00_Die,Die〈初心者殺し〉
第一話「Die,Die」。サブタイトルは「初心者殺し」。
迷宮に挑もうとやって来たなにも知らない若者たちは誰かに教えられるままに「橙」の迷宮に向かうが、ほんの少しの間違いで別の迷宮、恐るべき「黄」に足を踏み入れてしまうこともある。
親切な第三者に感謝を抱いたまま、死の罠が待ち受ける黄金の迷宮に足を踏み入れ、散った者はこれまでに何人いるのだろう。
だが、時にはそんな恐ろしい罠から無事に逃れられる者もいる。
第一話で馬車に乗り合わせた二人は、船の神の手によって命を救われた。
〇 フェリクス・ラクト
迷宮都市行きの乗合馬車に乗り込み、やって来た青年。
途中下車した地点よりも北にある街からやって来た。
マントの端についていた血は誰のものなのか、語られるのは随分後になる。
登場時の年齢は十八歳。髪の色、瞳の色はともにこげ茶。
性格は真面目で、少し思い詰めるところがある。
身長は百八十センチ。体を特別に鍛えたことはない。
読み書きなどはできるが、戦いの経験はほとんどなし。
両親と妹、弟がいたが、妹以外の家族はすべて殺されている。
攫われた妹を取り戻すと誓って、強くなるために迷宮都市へ向かった。
当初は誰とも馴れ合わずにやっていくつもりだったが、迷宮都市では仲間が必須とわかり、馬車で出会った若者たちと行動を共にすることに。
〇 アデルミラ・ルーレイ
迷宮都市行きの乗合馬車に乗っていた少女。
雲の神に仕える神官で、小柄。顔立ちも幼く、年齢よりもうんと年下だと思われることが多い。
明るく社交的な性格で、髪と瞳の色は赤茶。長い髪を結って、花を飾るのがお気に入り。
登場時の年齢は十七歳。身長は百五十センチほどで、体型も子供っぽい。
故郷には病気の母がいて、迷宮都市へは探索者になると言って出ていった兄を探すために来た。
言葉遣いは丁寧で、外見が幼いだけで非常に芯が強い。
妹を失ったフェリクスと、兄を探すアデルミラ。
二人の間にできた絆は強く結ばれ、運命を大きく動かしていく。
〇 ジマシュ・カレート
フェリクスとアデルミラが食事を取ろうと入った店に居合わせ、初心者たちに必要な知識を与えた「親切な人物」。
探索をするならば「橙」に向かうべきだと唱え、三層までの地図を譲っている。
登場時の年齢は二十三歳。
身長は百七十八センチ。細身で、波打った金髪が印象的。瞳は緑色で、非常にハンサム。
物腰柔らかだが、鋭い人間ならば瞳の奥に潜んだ悪意に気付けるかもしれない。
探索者としては中級レベルで、剣の腕もあり、スカウトの心得も少しある。
〇 ベリオ・アッジ
フェリクスとアデルミラが迷い込んだ迷宮の中を、偶然通りかかった探索者。
同行していたニーロが受けた依頼に付き合い、罠にかかる直前だった二人に声をかけている。
登場時の年齢は二十歳。身長は百七十九センチ。
髪は濃い目の赤茶で、瞳はこげ茶色。探索者としては中級レベルで、剣を扱う。
怒りっぽい性格で、気に入らない相手には嫌味ったらしい話し方をする。
アデルミラの年齢を聞いて笑い、借金返済を娼館勤めでしてはどうかと提案している。
ニーロとは「藍」の迷宮で偶然出会い、行動を共にするようになった。
〇 ニーロ
フェリクスとアデルミラが迷い込んだ迷宮の中を偶然通りかかった魔術師。
知り合いから回収を頼まれて、仕事中だった。
登場時の年齢は十六歳。赤の踏破から三年経ち、大きく成長している。
身長は百六十九センチで細身。髪と瞳の色は灰色で、「無彩の魔術師」の通り名を持つ。
フェリクスに請われて「帰還の術符」を譲り、代わりに形見の指輪を預かった。
二人との出会いに感じるものがあったらしく、樹木の神殿に向かうよう案内している。
― 迷宮都市豆知識 ―
□乗合馬車の御者はくいっぱぐれなしの安定職
迷宮都市に向かう若者は大勢いて、王国の東側で暮らしている者はまず王都へ向かい、そこから直通の馬車に乗る。
王都~迷宮都市間を走る馬車を用意できれば、安定した収入を得られるだろう。
御者をやるのなら、余計な話はしない方がいい。ついついアドバイスをしたくなる者には向かない仕事だ。
□「橙」と「黄」は似て非なるもの
色合いが近い二つの迷宮は、上層部の地形はほとんど同じになっている。
「橙」の地図があれば「黄」もある程度は歩けると思われがちだが、致死の罠が大量に待ち受けているので、「橙」の地図片手に「黄」へ挑むのはやめておいた方がいいだろう。
□特別なものが置かれている場所は、特別な造りになっている
フェリクスが過去に聞いた歌の中にあった一節。
迷宮冒険譚はたくさんあるが、ほとんどが詩人による適当な創作か、他人の歌をコピーないしほんのりアレンジしたものを披露しているだけというのが実情だ。
「絶対に真実をもとにしている」を謳う詩人もいるが、それが本当かどうか、見抜くのは至難の業だろう。
詩人に聞いた話を頭に叩き込んでも、残念ながら探索で役に立つことはあまりない。
血沸き肉躍る冒険譚が聞きたいのなら、探索者に聞くのが一番確実。
それすらも「すべて本当」かどうか保証はできないが、探索の参考になる話は聞くことができる。
ちなみに、この一節は半分は本当である。
特別な造りになっているところもあるし、なっていないところもある。
この真実にたどりつくには、相当な道のりを歩き通す必要があるだろう。




