魔術の深淵と天才少年 2
隣に座って、魔術の深淵という祝福を受けた少女をそれとなく観察する。
ごく平凡で内気な少女という印象だ。
着ている服は、大商会の末娘にふさわしく、シンプルでありながら上質。
淡い水色の髪は、大人になってドレスを着たら美しく映えるに違いないし、分厚い眼鏡の下の瞳は、丸くて大きくて可愛らしい。
しかし、それよりもガスールが興味を引かれるのは、あの試験の日に問題用紙の裏に書かれていた、独自の解釈を交えた魔法式だ。
おそらく、魔術に関する直感が鋭いのだろう。
常人とまったく違った視点、そして解釈。
「「ああ、魔術は素晴らしいな……」」
「魔術!?」
顔を赤らめていた少女は、ガスールとバーランドから同時に発せられた言葉に、俯いていた顔を上げた。
当時、周囲に興味がなかったガスールと、魔術しか見ていないバーランドがともに戦ったのは、結局のところ魔術という共通の興味があったからだ。
「魔術は、確かに素晴らしいですよね! 周りの人たちは、分かってくれないんです!!」
急に饒舌になって、距離まで近づいてきた少女に、ガスールとバーランドは虚を突かれたように目を見開いた。
隣で額に手を置いて天を仰いだレザールには、誰一人気がつく様子もない。
「そうだろう、そうだろう。君たちはもちろん、初年度から上級魔術研究室への所属を許可する」
「え……!? あの、憧れの上級魔術研究室に、初等部の初年度からですか!?」
先ほどの、怯えた小動物のような雰囲気なんて霧散してしまった少女は、その淡いすみれ色の瞳を輝かせてバーランドに詰め寄った。
確かに、ガスールの知っている限り上級魔術研究室へ所属できるのは通常高等部になってから。
初等部から所属が許されるなど、特例中の特例だ。
「……おい。ガスール、お前目立ちたくないと言っていたよな?」
誰にも聞こえないほど小さな声で、レザールがガスールに耳打ちする。
その言葉に従うべきだと、頭では理解している。
「だが……。目の前には、新たな時代の魔術……」
「さあ、先日の試験で問題用紙の裏に書かれていた魔術式だ。どちらも素晴らしい……。俺の科目だけは、この問題が90点でほかの問題の点数は10点に配分していたんだ。未知なる物に取り組む姿勢が見たかったからな……。もちろん、二人とも満点だ!!」
バーランドが、ガスールが首位入学を果たしてしまった原因だったらしい……。
9割の正答を全教科で目指していたのだ。魔術学の配点がそんなバランスの悪いものだったなら、もちろんガスールが首位に違いない。
「ほら、お互いの解答を見たくないのか?」
その言葉への返答を考える余地など、魔術が好きすぎる二人にあるはずもなかった。
「「もちろん、見たいです。先生!!」」
後に、王国の魔術は驚異の飛躍をしていく。
もちろんその発展の中心は、『魔術の深淵』の祝福を受けた一人の少女、フローラリア・レンだ。
しかし、そこにはもちろん、王宮魔術師団筆頭魔術師バーランドと、大聖女を守る神託の騎士が関わっていることは、周知の事実なのだ。
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