王立学園と少年剣士 1
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ところで、どうしてこうなった? というのが、正直な感想だった。
会場はざわめいている。
集められた、ガスールと同じような年齢の少年少女。
明らかに裕福な家の出身だとわかるが、周囲の雰囲気に呑まれておどおどしている少女もいれば、一目で高貴な出身と分かる縦ロールの少女と表情の死んだ少年。
「……大商会の末娘に、公爵家令嬢、そして王太子殿下か」
どの子どもにも共通しているのは、魔力値が異様に高く、何かしらの才能にあふれていることだろう。
ここには、ガスールが大神官レザールから得た情報に記されていた、特異な祝福を受けた子どもたちが集められている。
「魔導の深淵、物語を分岐する令嬢、運命を左右する王」
それにしても、幼い頃に夢見たような二つ名のような祝福だ。大人になって名乗るのは、あまりにも恥ずかしい……。
ガスール本人は、大聖女を守る神託の騎士、だということからは、目を逸らしておく。
「神は遊び心で祝福を決めているに違いない。……まあ、死後英雄になる、よりはましか」
少し離れた場所から子どもたちを観察していたガスール。
ここに集められたのは、王国の命運を分ける可能性がある祝福を受けた子どもたちだ。
「しかし、学園に新たなクラスを作るとは……」
そんな子どもたちを一カ所で管理することは、正しいのかもしれない。
そして先ほど読んだ学則によれば、ここには、身分の隔てもない。
「それで、どういうつもりだ、レザール?」
誰にも聞こえないように、ガスールは、隣に立つ大神官レザールに小声で問う。
「国王陛下は、以前から生まれによらず才能のあるものを登用したい、と王立学園の改変を計画されておられた」
「それと、俺がここに入学することに、なんの関係がある」
「……聡明な国王陛下が、秘密に気がつかないはずなかろう? それにあの魔法、酔った勢いで陛下と俺に、披露したことがあるではないか」
「ふむ、そういえば?」
ガスールは、レイブラント辺境伯領で雇われる数年前、王位継承権争いで命を失いかけた現国王陛下を助けたことがある。
その後、即位した陛下にガスールは妙に気に入られ、呼び出されてはレザールとともに酒を飲み交わす仲だった。
ガスールが、レイブラント辺境伯領に雇われることになったきっかけも、陛下から当時の聖女、ファリーナの母親を護衛するように命じられたのが切っ掛けだった。
「それで? 今回の任務はなんだ」
「……子ども時代を満喫するように、と」
「は?」
「ついでに愚息を頼む、と」
目の前に立つ子どもたちは、誰しもが個性豊かで、才能にあふれている。
しかし、先ほどの3人は明らかに異質で別格だ。
「そうそう、一応入学試験があるが、ほどほどで頼むぞ?」
「……わざと落ちるという選択肢は」
「ガスール少年の推薦人は、ファリーナ様だ。恥をかかせることのないように」
「はぁ。なるほど、では三位あたりを目指すとするか」
のちに王国で語り継がれることになる、学園の特別クラス、栄えある一期生。
神託の騎士が、その一番初めに語られる生徒になることをまだ誰も知らない。
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