95話 雲行き怪しいですが何か?
試験三日目。
前半は武芸の実技試験で、後半は面接の予定だ。
リューは、前日の失敗?を取り戻すべく、気合いが入っていた。
そんな中、実技を終えた受験者達の声が聞こえてきた。
「剣の実技の試験官、強すぎるよ!お陰で何もさせて貰えなかった。あれじゃ、剣で実技受ける奴、みんな落とされるぞ」
受験資格はそれこそ、十二歳からあるのだが、受験者の中には二十歳前後の者もいる。
その為、剣の実技には差が出るので、試験官はそれに対応する為一流の者である事が多い。
今回の試験官はそれに加えて、時間を気にしてるのか、早め早めに終わらせようとしてる節があった。
「……最悪だ。昨日の失敗を挽回しないといけないのに……」
リューは頭を抱えた。
「落ち着きなさいよ、リュー。相手が早く終わらせ様としてるなら、先手先手で攻撃して粘ればいいのよ!」
「攻撃こそ最大の防御だね!?確かに、リーンの言う通りだよ!攻めまくって時間を稼いで印象に残って見せるよ!」
リューはリーンに感謝すると、気合いを入れ直した。
「次、受験番号1111番。得手は?」
「剣です!」
「では、そちらの試験官の前に」
「はい!」
リューは元気よく返事をすると、問題の試験官の前に歩み出た。
試験官から、模擬戦用の刃の無い剣を投げて渡される。
「……年齢は?」
試験官は相手がまだ小さい少年なので、確認してきた。
「十二歳です」
「……来年また受け直せ」
剣の試験官がそう言うと、
「では、実技試験始め!」
と、号令がかかった。
その瞬間、リューは一気に踏み込むと、距離を詰めて試験官に剣を突き付けた。
剣の試験官はピクリとも動けず、目の前に寸でのところで止められた剣先に冷や汗をかきながら、
「参った……」
と、一言、答えるのだった。
えー!?終わるの早すぎるよ!……あ!わざと負けて終わらせるパターンもあるのか!
リューは一瞬で実技試験が終わったので、自分の受験もこれで終わった事を悟った。
隣では、リーンが弓矢で、動く的を次々に射て歓声が上がっている。
あちらは絶好調の様だ。
それを横目に、リューはショックにうな垂れながら、次の受験者に代わるのだった。
「リュー、どうだったの?」
リーンがリューの元にやって来た。
「一瞬で終っちゃった……」
リューはがっくりしながら、リーンに答えた。
「……えっと。……そうよ!まだ、面接があるからそんなに暗い顔しないの!最後まで諦めちゃ駄目。私も最後まで頑張るから一緒に合格しましょう!」
リーンに気を遣わせる程、凹んでいたリューであったが、確かに最後まで諦めたら駄目だ。
ランドマーク家の名を汚さない様に最後まで堂々としていよう!
そう、自分に言い聞かせるリューであった。
「受験番号1111番の君は、ランドマーク男爵?の三男……?」
面接官が、書類を見ながら、確認してきた。
「はい!そうです!」
「ははは。長男ならともかく、よく三男で受験させて貰えたね?」
完全に小馬鹿にした物言いだった。
集団面接方式なので、受験生が他に四人並んで座っていたが、他の受験生もそれに賛同する様にクスクスと笑っている。
「いくら、この王立学園が平等な校風で上も下も無いと言っても、万が一、万が一合格できても厳しいかもしれないなー」
この面接官はどうやら、リューにターゲットを絞って、いびりにかかってきた様だった。
日頃のストレス発散が目的か、それとも、面接に飽きたのか、ちゃんと面接をする気が無い様だった。
この、試験官……!
リューは微動だにせず、面接官の言う事を受け流しながら、内心、かなりお怒りモードに入っていた。
あとで、住所調べて家の庭に、築百五十年の家を置いて来てやる!
と、誓うリューであった。
「おい、そこの助手の君。ここの受験者達の簡単な試験結果がまだ届いてないよ?」
面接官はどうやら、試験結果を見ながらリューをいじめるつもりの様だ。
「すみません、こっちの書類に挟まってました!どうぞ」
助手の男性が面接官に慌てて試験結果の書類を渡す。
「本当なら、教えては駄目なんだが、早めに不合格は知っておきたいだろう。来年の受験の為に悪いところだけ指摘してやるよ」
ニヤニヤしながら、面接官は書類に目を通す。
そして、固まる。
受験生達は面接官の様子に不審がった。
面接官は、はっと正気に戻ると、リューの成績の書類とは別の履歴書に目を通し直す。
すると、その後ろに一枚のメモが添えられていた。
「王家からの推薦状有り!?」
面接官は思わず、口に出してそう言った。
リューは一瞬何の事やらと思ったのだが、そう言えば、本当なら兄ジーロが以前、王家の推薦で受験する予定だった事を思い出した。
どうやら、ジーロを推薦できなかった代わりに自分を推薦してくれたらしい。
受験生達も面接官の言葉にざわついた。
「……と、まあ、こういう嫌がらせをする面接官もいるから気をつける様に」
と、面接官は言い訳をすると、今度は丁寧に面接を始めるのだった。