設計図
「ねぇ、こんな感じでどうかしら?」
ミリエスが家の設計図を ユニカに見せる。
前世の時から、設計図を描くのは得意であった。高校一年生のとき建物の設計図を描くコンクールがあって、夏休みの選択課題だったからやっただけだったが、優秀賞を貰うことができた。だから、本物の建築士とは程遠いだろうが、ましなできではあると思いたい。
「おお、いいんじゃねえか? にしても、凄いな! こんなにしっかりと描けるなんて!」
「••••••」
思わず、ぽかんとしてしまう。いつぶりだろうか。人に褒められたのは。コンクールで優秀賞を取った時にはもう、おばあちゃんたちは死んでたし。ああ、そうか。おばあちゃんが、病室で息をとった九歳の時が最後か。
「おい、なんで泣いてんだよ!」
ユニカが焦ったような顔になる。
「え?」
ミリエスが頬に手をやると確かに濡れていることがわかった。
「いや、久しぶりだったから••••••褒められたの」
「久しぶりって••••••お前の親父は娘を溺愛してるって有名なのに?」
ユニカが驚いた顔で言った。
そういえば、ミリエスは愛情を与えられながら父と母に育てられていた設定だった気もする。だけど、私は祖父母にしか褒められたことはない。母は私が産まれてすぐに死んでしまったようだし、勿論父は義母を心のそこから愛していたから、義母が疎んでいた私を褒めることなんてなかった。でも、別にそれは気にしてなかった。政略結婚のようにして結婚した私の父と母はおそらく愛し合ってはいなっただろうし、母が死んでしまって本当に愛する人と結婚できて、子供まで産まれたら私のことなどどうでも良いことなんて分かりきっていて、義母が旦那の前妻の子供を気に入らないのなんて、よくある話だ。それに母方の祖父母は私の事を愛してくれていた。それだけで良かった。おじいちゃんが病気で死んで、おばあちゃんがそれを追うようにして死んでいったけど、最後まで私は2人に愛されていた。それだけで十分のはずだった。その思い出だけで大丈夫だと思っていた。それに、一応大手企業の社長である父は私を追い出す事は世間体的にできなかったようで、家には住まわせてくれた。たとえ、朝早くに家族全員の食事を作り、掃除をし、家事を全てこなして、自分が沸かした風呂に一番最後に入り、義母から受ける暴力に耐えるような日々でも、私は耐えることができていた。私は祖父母から朽ちることのない愛をたくさんもらっていたから。だけど、やっぱり嬉しい。心が暖かくなる。そういう感情は久々だったから、涙が止まらない。
「ううん。ありがとう。ユニカ」