一文字しりとり
「しりとりを一文字縛りでやりましょう。普通のしりとりと違うところは、同じ単語の繰り返しは可能であるところです。早速、順番は時計回りで始めます。じゃあ、しりとりの「ら」から始めます。
ら。」
毒島はそう言って、しりとりを始めた。僕の記憶では、しりとりに「ら」と言う文字は含まれていなかった気がするし、「ら」という意味の言葉も知らない。
「次は私か。同じ単語を使っていいから、……ら?」
この部室の机には、時計回りに、毒島、結実、八神先輩、阿保、鈴音先輩、僕が机の周りに座っていた。玲奈はまだ停学中なので、今いる部員は六人だった。
「なるほど、なら、らだな。」
「一文字しか言っちゃいけないの?八神先輩がらって言ったから、らしか言えないじゃん。
……待って、らって、上から読んでも、下から読んでも、らじゃん。回文ってやつじゃん。俺って天才!」
アホだ。
「らね。」
鈴音先輩は阿保の暴走を止めるように、言った。
「ら。」
僕は限りなく淡白に答えた。
「一周回ってきたな。やっぱり、らかな。」
「らで。」
「らにしよう。」
「らだな。」
「ら。」
「ら。」
「ら?」
「ら!」
「ら。」
「ら。」
「ら~♪」
鈴音先輩が流れを変えてきた。
「ら~~~~~♪」
僕もそれに乗っかる。
「ら~~~↑~~~~~~↓♪」
パチン、パチン
八神先輩が指を鳴らし始めた。
「ら~。」
「ら~~。」
「ら~~~。」
「ら~。」
コンコン
阿保が机をノックし始めた。
「毒島、お前はそこにかかってるギターを弾け、俺はベースを弾く。阿保はそのまま机をたたいて、結実はロッカーの上のDJコントローラーをパソコンとスピーカーにつないで、DJしろ。鈴音はボーカルで歌え。そして、今から淡島一人で、一文字しりとりを続けて、らを無限詠唱。」
それぞれのメンバーは機材の準備を始めた。
「ら~~らら~~ららら、らら~~~~~♪」
僕は他のメンバーが用意し終わるまで、つなぐようにしりとりを続けた。しばらくすると、全員の用意が整った。
「スリー、トゥー、ワン、ゴー。」
皆それぞれの音を奏で始めた。それぞれ、いきなり合わせたとは思えない程、息が合って、調和のとれた音楽になっている。
今、この部室はライブフロアだ。
「閉じ込められた~この世界を壊したくて~
手始めに~窓ガラスを割った~
そして、君に押し付けた罪も金づちも~
その後、教師に問い詰められたけど~
君がすべてやったことだとしらをきった~
そしたら、君は一週間停学~
本当にごめんなさい~
でも、私は楽しく生きているよ~
君がいなけりゃ、ここで歌えてもない~
感謝してるよ~
私は君の幸せをもらって生きているんだ~
君のいない部室はどこか寂しくて~
風はいつもより強く吹き込んでくる~
また一緒に遊ぼうね~この仲間と一緒に~」
皆、それぞれの楽器から音を止める。しばらくの静寂の後、皆、歓声を上げて、喜び合った。騒がしい部室の中で、鈴音先輩が静かにするように、手で皆を落ち着かせる。
「玲奈さん、聞こえていますか?これが、私達から君への鎮魂歌です。」
そう言った後、玲奈が返事をしたかのように、ガラスのない窓から風が吹き込んできた。