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いつか大聖女になる少女 1


 ***


 祈りを終えて、中央神殿を出れば、当然のように白い花が敷き詰められている。

 日差しに輝く白いドレスは、シンプルでありながら、その生地は西の果てから届けられた最高級品だ。


 小さな少女がひとり、可愛らしい花を差し出す。

 その花を受け取るファリーナの慈愛に満ちた笑顔に偽りはない。


 だが、それすら聖女という偶像のために、完全に作り上げられた、一つの演劇のようなものだ。


「皆様に祝福を」


 その言葉とともに、敷き詰められた白い花のような光の粒が空から舞い落ちる。

 その一つ一つには、ほんの少しの回復魔法が込められている。

 分け隔てない聖女の慈愛というわけだ。


 ほんの少しの回復力と言っても、これだけの人数にそれをかけられるのは、確かに聖女ファリーナくらいのものだろう。

 魔力の消費は、ひとりに使うのに比べ、とても大きい。


「お疲れ様です」


 馬車に乗り込んで一息つけば、少し高い少年の可愛らしい声。

 今まで、こんなに疲れたときに、誰かを横に乗せようなんて、ファリーナは考えたことがなかった。


 いや、この少年と同じ名前をしたあの人以来とでも言うべきか。


「ありがとう。ところで、これは?」


 差し出された真緑のドロドロした液体。

 その色と香りに、ファリーナの本能が危険を訴える。


「魔力の回復によいのですよ?」

「え、飲み物なの……」

「そうです。さあ、ひと息に!!」


 差し出したのが、ガスールでなければ飲まないだろう。

 だが、目の前の少年の瞳はあくまで善意に満ちている。


「…………そういえば、風邪を引くとものすごく苦い薬を煎じて出してくれたわね……」


 思い出の中にいるあの人は、いつでもファリーナの前では笑っている。

 まるで、彼の傭兵としての血で血を洗うような武勇伝の数々なんて、根も葉もない噂にすら思えるほど優しい笑顔だった。


 時々、謎の煎じ薬を飲まされるのには閉口したが、たしかに効果抜群で、のどの痛みもすぐに取れた。


「良薬口に苦し」

「へ?」

「東の果ての伝承です」

「これ、やっぱり苦いのね……!?」


 キラキラと期待に満ちたようにも見える金色の瞳。

 ファリーナは、抗うことができないまま、ドロドロした真緑の液体を一息に飲み、口を押さえて飲み込むと、しばしその後味に震えたのだった。


「〜〜〜〜!!」


 たしかに、怪しげなその薬は、とてもよく効いた。

 魔力はすぐに回復し、心なしか疲れまで取れたようだ。


 けれど、その後味は……。


「はあはあ。こ、これはいったい誰に教えてもらったの」

「以前仕事を一緒にした、魔女様に」

「ま、魔女様と一緒に仕事って、どんな生活をしていたのよ!?」

「……うーん。生き残るためには、何でもしましたからね」


 事実、以前の人生で、魔女に習った薬。

 そういえば、『良薬口に苦し』と言っていたのは、その魔女だったかもしれない。


「そ、そうなの。ところでその魔女って美人だった?」

「……うーん。世間一般では絶世の美女の部類に入るのでしょうが」

「…………そ、そうなの!」

「お嬢様のような清純な美しさが、断然僕は好きですね」


 ファリーナが、頬を赤らめたことに気がつかず、ガスールも煎じ薬を一息に飲む。

 レザールとの朝の猛特訓で消耗した魔力は一度に回復したが、やはり信じられないほどその後味は、悪かった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「清純な美しさが、断然僕は好き」ガスール様は攻撃力が高いですね♪ しかも無意識(^◇^;) 赤くなっちゃったファリーナ可愛いです
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