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人生を諦めた少年は4人の魔王をその身に宿しているようです  作者: 鈴川バウ
口の悪い魔人と俺様ノルト
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007.英雄リド=マルストという男

 道中、ノルトは会話によく出ていた『リド=マルスト』という名前の人間について尋ねてみた。


 するとつい今しがたまで機嫌の良かったロゼルタの表情がみるみる曇り、顔を顰め出すではないか。


 いやロゼルタだけではない。


 テスラも舌打ちをし、ドーンも表情が暗くなった。


「あ、あの、すみません。何でもないです」

「いや……教えてやる。ピュアなお前にゃちょいと刺激が強いかもしれねーが、むしろ人間のお前こそよく知っておくべきだ。人間達の間で『英雄』として祭り上げられているあのクソゴミヤローの事を」


 酷い言い様だった。それだけで憎悪の程が知れるというものだった。



 ◆◇◆◇


 人間が多く住まう人間界と魔族が住む魔界は陸地続きであったが、特に目立った諍いも無く、比較的『無関係』な状態で共存していた。


 30年前までは。



 リドは幼い頃、ラクニール王国にあるスラム街の孤児だった。


 生まれつき魔力には全く恵まれなかった彼だったが高名な旅の剣士フェルマに手解きを受けた事で剣の素質が開花、すぐにその腕は近隣に鳴り響く。


 やがてラクニール王国の衛士長になった彼は、王子達の剣術指南役に任命されるまでになった。


 頭角を現し出した彼に目をつけた貴族によって地位とマルストの名前を与えられ、黒狼騎士団長リド=マルストと名乗る様になる。



 時の国王、ラクニール3世による貴族至上主義の政治は、多大な貧富の差を生み国民の不満が募っていた。


 そこで考え出されたのが、


『魔族が人間を滅ぼしにやってくる』


 というでっちあげだった。


 それは思いの外、功を奏し国民を恐怖に陥れ、不満を逸らす事に成功した。


 大々的に発令した『魔界討伐令』の元、強大な魔物や魔神達に立ち向かう役にリドが抜擢され、国民から英雄視された。


 リドは後に人類を救った『英雄パーティ』と呼ばれる事になる5人のパーティのリーダーとなる。


 そのパーティを中心とし、人間界の協力の元、各国の軍隊を引き連れて死の国ファトランテ、蛮人の国デルピラ、魔女の国メルタノ、古の魔界スルークの4つの魔界を順次攻略、この世から殆どの魔族を駆逐した。


 ◆◇◆◇



「ここまでであれば奴は英雄であろう。魔界への侵略が不純な動機であるにしても」とロゼルタ。


 自分達の国を、いわばただの言い掛かりで攻められ、滅ぼされたのだから彼ら魔族の憤りは想像に難しくない。


 だがそれだけではないらしい。


「問題は奴のやり方、そして人間界には伝えられていない、儂ら魔族に対する蛮行なのだ」


 ドーンが珍しく悔しそうに言った。



 ◆◇◆◇


 リドによる死の国ファトランテ攻略戦。


 人間軍の奇襲により幕を開けた戦い。


 激突を繰り返す両軍だったが、死人が増える程兵力が増えるファトランテ軍に対し、人間側は劣勢となっていく。


 正攻法を諦めたリドは手始めに隣国セントリアにいたアイラというネクロマンサーをファトランテにスパイとして潜入させる。


 魔王はランティエであるが、宰相であるドーンが実質指示系統の頂点にいる事を知り、アイラに命じてリドと待ち合わせた場所まで連れ出させ、捕縛した。


 そこから連日の、目を背ける様な拷問が始まった。


 ドーンは磔にされた。


 彼女の血が流れない日は無く、体の至る所に痣ができ、皮膚は破れ、爪は剥がれ、魔神の再生力により少しずつ治癒していく事が逆に彼女に終わらない苦痛を与える事となった。


 それでも口を割らないドーンへの尋問を一旦諦め、再びアイラを通してドーンを人質に死霊王ランティエを引っ張り出す事に成功する。


 同時にセントリアから借りた大軍を突入させ、ランティエの部下を一方的に虐殺、大人しく捕まるなら軍は撤退させ、お前とドーンの命も助けると脅迫した。


 やむなくランティエは投降するが、セントリア王国内を連れ回された挙句、結局リドに嬲り殺された。


 軍を退く約束など無かったかのようにそこから徹底的にファトランテを蹂躙し尽くした。


 ◆◇◆◇



「儂は最後まで奴に捕まったままじゃったが、奴はランティエ様の……御首を磔の儂の前にゴロンと投げ捨て……」


『死霊王も、首を刎ねりゃあ死ぬんだな』


「笑いながらそう言った」


 話の途中からノルトは嘔吐きが止まらなかった。


 想像していた何倍も辛く、悲しい真実だった。


(僕が今まで受けてきた仕打ちなんかとは全然次元が違う……)


「奴は既に精魂尽きていた儂を磔から下ろすと僅かにボロ切れの様に残っていた衣服を剥ぎ取り、儂の上に馬乗りになってこう言ったのじゃ」


『この戦で何十人も死霊使い(ネクロマンサー)の女をいただいたが、お前が一番美味そうだ。俺も最初の戦で焦っていたか。最初から拷問などせず犯してやるべきだったな』


 ドーンは無表情でそう言うが、ノルトは耐え切れず、木の根元に向かって吐いてしまった。


 人間とはそこまで凶悪になれるものなのだろうか。


 リドという人間だけが特別、邪悪だったのだろうか。ノルトには理解出来なかった。


「ようもまあ、あんなボロボロな儂を犯そうなどという発想が出るものじゃ……鬼畜などという言葉では物足らんと思わんか」


 返事は返って来なかったが、その辛そうなノルトの表情を見てドーンは続けた。


「体を縛られていたロープにはどうやら何かの術式が施されていて体から魔素が抜けていくので魔法が使えなかったのじゃが、磔から降ろされて僅かに回復したのでな。()られる前に自爆してやった」


 吐くものもあまり無かったが、もう一度嘔吐すると、


「ごめんなさいドーンさん。そんな、辛い事を話させてしまって」

「なに、よいのじゃ、もう過ぎた事。幸い何かの力でこうして五体満足で復活もさせて貰ったしな」


 予想外に軽い口調でそう言ったドーンだったがすぐにその整った顔を歪ませ、


「今度は奴に同じ、いや……あれ以上の終わりの無い苦痛を味わって貰う」


 そう言ったドーンは人化状態のまま、魔女の様に目を吊り上げてクククと笑った。




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