九つの迷宮
ラディケンヴィルスには九つの迷宮が存在している。
どれも地面にぽっかりと開いた穴の中に入り口があり、おそらくは三十六層だと考えられている。
街は迷宮を中心にして広がっていて、迷宮の並びは以下の通り。
橙
青 黄 黒
緑 藍
白 紫 赤
最初に発見されたのは「白」。
二番目に発見されたのは「緑」。
その後、青、紫、黄、赤、藍、黒、橙の順に発見された。
迷宮の描く四角のど真ん中にもうひとつあるのではないかと考えられ、永らく八つの迷宮のど真ん中にはなにも建てられなかった。
その後四角の外側に「橙」が発見され、周辺の捜索がしばらく続いたが十個目の迷宮は発見されなかった。
大地の女神の子である神々は九柱であることから、迷宮は九つだろうと推測されている。
迷宮のある穴には札が立てられており、それぞれ何番目の渦か書かれているが、発見順ではない。
「黄」から右回りに数字が割り振られているだけで、調査団が資料の管理のために使っていた。
入るべき順と勘違いする初心者もいるが、立て札自体が歴史的な資料と考えられており、残されたままになっている。
この立て札は「橙」発見前に用意された為、「橙」には「はじまりの渦」の名称が与えられた。
それぞれの迷宮の特徴は以下の通り。
・橙
はじまりの渦。初心者御用達の、もっとも難易度の低い迷宮。
ここだけの特色として、すべての層に飲み水の湧く泉がある。
床は濃いオレンジ、壁は薄いオレンジ色。敵は弱く、罠の仕掛けも簡単で威力が弱い。
一番最初に最下層まで踏破された。完全な地図もできあがっていて、街で売られている。
大変混みあうので、朝早くから挑戦する者が多い。その反面、下層へ挑む者は極端に少ない。
鼠や兎、小型の犬などが主な敵。
・緑
七番目の渦。初心者御用達の、二番目に難度の低い迷宮。
内部に草や蔦、花などが生い茂っている。薬草や毒草の採取が可能で、業者の仕事場にもなっている。
低層で採取できるものは毒草が多く、地上でみかけるものと似た形のものはすべて有毒と考えるべきところ。
床は濃緑、壁は薄緑色。暖かい色味で初心者を油断させる。
空気には微弱な毒牙含まれていて、耐性のない者は実力を存分に発揮することはできない。
難度が低いと思われがちだが、十八層が非常にシビアな造り。
既に最下層まで踏破されており、完全な地図が存在している。
鼠や兎に加えて、蛇や蜥蜴などの敵が出現する。
・藍
三番目の渦。橙や緑に飽きたら挑戦するべき、まさに三番目の渦。
四層目から照明がなくなり、暗闇に閉ざされることがある迷宮。
壁にあるスイッチの位置を把握しながら進まなければならない。
床も壁も同じ暗い青色だが、床のタイルは大きく、壁のタイルは小さく細かい。
貴重な「帰還の術符」が見つかりやすいと言われている。
既に最下層まで踏破されているが、完全な地図は出来上がっていない。
鼠や蛇、鹿、熊などの敵が出現する。六層目に脱出不能の大穴があり、粘液の降る罠が多く設置されている。
・赤
四番目の渦。腕が上がってきたら挑むべき、中級者用の迷宮。
「橙」の上位版というべき場所で、敵は強く罠の難度も上がっているが、変わった特徴はない。
最下層まで踏破されているが、完全な地図はまだ出回っていない。
床は暗い赤、壁は爆ぜるような炎の赤。十層ごとに敵が強くなるのが特徴。
十三層目は特殊な造りで、強敵に勝利すれば確実に良いものが手に入るようになっている。
無視して進めばすぐに十四層へたどり着ける。
最下層まで踏破されているが、出回っている地図はまだ半端なもののまま。
踏破者に見せてもらえれば、最下層への道がわかるかもしれない。
・白
六番目の渦。肉体だけではなく、精神的な強さが求められる迷宮。
床、壁ともに真っ白で継ぎ目がなく、境目がわかりにくい。
階段の数が多く、上下移動を何度もしながら下層への道を探す必要がある。
敵の出現が長い間途切れると、気が狂いそうになると挑戦した者たちは言う。
石で出来た人形など、地上の生物とは違った敵が多く出現する。
地図は未完成で、三十層あたりまでは進んだ者が存在している。
・黒
二番目の渦。特に肉体的な強さの求められる迷宮。
床と壁は同じ黒いタイルが貼られており、つなぎは濃いグレー。
他の迷宮よりも天井が低く、幅も少し狭い。曲線の通路があり、地図を作るのが難しくなっている。
罠は少ないが、入ってすぐに敵が出てくるのがここだけの特徴。
獰猛な獣型の魔法生物、固い石人形などが出現し、力のない者の侵入を許さない。
攻略には屈強な戦士と、癒しの力が欠かせないだろう。
地図は未完成で、二十六層あたりまで進んだ者が存在している。
・紫
五番目の渦。「緑」同様植物の生い茂る迷宮だが、毒性が上がっており耐性のない者が進むのは難しい。
床は青紫、壁は赤紫の不吉な色合いで、毒の霧が立ち込めるエリアも存在している。
低層から有用な薬草が生えているが、蔦の下には蛇や蜥蜴が多く潜んでおり、戦闘に長けた者も必要になる。
深く進むほどに毒の耐性が必要になり、ある程度「緑」に慣れた者でなければ下層への挑戦は不可能。
薬草業者たちは二十八層まで降りる道筋をまとめた地図を持っているという。
・黄
一番目の渦。「黄」の名を与えられているが、足を踏み入れた者は「黄金」を感じる迷宮。
床のタイルは金色で縁取られたグレーのタイル。壁はくすんだ白のタイルで、真ん中に金色のラインが入っている。
下層十二層までは、「橙」とほぼ同じ造りになっていることが判明している。
敵はあまり出現しないが、罠がとても多く、そのほとんどがかかった者を即死させるようなもの。
位置と同じ造りのせいで、「橙」と間違えて足を踏み入れる者が一定数存在する。
行きと帰りで解除の難度が変わる罠があり、水場も少ない。
どんなに罠に精通した者がいても進むのが難しい、最下層への挑戦が絶望的だと思われているの最難関の迷宮。
・青
八番目の渦。「黄」と同じくらい、最下層への挑戦を絶望視されている最難関の迷宮。
床は濃淡の青いタイルの組み合わせ、壁は氷のような水色のタイルが貼られている。
入ってすぐの一本道が水没しており、足を踏み入れた者はもれなく水に飲み込まれてしまう。
長い間一層目の進み方すらわからなかったが、深い水場の奥に道が続いていることがわかった。
水の中には凶暴な魚が棲んでおり、水中での戦いを強いられる。
泳ぎや潜水が得意な者を揃えなければ、進むことすらままならないだろう。
いまだ一層目の地図も完成しておらず、ほとんど人の寄り付かない未踏の迷宮。
どの迷宮でも共通で起きる現象として、落としたものの消失というものがある。
魔法生物の死骸、使い終わった消耗品、糞尿、血痕から死体まで、どの迷宮でも一定の時間が過ぎると消え去ってしまう。
消えるまでの時間は、層が深くなるごとに長くなると考えられている。
なので、迷宮に入る時には、絶対に失くしたくない大切な物はどこかに預けておくべきだろう。




