蝕む闇 2
闇市場はデパ地下と呼ばれていた場所にある。使い古された発電機が発する臭いと提灯を通した赤い光、どこから沸いてくるのかというほどの人々が空間を満たしていた。
衛生面はとても悪く、食品の香りに汚水臭さも入り交じる。しかし隠れて暮らす都市の人々には輝いて見えるほど、生活必需品が揃っていた。
「知ってるか?外からバケモノが入り込んだらしい。」
「やだわ…バケモノって人にも化けるんでしょ?どこからきたのかしら?」
「バケモノってさ、人に化けても挙動がおかしいんでしょ?」
「こわい…。」
喧騒で包まれている市場は常日頃とは違った。往く人々がバケモノの話で持ちきりになっている。外からバケモノがやってきた。外から-都市圏から、それともビル群の向こうにあるという住宅街から?
誰だ?わからない。あいつか?混乱する人混みを慌ててかき分け、三津子は逃げる。なるべく平生を装い、用事があり急いでいる人を演じた。
バケモノだとバレてしまったらこの場で殺されてしまう。恐怖で体が震える。
惣菜を買うのも放って、三津子はマンションに逃げ帰った。玄関の鍵とチェーンをかけ、コートを放り出しリビングに立ちすくむ。
異変を感じとった唯々がびっくりした様相でやってきた。
「どうしたの?」
「なんでもない。なんでもない…よ。」
この子には関係ない。外敵からの恐怖も感じさせたくはなかった。無理矢理笑みを作り、何事もなかったように振る舞う。
「ごはん、買い忘れただけ」
「そんなわけないでしょ。だって…」
そっと体を、柔らかく抱きしめる。震える三津子の背中をさすり、甘ったるい声音で。
「三津子、いつも何かに怯えてる。今日はそれがひどいよ。怖いものでもみた?一緒に寝よう?」
唯々は全てを肯定してくれた、そう思えた。孤独感を和らげてくれる。-三津子は刻りと頷いて、返事を返した。
「同じ布団で寝よう。」