情はなく、穏やかに眠っているようだった。


(良かった、本当に……。

君を失ったら、俺は────……)


その先に続く言葉は、まだ分からない。

俺は、どうしただろうか。


きっと王位に就くことに変わりはない。

健やかに生きていくだろうし、公務に忙殺されることも変わらない。


これから先の人生、敷かれたレールに変わりはないのだろうけれど……。

それでもきっと、何かが足りなくなる。


それを言葉で形容することはまだ難しくて。

トピアスの芽生えた淡い想いは、ほんの少しだけその色を濃くした。


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