蝕む闇
人気のない小さな公園で三津子はぼんやりしていた。唯々にも1人の時間が必要だろうと考慮した結果、こうして良く外に出てぼうっとする。
冬のツンとした空気が皮膚を撫で、ポケットに手を突っ込み暖を取る。暑いよりはマシだとは思う、と三津子にとって冬は行動しやすい季節だった。
平野部の冬季は快晴が多く、今日も雲ひとつなく晴れていた。枯れ草が生えた公園はもはや草原である。人が長らく手入れされていない印だ。
バケモノすらいないうら寂しい午前である。
…バケモノは黒いモヤを纏う、形容しがたい姿をしている。とはいえ実際にみたことがなく、風の噂程度の認知度であった。当初は頻繁に現れたバケモノも人口が減るにつれ、姿を表さなくなった。
闇に紛れ、捕食対象を狙っているのだと言われている。それか闇そのものだと。
三津子は手を眺めながら、己を構成している細胞は本物か疑う。もし自らが闇そのものだとするのなら、質量を持っているのは不思議だ。化ける、という能力は万能なのだろうか?
とはいえ昼間にも闇は存在すると考える。光がある以上どこにでもバケモノは存在してしまうのではないか。
-まさか、人の妄想が具現化したモノなのではないか?
「おやおや、どうなすった。お嬢さん。そんなに自分の手が気になるのかい?」
ふいにかけられた声に顔を上げると、初老の男性が杖をつきながらこちらに歩み寄ってきた。
「珍しいなぁ。こんな真昼間に外にいるなんて」
「あ…いや。」
老人はよっこいしょ、と近く遊具に座るとニコニコと三津子を見た。
「何を考えていたんだい。悩み事かね?」
「…笑わないでくれますか?…バケモノについて、ちょっと考え事をしていて…。」
ガッハッハッと彼は笑った。
「ほう、ヘンテコなお嬢さんだ。知ってるかい?異形にもヒエラルキーがあるのだそうだよ。人と一緒で、社会性があるらしい。」
「へえ…よく知っていますね。」
「私はね、バケモノについては詳しいんだ。この町にはいるのかねえ。頂点に立つモノは…。」
バケモノの専門家なのだろうか?…老人というのは知識を語りたがるものだ。愛想笑いをしながら耳を傾ける。
「しかしね。ここいらでバケモノをみたことがないな。自分は外からやってきたのだがね、こう歩いていてバケモノが1匹もいないのは異常な場所だよ。」
「へえ…。」
老人は日向ぼっこしていくのだそうだ。なんだか気まずくなり、三津子は公園を去ることにした。
「また会おう。」