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人生を諦めた少年は4人の魔王をその身に宿しているようです  作者: 鈴川バウ
口の悪い魔人と俺様ノルト
9/20

009.お嬢様、大いに喜ぶ

 ノルトの嫌な予感は当たる。


 現場は町長の、つまりアンナの家であり、つい数日前まで彼も寝泊まりしていた所だった。


 そのすぐ近くで3匹の巨大な魔物が暴れ狂っている。


 この辺りが町の中心で、西の方からここまでの建物が倒壊、破壊されている所を見ると同じ様に暴れ回りながらほぼ一直線にここまで辿り着いたのだろう。


「何じゃあれは」

「ありゃ合成魔物(キメラ)だな。マクルルの言う通り、どの魔界でも見たことねー」


 ドーンとロゼルタは、魔物が暴れるのを遠巻きに眺める人混みに紛れ、小声で言い合う。


 既に町長の家は化け物達によって半壊と言えるほど破壊されていた。


 その2階、そこでチラリと人影が動いた。


「えっ! まさか、お嬢様?」


 吹き曝しの状態であったがはっきりとは見えない。だが一瞬、何かの家具にしがみ付く人影が見えた気がした。


 無論アンナではないかもしれない。


 メイド、もしくは単なる見間違いかもしれない。


 不安げなノルトの表情に気付いたテスラが、「どうした、知り合いか?」と彼の身長に合わせ前屈みになり、小声で聞いた。


「はっきりと見えなかったんですがアンナ、アンナお嬢様があの2階の部屋にいるかも!」

「惚れてんのか?」

「ほ……やっ、そんなんじゃないです! ただとてもお世話になった方なんです」


 その返事で何を思ったか、テスラは意地悪そうにニヤリと笑う。


「ヘッヘッヘ。そういう事にしといてやるよ。よしロゼルタには黙って助けに行くぞ」

「誰に黙って、だと?」

「……!」


 ノルトとテスラが見上げると腕組みをして2人を見下ろすロゼルタの姿がそこにあった。


「全くテメーは暴れる事しか脳がないのか? だから脳筋だっつーんだよ」


 テスラも立ち上がって言い返す。


「やかましいわ。上から物言いやがって。ノルトの惚れた女だぞ? 助けてやりてーじゃねーか」


 思ってもいなかった彼の言葉に一瞬面食らった顔のロゼルタだったが、すぐにノルトを見、「本当か?」と尋ねた。


「いや惚れたとかは……でもとてもお世話になった方なんです。見間違いかも、知れないですけど……」


 少し考えたロゼルタだったが、笑いもせずに頷いた。


「受けた恩は返せ。もっとちゃんと見える所まで近付こう。見間違いならそれでいい」

「ありがとうございます!」

「そうこなくっちゃ」


 テスラが飛び上がって喜ぶ。

 ロゼルタはドーンとマクルルにこの場にいる様にと口早に言うと、容易くノルトを小脇に抱える。


 テスラと共に人間離れしたスピードで野次馬の間をすり抜け、あっという間に魔物達が暴れている手前まできた。


 ノルトを下ろし、2階が最も見える位置へと少し移動した彼らはもう一度しっかり見てみろとノルトに言う。


 彼は眉を寄せ、暫く2階を睨む様にして見つめた。


「……」


 だが人の姿は見えなかった。

 彼の位置から見えているのは確かにアンナの部屋の中の様だったが角度的に奥の方や床などは見えない。


「やっぱり、見間違い、かも……」


 そう呟いた時、魔物の腕がその2階の部屋に目掛けて大きく振り上げられた。


 それと同時に中から「いやぁ!」という叫び声が聞こえた。


「お嬢様の声だ!」


 ノルトが叫ぶと同時にテスラは飛び出し、腰の大剣を抜き放ち、振り上げられたその巨大な魔物の腕をいとも容易く、バッサリと斬り落としていた。


「姫を助けるのは王子の役目だぜ?」


 ロゼルタはノルトにウインクしてそう言い様、再び彼を抱き抱え、人化して力が落ちているとは到底思えない速さで魔物の間を縫う様に走り、半壊した家の真下に数秒かからず辿り着く。


「2階まで放り投げてやる。魔物はあたしらに任せてお前はお姫様のとこへ行って安心させてやれ」

「ほ、放り投げるって」


 言うが早いかロゼルタは手のひらにノルトの尻を乗せて肩口に抱え上げると、彼が最後まで言う前に、ぽっかりと口を開けている2階へと放り投げた。


 その見事な力加減によって放物線を描いたノルトは、アンナの部屋へと綺麗に転がり込んだ。


「ひぃぃっ! こ、今度は何!?……ん? え? ノ、ノルト?」


 予想通り、そこにいたのはアンナだった。


 奥のベッドの隅にしがみついて、突然転がり込んできたノルトに目を大きくして叫ぶ。


 その姿はいつもの可愛らしいワンピースだけでなく、珍しくその下にズボンを履き、帯剣までしていた。


「お嬢様! よかった、お怪我はありませんか!?」


 地震の様な地響きが続く中、よろよろと千鳥足になりながらアンナへと近付いた。


 あんぐりと口を開けたままのアンナは、


「どうして、こんなとこにいるの?」


 と状況に似つかわしくない質問をした。


「す、すみません」

「助けに……来てくれたの?」

「はい! お嬢様、まずは……」

「ノルト!」


 彼が来るのを待たず、アンナが飛びつく様に抱き着いた。


 ロゼルタに比べれば見劣りするものの、しっかりと膨らみを持つ2つの果実が柔らかくノルトの胸の辺りを押す。


 それと同時に鼻腔に広がるアンナの匂い。


 サーサランの花から作られる香水の、ほのかな甘さと酸っぱさが入り混じったその匂いは、ほんの数日間離れただけのノルトに懐かしさを覚えさせた。


 アンナは両手に力を込めてノルトを抱き、彼の首筋に自分の鼻の辺りを擦り付けた。


(へ……?)


 それはノルトにとってはまたも生まれて初めての経験。魔物が暴れているという状況は一瞬頭から消え、ただただ顔を真っ赤にして立ち尽くすのみだった。


「あ……あ、あの、お、お嬢、様?」


 その声でアンナが我に返った。


 思ってもみなかった自分の行動にすぐに体を離し、こちらもノルトに負けない程顔を赤らめて勢いよく首を振った。


「いいい今のは! ち、違うんだから! そそ、そういう意味じゃない、ないから!」


 こちらも魔物を無視した所に意識がいっている様だった。顔を茹で上がらせた2人が微妙な距離で向かい合う。


 だがノルトが一瞬早く正気に戻る。


「そ、それでお嬢様。とにかく下に、1階に降りて家を出ましょう。ここは危ない」


 家が傾いているからか、ネジ切れる様に外れている奥の扉から出て行こうとするノルトの手をアンナが引っ張り、小さく首を振った。


「ダメ。いるの、1階に……変なのが」



 ◆◇


 野次馬達の中に紛れたドーンとマクルル。


 彼らはテスラとロゼルタの戦いを他の人間達と同じ様に見物していた。


 だがすぐに目の前で暴れ狂う魔物とは別の気配を察知する。


「おかしいのう。気配は()()あるのにデカブツの合成魔物(キメラ)3匹しか見当たらんではないか」


 マクルルの肩に乗り、四方を見渡しながら言う。


「いる。外にいる奴よりも強力な合成魔物(キメラ)だ」

「うーむ。一体どこに?」

「とても近くにいる。位置的には……あの建物の()だろう」


 マクルルが町長の家を指差した。


「ほう。となると……馬鹿者、何を悠長にしとるんじゃ! ノルトが危ない!」

「しっかり捕まっていろ」

「急げ!」


 人山の頭上を一気に飛び越え、先程のテスラ達をも凌ぐスピードでアンナの家へと向かった。



 ◆◇


「なかなかタフな奴らだ。痛みってのがねーのか? 合成魔物(キメラ)ってのは面倒くせえ」


 人化しているロゼルタの武器は短剣だった。普段はスカートの中の太腿に括り付けてあるらしい。


 これ程の大きな魔物を相手にするには不相応なものであるが、ロゼルタの手にかかるとそれも両手剣(バスタードソード)並の殺傷力を持った武器と化す。


 その横では、


「これで、終わりだ!」


 嬉々として暴れ回るテスラが目を血走らせて吠える。


 3体の合成魔物(キメラ)は2人によって動かぬ肉片と化した。


「何だったんだろうな、こいつら」


 足元に転がるそれを蹴り上げ、テスラが呟く。その肩をグイッと捕まえたロゼルタが目を吊り上がらせた。


「テスラ! もう1匹、どこかにいるぞ」

「ん? ……おい、ヤベーぞ。この家ん中だ」

「ああ、飛べ!」


 ロゼルタが叫んだ直後、彼らの頭上を『魔法の矢(マジックアロー)』が数本飛んで行き、アンナの部屋の中に着弾した!


「な……クソッ! 一体何が!」


 2人は先程ノルトを放り投げた2階へと、並んで飛び上がった。



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