02. 世界の終わり────暴走と断罪
王が倒れ、すべてが静止した。
――と思ったのは束の間。
怒号と悲鳴が飛び交い、憎悪の視線が海詠人の王へと集中する。
「……王を毒殺したのは、お前たちだ!」
海駆人の側近が叫んだ瞬間、空気が変わった。
海詠人の王は、目を閉じたまま何も言わない。
沈黙の裏にあったのは、深い悲しみか、それとも絶望か。
……そして、次の瞬間だった。
────世界が、揺れた。
理性が、ひとつ崩れる。
そのたった一瞬で、すべてが狂い始めた。
王族というだけで桁違いの魔力量を持つ海詠人の王。
その魔力は普段、冷静な知性の元体内で緻密な魔力制御により完璧にコントロールされているはずだった。
だが、怒り、憎しみ、後悔、絶望。
あらゆる感情が一気に溢れ出した時──
制御を失った魔力が、空間を割くほどの“暴走”を始めた。
最初に気づいたのは、海詠人王の側近と海駆人の宮廷魔術師だった。
「──ダメだ、このままでは……!」
魔力の奔流は、まるで嵐のように世界を包み始める。
誰もが身をすくめ、祈るように立ち尽くす中────
ひとり、動いた者がいた。
「世界の崩壊など、させてなるものか!」
オーケリウムの王弟である。
彼は剣を抜き、光の壁に包まれた海詠人王のもとへと飛び込む。
最初の一撃は、跳ね返された。
「……まだだっ!」
彼は再び剣を構え、身体強化と重力操作の魔法を重ねがける。
全身の力を込め、最後の一撃を振り下ろした。
────剣は、王の首を貫いた。
ごとり、と何かが落ちる音。
防げなかった魔力は空へと放たれ、爆風のように広がっていく。
その場にいた魔術師が慌てて結界を張る。
けれど、すべてを守るには遅すぎた。
まばゆい閃光と、大地を揺るがす衝撃。
その場にいた者の半数は命を落とし、残る者たちも意識を失った。
────目を覚ました時、そこにあったのは、荒廃だった。
かつて魔法に満ちたこの世界は、
海詠人の王が暴走させた魔力の奔流によって焼き尽くされていた。
こうして、ふたつの国の関係は断絶され、
世界は、決して戻らぬ分断と悲劇を抱え込んだのだった。
歴史は溶ける
永く、永い時の中で。