際限2
「もういないよ。」
あろうことか-唯々が眼前にいた。「唯々…?」
「バケモノも皆いなくなったよ。」
「ど…どういうこと…?ね、え」
おかえり、今すぐにもそう言いそうな気色で彼女は言った。
「私が食べちゃったの。」
食べた?理解出来ずに復唱してしまう。何を?何を言っている?
「三津子に記憶がないのは唯々が食べたから。お母さんもお父さんもペットも食べてあげた。」
唯々は見慣れた朗らかな笑みを貼り付けたまま続ける。
「三津子がバケモノに襲われないのは唯々がいちばん強いから。」
「う、嘘だよね…?」
「バケモノはね、みんなね。私が食べちゃったの。」
三津子は弾かれたように、唯々から離れた。その足のまま走り出した。血と汚水と食べ物が入り交じる悪臭を振り払い、階段を駆け上がり-走って走って都市の合間を縫う。
このまま自分がバケモノになってしまったらどんなにいいだろう。理性を失い、何もかも忘れてしまえたら。
感情に身を任せ、声をはりあげ-三津子は疾走した。
「はあ…はあ」
かつて駅と呼ばれた建物にたどり着き、壁に寄りかかった。5本の指、擦り傷のついた皮膚、黒い髪…自身は「まだ」人間のままだ。
「どうしてよ…!どうして!」
三津子は人間だった。今までも、これからも。