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人生を諦めた少年は4人の魔王をその身に宿しているようです  作者: 鈴川バウ
口の悪い魔人と俺様ノルト
12/20

012.メルタノの悪夢

 慌ててサラが両手を前に出すが、ロゼルタの動きが一歩早かった。


 人化によって大幅に力が落ちているとは到底思えない稲妻のような動きでサラの元へ駆け寄ると、あっという間にその細い喉元へ短剣を突きつけた。


 その動きを目で追っていたサラの方も敢えてそれを避けなかった。


「テメー、そこまで分かってて姿を現したって事は殺されても文句はね―な?」

「お待ち下さい。話を聞いて下さい」

「テメーに聞く事は何もねー。キッチリあの時の借りを返させて貰う」


 殺気を込めて短剣を持つ手に力を込めたその時、その腕はテスラの手によって止められた。


「やれやれ。脳筋はテメーじゃねーか。こいつがあのクソのパーティにいたんなら聞きてー事は山程あるんじゃねーの」

「うるせー引っ込んでろ。テメーも言ってたじゃねーか。あのゲロヤローの仲間がノコノコと1人で出て来たんだぜ? 幸先良いじゃねーか。血祭りに上げてやる」

「ゲロヤロー、とは誰の事ですか?」


 その言葉にサラの顔色がサッと変わり、明らかに怒りの感情を見せた。


 それを見たロゼルタがフフンと鼻先で笑い、


「へっ。それ見ろテスラ。自分とこのリーダーを貶されて頭に来たみたいだぜ」

「リーダー、というとやはりリド=マルストの事をゲロヤローと?」

「ああそうだ。あのクソヤローは絶対にあたしらがブチ殺してやる。その前にテメーだがな!」


 ロゼルタが言い終わる前に額に癇筋を畝らせたサラは、大きく深呼吸するとキッとロゼルタを睨み返し、


「リドはゲロヤローでもクソヤローでもありません」

「いいや、あいつは……」

「あのボケはビチクソゲロハゲフニャフニャチンタマ性欲だけ百人前野郎、です。ゲロヤローなどそんな可愛らしい言葉では形容出来ません」


 思いもしなかったサラの口汚い言葉に圧倒されたロゼルタとテスラは、


「お、おう」


 と少し後退りながら言うのみだった。



 ◆◇


 再び辺りは静寂を取り戻した。

 サラも輪に加わり、膝を崩して座っていた。


「つまりあのクソのパーティにいたのはメルタノ戦までだと?」


 落ち着いたロゼルタがサラの隣に座っていた。その問いに対してサラは頷く。


「私が魔王討伐の政治的な意図を知ったのはパーティを離れてからの事で、最初は魔族が攻めてくるのか、じゃあ皆を守らないと、と単純に思い、この力が役に立つならと討伐軍に加わりました」



 ◆◇◆◇


 魔界討伐はリドのパーティを中心としたものだったが敵は大群の魔族である。


 旗振り役のラクニール王国軍だけでは当然兵力不足、そこで人間界全体の協力体制の元に行われた。


 もっとも、『魔族が人間界に攻めてくる』という情報の真偽を疑い、参戦しなかった国もあったのだが。


 行軍中、サラは頻繁にリドから性的な嫌がらせを受けていた。


 彼女は生まれつき恋愛感情や性的興奮などの感覚が決定的に欠如しており、当時はリドの意図に気付かず、よく胸やお尻を触る人だな程度の意識だった。


 だがファトランテ戦が終わった後、信じられない噂を耳にする。


 それは魔界討伐という重責を担った素晴らしい勇者の筈のリドが、敵とはいえ、魔族の女性達に乱暴を働いていたという噂だった。



 続くデルピラ戦では殆ど活躍する場がなかったサラはこの時とばかりにリドの動きを注視していたが、異様に不機嫌だったことを除けば特に変わったところはなかった。



 そしてメルタノ戦。


 魔界メルタノは魔女の国と呼ばれ、国民の殆どの魔族は女性、且つ美貌の持ち主が多いと噂されていた。


 リドはそのメルタノに到着する前からデルピラとは打って変わって舞い上がっていた。


 同じパーティのハーフオークのマッカと下品な笑いを響かせながら何かを話していた様子を度々サラは目撃する。


 彼女はメルタノでも戦うフリだけをし、とにかくリドの行動を注視していた。


 ◆◇◆◇



「そこではっきりと分かりました。こいつは英雄なんかではない。ビチクソゲロハゲフニャフニャチンタマ性欲だけ百人前ヤローだと」

「なげーな」


 テスラが堪え切れずに笑う。



 ◆◇◆◇


 メルタノの魔女達はその殆どが生まれつき強大な魔力を持ち、その軍隊は古来、戦いで負けた事はない。


 ヴァンパイア、サキュバス、アークメイジを主力に構成された軍隊は強力無比、それらを統率するアークウィザードのハルヴァラとヴァンパイアクイーンのロゼルタ、そして次元魔導王と呼ばれる女王エキドナを擁するメルタノ軍は世界最強と言われていた。


 当初、数回戦ったリドは個としてはともかく、デルピラ戦同様、指揮している軍が彼女達に手も足も出ず、結果として惨敗続きで悶々としていた。


 戦いの度に捕まえる捕虜をその憂さ晴らしのように日々、犯して過ごす。


 リドはある日の戦いでサキュバスを捕らえた。いくら犯しても悦ぶ相手に辟易したリドだったがサキュバスが無自覚に『魅了(チャーム)』をかけてくる事に気がついた。


 彼が持つ生来の強力な魔法抵抗で回避するが、そこでメルタノ攻略のアイデアを思いつく。


 すぐにパーティのメンバーに加えてユークリア、ネイトナ、シオンなど強力な力を持つ配下の面々と密かに打ち合わせた。


 翌日、新たに捕らえた魔力の高そうなサキュバスの誘惑にかかったフリをしたリドは、そのまま単身、ロゼルタの元へ連行された。


 彼女に首を刎ねられる寸前、ネイトナ達が率いる人間軍が攻め込んだ。


 リドは瞬時に縛られたロープを引き千切ると、攻め入られた事に一瞬気を取られたロゼルタの鳩尾に拳を見舞う。


 それは尋常ならざるタフさを誇る、魔人状態のロゼルタですら気を失ってしまう程の威力だった。


『さすがはメルタノ。噂に違わぬ美人揃いだ。ドーンは焦って死なせちまったが……こいつは絶対に自殺はさせない』


 ロゼルタが気絶している間に猿轡をし、上半身をロープでしっかりと縛る。


 このロープにはドーンを磔にした柱と同じ、対象者の魔素を放出する術式が埋め込まれていた。


 彼女の強大な魔力の源を封じ、軽々と肩に担ぐとエキドナの元へと向かう。


 ロゼルタを見てこれ程美しい女はこの世にはいないと思っていたリドはすぐにそれが間違いだと気付く。


 エキドナを一目見てその非の打ち所のない美しさに一瞬で虜になったリドはロゼルタの命を助ける代わりに投降しろと彼女に迫る。


 だがファトランテ戦、デルピラ戦の顛末を聞いていたエキドナは「お前は信用できない」とにべもなく拒否する。


 1対1の戦いとなるがリドは次元魔法を操るエキドナに苦戦する。


 しかし彼の力も人知を超えており、一進一退の攻防が続く。


 この時、別のルートから魔王城に向かえと予め命じておいた英雄パーティのマッカとクリニカが合流、奇襲するもエキドナは『転移』と言われる彼女固有の瞬間移動魔法で見事に躱す。


 マッカやクリニカの攻撃力もリドに劣らないもので、やがてエキドナの瞬間移動が追い付かなくなった。


 リドが更に攻撃速度を上げ、エキドナが後退った一瞬をつく。


 クリニカの拘束魔法『闇の手の捕縛』が遂にエキドナを捕らえた。


 最早これまでかと思われたエキドナだったが次元魔法の究極奥義のひとつ『隕石乱弾(メテオ)』を放つ。


 泣く泣くリドはエキドナを犯す事を諦め、超人的な身のこなしで凄まじい威力の隕石を避けながら近付き、呆気なくその首を刎ねた。


 ◆◇◆◇



「そうだ。そしてあの時あのヤローはこう言ったんだ。『いい女だったのにもったいねえ』ってな」


 忌々しそうに唇を噛みながらロゼルタが言う。



 ◆◇◆◇


 リドはマッカとクリニカに暫くここから出ておけと王の広間から出る様に命令した。


 地面に突っ伏し、敬愛する女王エキドナの死に大粒の涙を流しながら悲しみ、悔しがるロゼルタを見て下衆な笑いを浮かべる。


 この時ロゼルタは魔素を抜かれ続け、後ろ手に縛られ、文字通り手も足も出なかった。


『仕方無い、こいつで我慢しよう。こいつもとんでもない上玉だと思ってたがエキドナを見てしまったからな』


 そんな事を言いながらロゼルタに近付いた。憎悪に満ちた目でリドを睨みつけるが、それはサディストのリドを欲情させるだけだった。


 辛うじて自由の効く足で蹴る素振りを見せるが容易く捕まれ、容赦無く足の骨を折られた。


『猿轡のせいで可愛い声が聞けないのが残念だが血を吸われても困るんでな』


 心の底から嬉しそうにそう言った。


 その時だった。


 リド目掛け、『魔法の矢(マジックアロー)』が雨霰と降り注ぐ。


 苦もなく避けるリドだったが、それは弾道を曲げ、執拗にリドを追尾した。


 仕方無くロゼルタを犯すのを諦め、一旦は防がざるを得なくなる。


 その間にヴァンパイアであるロゼルタの傷、足の骨折は治癒し、縛られていたロープを自力で引き千切り、逃げ出す事に成功した。


 だが広間を出ようと扉に近付いた時、ロゼルタに最大の不幸が訪れた。


魔法の矢(マジックアロー)』の着弾音を聞いて帰ってきたマッカと鉢合わせてしまったのだ。


 不意を突かれた彼女は声を出す間も無く頭から真っ二つにされた。




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