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ババ抜きババ抜き

「ババ抜きババ抜きをします。ルールは、ジョーカーだけを抜いたトランプで、通常のババ抜きをするだけです。じゃあ、私がカードを繰って配ります。」

 結実はそう言うと、トランプの中からジョーカーを抜き出し、ジョーカー以外のカードを慣れた手つきで繰り始めた。


「えー、今いるのは、五人だから、五つに分ければいいのね。」


 今、ゴミゲー同好会の部員は五人である。阿保は動物を学校に解き放ったことで、退学。玲奈も剛田先生の車のガラスを割り、剛田先生を暴行をはたらいたことで、退学。よって、現在、僕と結実と毒島、鈴音先輩、八神先輩の五人しかゴミゲー同好会には残っていない。


 結実は繰ったトランプを五つに分け、それらを皆に分配した。僕も渡されたカードの束から、数字がそろっているカードのペアを抜き出した。二組カードのペアを捨て、残ったカードは、七枚となった。


「じゃあ、私から時計回りに引いていくね。」

 結実はそう言って、隣の八神先輩のカードを引いた。皆は時計回りに、結実、八神先輩、鈴音先輩、僕、毒島と言う風に座っていた。


「じゃあ、俺は鈴音のを引けばいいわけだな。」

 八神先輩はルールを確認し、鈴音先輩のカードを引いた。


「よし、そろった。」

 八神先輩そう言うと、そろったカードを一組捨てた。


 


 その後、八神先輩はそのままの勢いで、次々カードをそろえていき、最後の一枚となった。


「鈴音、お前が八のカードを持っていることは分かってる。俺の目を見て答えろ。八はどれだ?」

 八神先輩は鈴音先輩の目を見て、カードの上を人差し指でなでた。鈴音先輩は分かりやすく、八のカードを撫でられた時、八神先輩から目を逸らしてしまう。


「なるほどこのカードか!」

 八神先輩は八のカードを鈴音先輩から見事に引き当てた。鈴音先輩は悔しそうな表情をしている。


「八神先輩が一抜けですね。」

 僕がそう言うと、結実はさっきまでの笑顔を崩して、僕の方を目じりを険しく吊り上げて、にらんできた。

 

 八神先輩に続き、結実、毒島も抜けて、残るは、僕と鈴音先輩だけとなった。僕と鈴音先輩は互いに二枚のカードを持って、僕が先輩のカードを引く順番だった。


「先輩、僕の目を見てください。僕はどっちを引いたらいいですか?こっちですか、それともこっちですか。」

 僕は先輩の目を見て、揺さぶりをかけてみる。先輩のカードの上を八神先輩と同じようになぞる。しかし、今回の鈴音先輩は、どちらのカードをなぞっても、目を逸らさない。先輩は戦いの中で成長しているのか?


「ちょっと待って、カードを混ぜさせて。」

 先輩はそう言うと、カードを体の後ろに持っていき、カードを混ぜた。


「よし、どうぞ。」

 先輩の目はもう動くことはなかった。僕は諦めて、運に任せることにした。僕は僕から見て、右のカードを引いた。


 引いたカードは僕が持っているカードと同じ数字のものだった。

「そろった!」

 僕はそう言って、そろったカードを捨てると、先輩に残る一枚のカードを差し出した。先輩は僕の差し出したカードを静かに引いた。


「そろった!」

 先輩は先ほどの僕と同じように、声を上げ、カードを捨てた。僕と先輩は喜びあった。その喜んでいる僕たちを遮るように、結実が大声を上げる。


「諸君、分かったか。このババ抜きババ抜きの真の意味を!」

 結実は、真剣な面持ちになっていた。


「この勝負には、敗者がいない!」

 結実は分かり切ったことを大声で叫んだ。


「この社会では、必ず勝者と敗者が存在する。皆そう言う。


 しかし、そんな社会でいいのか?


 誰かが笑っているそのそばで、誰かが泣いている。そんな狂った社会は嫌だよなあ?


 この部活でも、その社会の狂気にあおりを受け、二人の犠牲者を出した。阿保と玲奈だ。二人はただ皆と同じように生きようとしただけなのに……。」

 結実は感極まって、演説を中断する。しかし、結実はそのまま泣きながら、演説を続けた。


「この世の中は狂っている。常に敗者を生み出し、嘲笑うことで、平和に生きようとしている。まるで、一枚のババを押し付け合うババ抜きのようじゃないか?


 私はこんなババ抜きのような社会は嫌だ。皆、何も押し付け合わないで、平等で生きたいじゃないか。


 だから、私たちはこの社会に抵抗する。


 この社会の犠牲者となった同士の二人を取り戻しに行く。二人の退学を取り消してもらう。もう一度、七人でこのゴミゲー同好会を続けるんだ!


 覚悟はできているか、同志たち!」

 結実は僕たちに向かって、聞いてきた。僕以外の皆は左拳を突き挙げると、大きな声でこう叫んだ。


「イエッサー!」


 僕は皆の真似をして、右拳を突き上げた。


「イエッサー。」


 僕は遅れて、小声で声を上げる。すると、結実が僕の方を見て、僕の方に向かってきた。そして、結実は僕の左頬を平手打ちした。


「お前は覚悟ができておらん!挙げる手は、左手だろう!


 今から私たちは、革命を起こしに行くんだ。そんな覚悟では、お前もこの社会に潰されてしまうぞ!」


「申し訳ありません。気を引き締めます。」

 僕は結実の言葉で目を覚ました。ぶたれた左頬を触って、覚悟を決め、もう一度、結実の方を見る。


「いい目になったじゃないか、淡島。その左頬の痛みを忘れるな。」

 結実は僕に向かって、優しく笑いかける。


「では、今から同志救済作戦を開始する。お前たちの持てる全てを使い、阿保、玲奈の退学を取り消す。


 法を恐れるな。死を恐れるな。自分を信じろ。


 さあ、その制服を血で汚せ。」


「イエッサー!」

 皆、左拳を天に突き上げた。


 この後、僕の知らない範囲で、どれだけの非道が尽くされたか分からない。ただ、僕の目の前では、あらゆる法律が破られた。僕は今まで、平和ボケした国で生きていたのだなあということを理解した。


 そんな日々が一週間経った。阿保と玲奈の退学は取り消されることとなった。さらに、新しい校長から僕たちゴミゲー同好会の部員は、何をしても、絶対に退学にならないような計らいがされるようになった。

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