5/9
信じていい?
夜の帳が下り都市は暗闇に沈んでいた。窓の外は墨を塗りたくった黒で、月も出ていない。ロウソクの灯火だけが天井や壁をやんわりと照らした。
新月の日は緊張する。いつどこからバケモノが現れて、唯々を食べてしまわないか…そんな強迫観念の如し想像が脳裏を過り、眠れなくなる。-彼女と出会い親しくなり、一緒に寝るのを許した時からだ。
火がうねる度に影が動く。誰かが来たような気がして、嫌な気分になる。唯々がその影を眺めながらポツリと呟いた。
「最近空気がおかしいね。」
「なんで?」
「なんだかザワザワしてるの。三津子はどう?」
時折不思議なことを言うのが唯々だった。何もかも見透かしているみたいに。
「ザワザワ?」
「三津子の気持ちも、皆もザワザワしているわ。私はこのザワザワが全てを変えてしまわないか心配なの。今こうして2人でいられる時間がなくなってしまいそうで…。」
「何言ってるのよ、唯々。変わるものか。絶対に変わらせないよ。」
「本当に?信じていい?」
橙色になった彼女の顔がもぞりと動く。
「うん。絶対だよ。」
自信を持って答えられる。絶対に、絶対だ。