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人生を諦めた少年は4人の魔王をその身に宿しているようです  作者: 鈴川バウ
口の悪い魔人と俺様ノルト
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020.俺様ノルト(1) 現れたネイトナ

 ミニスローム城。


 国は領という単位で大きく分かれている。領には城が有る所もあり、ここミニスローム領領都ウィンディアにはそう名付けられた城があった。


 豪勢なものでは無く、ほぼ領兵を駐屯させる為だけの建物と言っても良い。


 外壁も大した高さはなく、大人なら肩車すれば届く程度のものだ。

 土地だけは広く余っているため、城というよりは平家の広い館、という印象を受ける。


 普段は僅かな兵士が城の外に守衛として出ている程度なのだが、今、正門の前は多数の兵士でごった返し、騒然としていた。


「……隊、……隊は……へ、カザフとロックスは……へ……」


 隊長らしき男が矢継ぎ早に指示を出している。



 歩いて来た通りがその大通りに接した所でノルト達は立ち止まり、少し遠巻きにその光景を眺めていた。


 城の正門前の大通り、その一区画に四角いスペースがある。側にある立て札には分かり易く『ウィンディア・転移装置(ゲート)』と書いてあった。


 次元転移魔法が発動する為の複雑な紋様がそのスペースに刻まれており、その上に乗ると転移出来る仕組みだろうと容易に想像出来る。

 近くにいる数人の兵士達が転移装置(ゲート)の管理をしている様だ。


「成る程。あのおっさんの言う通り、来たら分かったな」

「冗談を言ってる場合じゃなさそうだぜ、テスラ。どうやら使えねーみてーだぞ、あれ」


 テスラとロゼルタが腕を組み、話し合う。


 2人の体の隙間からノルトが覗くと確かに時折、領民が転移装置(ゲート)に近付いては兵士に追い払われる光景が見えた。


「一応、聞いてみるか」


 テスラはぶらりと1人で転移装置(ゲート)に向かい兵士達と何やら話していたが、すぐに不貞腐れた顔で引き返して来た。


「魔物が暴れてっから万が一のため今は装置を閉じているんだとよ。全て退治するまではダメらしいぜ」

「大勢転送出来るなら、一旦それで避難させるという手もあるが数人しか転送出来ないなら逆にパニックになっちまうからな」

「1回の転移には少々時間もかかりますからね。妥当なところでしょう」


 テスラ、ロゼルタとサラがそんな話をしていた時、不意に転移装置(ゲート)が白く輝きだす。


「おや? 動かし始めたのか?」

「いや、あれは誰かが転送してくるようですね」

「来るのは止めらんねーか。そりゃそーだな」


 数秒後、その輝きは消え、同時に転送が終わる。


 紋様が描かれた床の上に、褐色で体格の良い戦士風の男が現れた。


 戦士の目付きは鋭く、背丈はテスラと変わらず高い。


 テスラよりもひと回りほど大きく筋肉が発達している様に見え、黒い装飾の軽めの鎧で包まれているが、腰の大きな剣は燃える様な赤の鞘に収まっており、一際目を引く。


 ひと目見れば誰でもわかる。この戦士は強い、と。


「あいつは!」

「あっ!」


 その戦士の姿を見た途端、テスラ達はクルリと向きを変え、ノルトと向かい合わせになる。

 特にサラは余程焦ったのか、一瞬で額に冷や汗が噴き出ていた。


「お前ら、顔は見えたか」


 テスラが小声で囁く様に言う。


「見えた。あいつ確か、30年前の戦いでリドと一緒にいた……何とかって奴じゃねーか?」

「確か、ネイトナじゃ。やばいぞ。儂らは面が割れておる」

「そうです。あれはネイトナです。今はリドの忠実な配下になっていて、リルディア……つまりスルークにいた筈」


 どうやら彼らは過去の魔界討伐戦時に顔を合わせている様だった。


 サラは当時、リドと同じ魔界討伐軍側だった上、ネイトナはリドに信頼されていた為、必然的によく行動を共にしていた。


 そんな戦士がこんな辺鄙な所に観光に来る筈もない。何がしかリドの命を受けてここに来ている事は明白だった。


 テスラ達は今、魔族固有の能力によって人化、つまり種族を人間に変えている為、雰囲気も含めて多少なりとも姿形が本来のものとは違う。


 だがサラは違う。外見は当時のままだ。


 見つかればサラだと気付かれるのは確実である。ネイトナの目的がはっきりと分からない以上、出来れば会いたくはない相手だった。


 突然のことに困惑するサラにテスラが言う。


「俺もあいつとはガッツリ、サシで戦っていたからな。どうせ今は転移装置(ゲート)は使えねー。一旦このまま引き返すぞ」


 彼らにネイトナと呼ばれているその戦士は転移装置の近くにいた兵士達と何やら少し話していたが、やがて辺りをキョロキョロと見回し出す。


 そして引き返そうとしていたテスラの後ろ姿を捉えた。


「おい。そこの良い体格した男」


 その呼び声にピクリと体を震わせて立ち止まる。


「チッ」


 すぐ側にいたノルトだけに聞こえる程の小さな舌打ちをした。数秒迷っていたが、やがて顔を少しネイトナの方へ向け、


「俺の事か?」


 横顔だけを少し見せてそう言った。


「そうだ。お前達強そうだな。抑えていても気配でわかる。何故こんな町にいる?」


 もう一度小さく舌打ちした上で、


「何かいい仕事でもないかとこれから王都のギルドにでも行こうかと思っていた所だ」


 澄まし顔でそう言った。


 ノルトはそれを見て、


(凄い。全然慌ててない。僕ならきっとあたふたしちゃうだろうな)


 そんな事を考えていた。


「ほう? なら何でそっち向いてるんだ? どこへ行く? まるで()()()()()()()()()()()()()()様に見えたのだが」


(勘の鋭いヤローだな)


 ロゼルタが眉を寄せ、小さく呟く。


 テスラも同じ様に眉を寄せ、もう少し顔をネイトナに向けた。ノルトは気が気でない。


「テメーが現れたからじゃねーよ。転移装置(ゲート)が閉まってるようだから引き返すんだ」


 その言葉に成る程、とネイトナは納得する。


「町は今、魔物が暴れているそうだ。気をつけろよ」


 テスラは最後までしっかりとはネイトナの方へ顔を向けず、男の言葉に背中を向けたまま、片手を上げて答えた。


 心配そうな顔付きで自分を見ているノルトに気付くとニヤリと笑顔を見せた。


「さ、行くぞ。宿でも取ろう」

「ああ。皆、一旦引き返すぞ。だが急がず、あくまで自然体でな」


 そのロゼルタの言葉に頷きながら、ノルトはもう一度テスラを感嘆した目で見上げていた。



 暫くネイトナは去っていくテスラ達の後ろ姿を目で追っていたが、やがて興味を無くした様に歩き出した。


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