第901話 二人の実力を試しますが何か?
リューは早速、祖父カミーザと夏休みの冒険を行うべく、準備を行う事にした。
まずはメンバー選びである。
カミーザ、リュー、リーンは当然だが、他をどうするかだ。
そこで、話を聞いて立候補したのが、ランドマーク本領にいる意外な者達だった。
「若、我らもそのメンバーに入れてもらえませんか?」
ノーエランド王国裏社会の二大巨頭として、名を馳せたゴーキがリューに頼み込んできた。
「俺も、お願いします、若。年齢に反したカミーザ様の強さに、感服したんです。俺達で役に立てませんか?」
ゴーキと同じく、二大巨頭として、『風神一家』を率いていたフージンが、願い出た。
ゴーキとフージンは水と油と表現されるくらい不仲なのは有名だった。
しかし、魔境の森に送られてきての、この一か月、どういった心境の変化があったのか、見た限り仲が悪そうには見えない。
「……わかっていると思うけど、魔境の森の奥地は、二人が知っている森よりも危険がいっぱいなんだ。仲間との呼吸が合わなければ、即、死に繋がる事になるかもしれない。──二人は元々仲が悪かったけど、それは大丈夫かい?」
リューは、二人がどこまで仲を取り戻したのか、確認した。
「確かに我ら二人は、ノーエランド王国時代は、犬猿の仲でした。殺そうとしていた相手ですから、お互いの事は、親以上によく知っています。魔境の森でスーゴさんにお世話になっていた間、仲間と協力しないと生きていけない過酷な環境を経験しました。最初こそ、こいつの事は、隙あらば命を狙うつもりでいましたが、あの森で生きるには、頼もしい仲間になるのだと気づかされました」
大組織のボスとして、貫禄に満ちていたゴーキが、今やリューの部下として謙虚な姿勢を見せた。
「俺もです。ゴーキが、魔物相手に壁役として時間を稼いでくれる事で、魔法を使う事ができました。お互い、助け合う事で力を発揮できる事がわかったんです。──それに、俺は今年で四十二ですが、カミーザ殿を見て、歳に関係なく進化できる事を知りました。若達の足手纏いにならないよう二人で、力になりたいです」
フージンも謙虚な姿勢を見せた。
それに、二人とも、年長者であるカミーザの強さに、中年の希望の星を見出しているようだった。
「……二人の気持ちは、わかった。ただし、試験を行うよ。スーゴから、二人の事は聞いているけど、細かい実力はわからないからね。一緒に行くにしても力を把握しておきたいし」
「「もちろんです!」」
ゴーキとフージンは、声を揃えて、目を輝かせるのだった。
「──じゃあ、審判は私がするけれど、二人ともリューの胸を借りるつもりで頑張りなさい」
リーンは、自分が相手できなくて残念そうだ。
「「はい!」」
ゴーキと、フージンは、真剣だ。
「リューは大丈夫か? 昨日、あの二人の戦っているところを少し見たが、結構やりおるぞ?」
カミーザが、何気にゴーキとフージンを高く評価していた。
だが、その割に呑気な物言いなのはいつも通りだ。
リューは、マジック収納から、ドス『異世雷光』を取り出す。
どうやらこちらも、最初から本気のようである。
「坊ちゃん、殺しちゃ駄目ですよ?」
二人の面倒を見ていた領兵隊長のスーゴが、リューに釘を刺した。
これは、リューが強すぎるから手加減しろと言っているのではなく、二人が強いので、加減する余裕なく二人を殺さないように、という理由からだ。
(スーゴが、そんな事を言うって事は、二人ともかなり成長したって事か……。これは、リーンの治癒に頼る事になりそう……)
リューは、内心苦笑すると、二人と対峙するのだった。
「それでは、──始め!」
リーンが、試合を開始した。
開始と同時に、ゴーキが、瞬時に飛び出し、リューに突っ込んでいく。
それに合わせてフージンは即座に魔法の詠唱に入った。
「お? フージンは複数魔法の詠唱だね」
リューがリーンから聞いていたところでは、魔法の威力は凄まじいが、単独魔法しか使えなかったはずだ。
この一カ月で、必死に覚えたのかもしれない。
リューは感心するが、ゴーキの攻撃は、余裕を持って躱せるものではない。
ゴーキの武器はその拳だが、籠手を装備しているので、当たれば部位を軽々と破壊する威力を持つ。
さらには、リューがマネするようになった、瞬時に距離を詰める技ももっており、これがかなり厄介だった。
前回、その技で、リューの首筋を掠め、負傷させるくらいなのだ。
今回も、ゴーキは、その技を繰り出して距離を詰め、リューの首筋を狙う。
だが、リューも同じ技を喰らう程、馬鹿ではない。
ゴーキの攻撃を予測し、同じ技を使って、カウンターを狙う。
リューのドスが、ゴーキの胴体を掠め、血飛沫が上がった。
「くっ!」
ゴーキは、痛みに眉をひそめるが、動きを止めない。
しかし、ゴーキの攻撃はリューを捉えきれなかった。
そこに、フージンの魔法が、ゴーキの身体能力を上げた。
即座にゴーキの速度が増し、拳が、リューの頬を掠める。
「ゴーキの動きに合わせて魔法をかけたね!」
リューはフージンが戦う二人の動きを見ながら、魔法を使用したので、コンビネーションに感心した。
だが、それも一瞬である。
リューは無詠唱で、自分に身体強化魔法を唱えると、また、差を開く。
それでも、ゴーキの攻撃の手は止まらない。
「二人とも、狙いはわかっているよ?」
リューにもさほど余裕はない。
ゴーキの動きは、やはり化け物クラスレベルだし、支援に回っているフージンの魔法も、威力だけならリーンレベルに達しているのはわかっていたからだ。
「「それでも!」」
ゴーキとフージンが、声を揃えて応じた。
そして、ゴーキがリューに組み付こうとした。
リューは、ゴーキの籠手に包まれた手をドスで受け流し、そのタイミングで、『対撃万雷』という雷魔法を繰り出した。
「ぐぁぁぁ!」
ゴーキが体中を駆け巡る雷に苦悶の表情を浮かべるが、それでも、動きは止まらなかった。
ゴーキの得意技は、闇魔法と火魔法を合わせて生み出した黒炎を纏いし拳だが、まだ、使用していない。
リューはそれが気になっていたが、それもすぐに理由がわかった。
ゴーキの、瞬間移動攻撃は、一度の戦いで、何度も使えるものではないのだが、黒炎の拳を使用しないのは、魔力温存の為だったのだ。
温存する事で、肉体の限界をカバーする事に回し、瞬間移動攻撃を一度でも多く使用するのが狙いだったのだ。
ゴーキは、リューのドスの攻撃に痺れながらも、リューの背後に瞬間移動して、リューを羽交い絞めにした。
その瞬間、フージンが、攻撃魔法を発動した。
あまりに息の合った連携攻撃に、リューも目を見張る。
風が凝縮された小さな猛威の塊は、真っ直ぐリューに向かっていく。
リューはゴーキに背後から掴まれて、身動きが取れない。
と思ったのは、二人だけだった。
リューは密かに詠唱していた火魔法を発動し、フージンの放った魔法と衝突、呆気なくその場で霧散した。
これには、満身創痍のゴーキと、魔法を放ったフージンも目を剥いて驚く。
「「ば、馬鹿な!?」」
次の瞬間、ゴーキの手を掴んで捻り上げると関節を極め、地面に押し付ける。
それと同時に、無詠唱の土魔法で、大魔法を使用後に動きが止まっていたフージンの手足を封じ、拘束してしまうのだった。




