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王子とバレてはいけない天才少年 4


 やはり、ガスール・ファントンをよく知っている人間の目をごまかすのは難しいらしい。

 いっそ、協力を得た方が得策なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、つい今日もツルツルとなめらかな顎に手を添える。

 目もよく見えるし、どんなに働いても翌日には疲れがとれている。本当に若さとは素晴らしい。


 口の端を歪めて、部屋から出てきたガスール。

 そんなガスールを待ち構えていたのは、王太子アーサーだ。


「陛下との話……終わった?」

「あ、ああ。待っておられたのですか? 王太子殿下」

「アーサーだよ。ガスール」

「……アーサー様」

「少しだけ、付き合ってくれないかな」


 その瞳はあいかわらず光を映さない。

 かといって感情がないわけでもない。

 不思議な少年だ、とガスールは自分のことを棚に上げて思う。


「仰せのままに」

「違う」

「え?」

「友人として頼んでいる」

「……よく似ている」


 ガスールは、まっすぐにアーサーを見つめた。

 全てが、国王陛下にそっくりだ。

 なぜか、光をたたえない双眸以外は。


「付き合って欲しいんだけど」

「よろこんで」

「うん」


 返事をすれば、ほんの一瞬だけアーサーの瞳が、少年らしく煌めいた、ように見えたが、ほんの一瞬すぎたので幻だったのかもしれない。


 連れていかれた先は、王城に駐屯する聖騎士団の演習場だった。

 実践的な訓練がされている。練度もなかなか高いようだ、とガスールはそれとなく全体に目を向ける。


「……この訓練方法には、覚えがある」


 ガスールの知る限り、聖騎士団の訓練は型を中心にした儀礼的なものが多かった。

 しかし、目の前の訓練はあまりに実践的で泥臭い。

 まるで、かつてのガスールが、部下たちに課した訓練のようだ。


「え? アントン卿と知り合い?」

「…………アントン?」

「聖騎士団長、アントン卿だよ。あの、英雄ガスールと共に戦ったという」

「ぐふっ」


 確かに、その名前には聞き覚えがある。

 と言うよりも、ファリーナを最後に任せた若造の名前がアントン卿だ。

 当時、まだレイブラント騎士団に配属されたばかりの彼は、少し甘えの残る貴族の坊ちゃんだったとガスールは認識していた。


 聖騎士団の情報も得なくては、と大神官でありながら聖騎士に復帰したレザールにそれとなく聞いていたが、ニヤニヤ笑って「そのうち分かる」と言っていたのは……。


「なるほど。あの若造がねぇ……」


 八年の月日を嫌でも感じる。

 若造、坊ちゃん、なんて周囲に呼ばれていた新人騎士。

 ファリーナの周囲に見当たらないし、戦死したという話も聞かないので、故郷に戻って貴族として生きているのだと密かに思っていたのだが。


「ガスール?」

「ん、いや。それで、アーサー様、ここでいったい何を」

「うん、この間の続きだ!」


 アーサーは二本演習用の剣を取り、そのうち一本をガスールに差し出した。

 どう考えても、年齢不相応な聖騎士の衣装に身を包んだガスールと、第一王子アーサー。

 二人の動向に演習場の視線は集中するのだった。


「うん……。ま、いいか」


 先日、なかなかの太刀筋だったアーサー。

 おそらく、聖騎士団に鍛えられていたのだろう。


「いざ、尋常に勝負」

「そう来なくちゃ」


 二人は、演習を中断した騎士たちによって開けられた空間で、剣を向け合ったのだった。


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