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王立学園と少年剣士 2


 ***


 試験会場は、熱気に包まれていた。

 それもそのはず、クラスはSからDまであるが、所属クラスにより将来が決まると言っても過言ではないのだ。


「Sクラスに入れば、上級士官も、筆頭書記官も手が届く……。平民だとしても」


 残念ながら前世のガスールは、この年にはすでに傭兵団に所属し、大人に紛れて命のやりとりをする日々を送りはじめていた。


 各国に忍び込む諜報活動もしたし、最前線でも戦った。


「ふむ。Sクラスに入るのは、難関だといっても所詮8歳のための問題か……。9割あたりを目指せばよかろう」


 時々わざと間違えながら、あっという間にたどり着いた最終問題。

 そこには、なぜが高位魔術方程式が置いてある。


 ――――満点を取らせないための対策か? ふん、暇つぶしに。


 ガスールは、双剣を得意とするが、魔法をこよなく愛してもいた。

 魔法を戦術に組み込むことこそが、かつてのガスールが誰よりも強くあった理由でもある。


「ん? まて、氷と炎は反対属性で、同時には発動できないはずだが……。この理論を使えば、可能なのか?」


 イメージの中のガスールは、炎と氷属性をまとわせた双剣で戦っている。


「もしや、この部分の式を置き換えれば……」


 思わず時間いっぱいのめり込んでしまったガスールの問題が、目の前で回収される。


「「あ! あと少しで!!」」


 同時に上がった二つの声。

 振り返れば、先ほどの3人のうちの1人、眼鏡をかけた少女が問題用紙に両手を伸ばしていた。


「残念ながら、試験には時間制限がある。回収するぞ?」


 見上げれば、まっすぐにこちらを見下ろす試験官と目が合う。

 その顔をガスールは、よく知っている。


 やはり、かつてともに戦場に立ったことがある。

 王立魔術師団、魔術師バーランド。


「バーランドが作った問題か……。道理で新しい知見に満ちているはずだ」


 ついつい、本気で解き明かしてしまったが、書き込んだのは問題用紙の裏側。

 答案用紙に書いたわけではないその解答は、点数には関係あるまい。

 少しだけ、やり過ぎたことを反省しつつ、ガスールは、楽天的に考えていた。


 立ち上がって、次の会場に向かうとき、ふと先ほどの少女に視線を向ければ、取り出したノートに必死に先ほどの式を書き出しているところだった。


「なるほど。計算にはあらがあるが、その視点には気がつかなかった……」

「え?」


 顔を上げた少女と目が合う。

 先ほどまでのおどおどとした様子でなくまっすぐこちらを見た少女は、不思議なほど色を変える紫の瞳をしていた。


 ガスールが、じっと見てしまったことをごまかすために軽く微笑むと、少女の頬には朱が刺した。


 あとで、この公式については、ぜひ語り合いたいものだ、とガスールはその少女の存在を心に留める。


 そしてあとで、つい魔術への興味で年甲斐もなく、後先考えないことをしてしまったことを反省するのだが……。


 続くは、実技試験。

 気持ちを切り替えてガスールは、会場をあとにした。


「あっ、私も実技試験に参加しなくては!!」


 少女が、ハッとしたようにその後ろを追いかける。


 実技試験に関しては、女子生徒や武術の心得がない場合は、免除される。

 しかし、好成績を残せば、筆記試験が振るわなくても、上位クラスに入れるとあって、参加する受験者が多いのだ。


 クジ引きにより、かなり後ろの順番になってしまったガスール。

 ようやく入ることが出来た試験会場では、すでに試験が開始されていた。

 自分の順番が来るまで、会場の端に立って、試合形式の試験を眺める。


 ――――生徒の実力は、まあまあだな。この年頃では、こんなものか。


 ガスールの名前が呼ばれると、ほとんどの生徒が振り返った。

 英雄ガスールと同じ名前だ、というささやき声に、本人なのだが、と苦笑する。


 用意された木刀を手に取る。

 久しぶりの武器に胸が躍る。

 一歩踏み出し、相手を見据える。


「結局戦っている方が、性に合っているのだろう。……さて、対戦相手は」


 目の前には、感情の読めない魚のような目の美少年がひとり。

 しかし、構えた剣は正統派の王国騎士団流だ。


「く、作為的だな。クジ引きに、何かしら仕組んでいたのか?」


 構えた姿だけでも分かる。

 おそらく、並の騎士では敵わないほどの腕前を眼前の少年が持っていることが。


「ま、ほどほどで負けて終わりにするか」


 しかし、まさかの出来事により、ガスールは、予定外に活躍してしまうことになるのだった。



 


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