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ヒロインの親友に転生したことですし、推しの死亡ルートをぶっ壊しますわ  作者: アオ
第2章

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12. 淡い友愛とカーテシー


王都中央騎士団(セントリオ・レギオス)を訪問して、数日が経った。

ハロルヴァ邸にいる間は、ダリアがみっちりとアンジェリカに礼儀、マナーを教え続けている。

まず、これから先ルカーシュだけでなくトピアスは勿論、ディックに会う機会も控えているため、徹底してアンジェリカにはカーテシーを教えた。


「背筋はまっすぐ、右足を引いて……そう」

「……、」


体幹が弱いと、カーテシーはふらついてしまう。

アンジェリカも練習を始めて二日経ったが、そもそもの体幹が備わっていないからか片足を引いた際に上体のふらつきが見られた。


「うわぁん、無理です、ダリア様……」


ふるふると生まれたての小動物のように震えるアンジェリカに、ダリアは思わず小さく笑う。


「ふふっ、……アンジェリカさん、最初よりもずっと上達していますよ」


ダリアの言葉に、アンジェリカは眉根を寄せた。


「ダリア様、呼び方が戻っています」

「あ、……そうね、()()()()


不満そうなアンジェリカにダリアは微笑み、呼び方を改める。王都中央騎士団(セントリオ・レギオス)に行った日の帰りの馬車で、ダリアはアンジェリカにマナー面で足りない部分を提示し、今後どうしていくかを明確に伝えた。


「────……と、言う訳で今後ハロルヴァ邸にいる間はなるべくマナーを意識していきましょう。それとアンジェリカさんの────……」

「あ、あの」


ダリアの言葉を遮り、アンジェリカが小さく手を挙げる。

身分が上の人の言葉を遮るなどあってはならないことだけれど、マナー云々の前にアンジェリカの性格上言葉を遮るようなことはしない。何か思うことがあったのだろう、と寛容にし、ダリアはアンジェリカの言葉の続きを待つ。


「ダリア様、私には気軽に呼んでほしいと仰ったのですから、私のことももっと気軽に呼んで頂けませんか……。ダリア様に敬称をつけて呼ばれるのはどうしても違和感があって……」


アンジェリカの言葉にダリアはふむ、と軽く握った拳を顎に当てた。

そして再び、無意識のうちの前世の記憶が脳裏を駆け巡る。


( そう、確か……オシラブでは攻略対象の好感度が上がると、ヒロインのことを愛称で呼んでいたわ。その時も攻略対象側から先に気軽に呼ぶように呼び掛けて……あ、 )


ダリア自身は攻略対象ではなくヘルプキャラではあったものの、友情パラメーターはあった。

攻略対象者と違い、ダリアとのイベントの発生や二人のスチルはなかったが、『恋磨き』をある程度回数をこなし、ダリアとの友情パラメーターを30%まで向上させると


『これから、貴方のことを“アンジー”と呼んでも良いかしら』


という台詞が『恋磨き』でそれぞれのスキルを選択する場面で流れるのだ。ちなみに「アンジー」はデフォルトの場合であり、設定した愛称があればその名で呼ばれる。

ストーリーでもアンジェリカを領民たちから救出した際に自分のことを気軽に呼ぶよう提案していた為、アンジェリカを愛称呼びする条件は揃っていた。


( なるほど、私がこれからマナーを意識するよう伝えたことで『恋磨き』の『魅力』が選択され、愛称呼びに繋がったのね )


ダリアの中で謎が解け、アンジェリカに微笑みかける。


「そうね、では……貴方のことを“アンジー”と呼んでも良いかしら」


ゲームと変わらない台詞をなぞると、アンジェリカは目を見開き口角を持ち上げた。

表情が明るくなり、ダリアは何か良いことをしたような気になり、アンジェリカに釣られるように微笑む。


「はい!勿論です!」


そんなやり取りを経て、ダリアはアンジェリカを“アンジー”と呼ぶようになったのだ。

ただ、まだ愛称呼びに慣れていないダリアは時折元の敬称付きで呼んでしまう。


「徐々に慣れていくわ」

「ありがとうございます! ダリア様に愛称で呼ばれるの嬉しいんです。私を愛称で呼んでくれる人はもう、いないから……」


言葉の端に影を落とすアンジェリカ。

ダリアはゲーム内のオープニングでさらっと触れられた、両親はおらず教会で育ったという程度にしか、アンジェリカの過去を知らない。そんな薄っぺらい情報だけで、アンジェリカを慰めることなどできず、ダリアは俯くアンジェリカの寂し気な表情を見つめることしかできなかった。


「────……すみません、暗くなってしまいましたね。ダリア様、もう一度やってみても良いですか?」


アンジェリカはパッと顔を上げて気持ちを切り替えると、再びダリアの前に体を正面に向けて立つ。

ダリア自身も下手に詮索せず、マナーレッスンの続きを行うべきだな、と判断し、アンジェリカに向き直った。


「ええ、厳しくいくわよ」

「ふふ、お手柔らかにお願いします」


ダリアとアンジェリカは互いに目を合わせ、穏やかに微笑む。


( ねぇ、アンジー。(わたくし)……、ヴィンス様(推し)の死亡ルートを壊すのは勿論だけど……、貴方が幸せになるためのルートも、諦めないからね )


体がふらつかないよう必死に姿勢を正すアンジェリカを見ながら、アンジェリカの幸せを願う。

そういえば「アンジェリカの家庭教師で忙しいから」という尤もらしい理由をくっつけ、ヴィンスと会わなくなってしばらく経つな、とどこか他人事のように思い出す。

忙しいダリアを気遣ってか、ヴィンスからの手紙の頻度も減ったように思う。


( 知力面のサポーターがヴィンス様じゃないということも、影響しているのかしら…… )


原作とは違う設定に、やはりダリアの胸の内はざわつく。

早めにヴィンスと会って、状況を確かめた方が良いかもしれない、と、アンジェリカのレッスンが終わったらヴィンスに手紙を出そうと人知れず決意し、ダリアは目の前で一生懸命カーテシーの練習を行うアンジェリカに意識を集中させた。





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