第900話 魔境の森の謎ですが何か?
祖父カミーザは、孫のリューが興味を持った事に苦笑した。
リューは、王都で忙しく働いており、ランドマーク家の為にも、四六時中尽くしてくれていたからだ。
だが、話す分には問題ないかと考えたカミーザは、旅の思い出として、魔境の森の奥について語るのだった。
「──魔境の森を進んで十日くらい経った頃かのう……。文字通り、氷の森と呼んでよい場所に辿り着いてな。全てが凍っているのじゃが、その中で植物も生きているという不思議な光景が広がっておった。最初はそれが珍しかったから、楽しんでおったんじゃが、夜は凍えそうなくらい寒くてのう。暖を取る為に、殺した大型魔物の腹に切れ目を入れ、その中に入って夜を乗り切ったもんじゃ」
聞けば聞く程、一人でよくそんな奥地まで辿り着き、生きて戻れたなと感心する内容が続く。
「──そこまでの間に、二度死にかけたわけじゃが、十日程かけて氷の森を抜けたところに、街が急に現れてのう」
「魔境の森の中に、街!?」
リューは祖父カミーザの突拍子もない話に驚かずにはいられない。
魔境の森は、ほとんどが前人未踏の領域であり、そこに街があるなど、考えられなかったからだ。
「うむ。街と言っても、古代獣人族と呼ばれる連中が、独自の結界まで張って守っている隠し村と言った方がいいかもしれん。そこの連中は、獣の耳と尻尾がない儂を珍しがって歓迎してくれたんじゃが、儂が探していた素材『魔境の雫』について聞いたら、色めき立って、大変じゃった。なんでも、その素材を持っているのは、周辺一帯を支配している古代黒竜と呼ばれる相手らしく、手に入れるには、その目から搾り取るしかないらしい。古代獣人族は、古代黒竜を恐れておったから、危険だと止められたわけじゃ」
「それで、引き返してきたわけだね?」
「いや、挑戦したんじゃ。そうしたら、激戦の末、死にかけてのう。あれはヤバかったわい。古代獣人族の隠し村を頼るわけにもいかず、巻き込まないように、ひたすら傷を押して逃げるしかなかった。助かったのはハンナから貰った最上級ポーションのお陰じゃ。あれが無ければ、確実に死んでいたわい。わははっ!」
カミーザは、呑気に笑っている。
「おじいちゃん、無理しすぎだよ……! ハンナのポーションを頼るって、本当にヤバかった証拠じゃん!」
リューは祖父に呆れるしかなった。
カミーザは、孫から貰ったポーションは、使わずに大事に保管する! と言っていたくらいだったのだ。
それを使用するという事は、そういう事である。
「古代黒竜は、確かに強くて勝てそうになかったが、儂レベルの者があと数人いれば、『魔境の雫』が手に入ったかもしれんのだぞ?」
カミーザは本当に悔しそうだった。
愛する妻の失われた魔力を、回復したいという気持ちから無理をしたのだが、諦めていない様子も窺えた。
「あなた、もう、無理しなくていいのよ? 私は魔力が無くても幸せに暮らせているんだから」
祖母ケイは、カミーザを諭す。
「しかしのう、数人いれば、あの古代黒竜を泣かせる事も出来たと思うぞ?」
カミーザは、負けん気を出している。
いや、死にかけたんだよね?
リューは、そんな元気な祖父に、内心でツッコミを入れて苦笑するしかない。
「おじいちゃん、僕達、もうすぐ夏休みだし、精鋭を組織して、もう一回挑戦してみる?」
リューはとんでもない事を提案した。
「リュー、何を言っているの。駄目よ、そんな事。セシルさんに怒られるわよ」
祖母ケイは、孫に無理をさせるわけにいかないので、語気を強めて注意した。
「大丈夫だよ、おばあちゃん。おじいちゃんの情報を基に対策していけば、無理はせずに済むと思うから」
リューはカミーザの想いがなんとなくわかったから、力を貸したい気持ちがあった。
それに、リューは『次元回廊』持ちである。
多少の無茶も、『次元回廊』で回避できるから、カミーザの目的を達成してあげたかった。
それに、祖母ケイが魔力を失ったのは、大戦時にみんなを守る為、無茶をした結果だと聞いていた。
その事で、カミーザは悔いが残っているからこそ、今回、無茶をしたのだろう。
リューとしては、家族の悩み事を解消できるなら、協力したい。
「リュー……、ありがとう。孫の言葉に甘えて、力を借りようかのう」
普段なら孫を頼らないカミーザだったが、今回は、よっぽどの相手ということだろう。
断る事なく、リューの申し出を受け入れるのだった。
「カミーザおじさんが、一回の旅で三度も死にかけるって、よっぽどよね」
『次元回廊』で、王都に戻ったリーンが、学校に向かう馬車の中で心配を漏らした。
「うん。でも、おじいちゃんのお陰で、前人未踏の魔境の森の奥地に人が住んでいる事実が発覚したのは、大きな発見だよ。それに、氷の森とか、夢しかない!」
リューは目を輝かせている。
「カミーザおじさんの為と言いつつ、自分の好奇心の為でもあるわよね?」
リーンが呆れた。
「第一は、おじいちゃんとおばあちゃんの為だから! ……まあ、魔境の森の謎とか、そこに住む人への興味がないと言えば、嘘になるけど……」
リューは、リーンの厳しい視線に耐え切れず、正直に答えるのだった。
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