はじまり2
彼女は人間らしく外にでない。外に出るとバケモノに食べられてしまうからだ。
だから闇市で売られている食材を自分が調達しにいく。
いつか世界からバケモノがいなくなったら、2人で「外」へ行きたいと思っている。色んなものを見て、触れて、彼女が笑っているのを見ていたい。
「おかえりなさい。」
柔らかい笑みを浮かべ、おっとりとした雰囲気で出迎えてくれる。希少な人類の生き残り-彼女は唯々といった。
「今日は何を買ってきたの?」
「唐揚げと白米と…あとはお惣菜かな。」
「わあ、すごい!今日はご馳走だねっ!」
にっこりと素直に喜ぶ唯々を三津子は見守る。遅めのランチの用意を2人でしながら、今日は何をしようか、と話し合う。
「今日は何もしないようにしよう。」と唯々は言った。
用意といっても電化製品は使えないので、食べ物を皿にトッピングしテーブルに並べるだけだ。
かつてこの部屋で生活していた人々が置いていった電化製品や家具は薄埃を被り放置されている。子供部屋もあり、家族が住んでいたようである。
2人が住まうには広いぐらいだが、ここは2人のかけがえのない住処なのだ。
「ねえ、最近寒くなってきたら2人で寝ようよ。」
唯々がふざけた提案をする。
「同じ部屋で寝てるんだから2人で寝てるようなものでしょ。」
「同じ布団で寝るの。」
「…もっと寒くなってきたら、考えてあげる。」
食後はビリビリに破けたカーテンから差し込む陽射しを見ながら過ごした。暖かく降り注ぐ太陽光とは裏腹に外はシンと静まり返っている。バケモノが生物を捕食してしまっているから。
地球という星の生態系は徐々に壊れていっている。緩やかに蝕まれ、最後はバケモノだけの星になる。そうなると食物連鎖の頂点であるバケモノはどうなってしまうのだろう。
「何もしないとこのまま床になっちゃいそうだね。」
床に寝そべりながらポツリと零す。すると唯々は何がおかしいのか笑った。
「三津子は三津子のままだよ。何があったって。」