第899話 祖父の帰還ですが何か?
王立学園初となる名誉生徒になった事でリューとリーンは、期末テストで苦労する事は無くなった。
そうなると、他の生徒達は俄然やる気を見せた。
少なくとも、二つ順位が上がる事が、確定しているのだから当然である。
リズ王女クラスも、エマ王女クラスも、上位の成績を修めている者は、一桁台の順位を目指し、テスト期間である一週間、猛烈にテスト勉強を行った。
「驚いたよ。リューとリーンが名誉生徒になった事で、卒業資格を得て、テストも免除されてるとはなぁ」
テスト明け、ランスが、羨ましそうにぼやいた。
「リューと私はほぼ一位と二位を取り続けていたんだから当然でしょ。ランスも頑張りなさいよ」
リーンはランスにぐうの音も出ない正論を告げた。
「二人が急にいなくなると、私、緊張してきたわ」
リズ王女が珍しく弱気とも取れる言葉を口にした。
リズ王女は王家の者として、常にプレッシャーに晒されながら、みんなの手本となるべく、好成績を残してきた。
だが、今までリューとリーンが一位、二位を独占し続ける事で、本人も気づかぬうちに、楽に勉強できていたようだ。
これで、一位を取れなかったら、言い訳ができない立場だと感じたのだった。
「……リズ、大丈夫だよ。今回、私が一位を取って、楽にしてあげるから」
シズが、親友であるリズのプレッシャーに気づいて、冗談なのか本気なのかわからない事を言いだした。
「おいおい。リズの地位を脅かすのは、ここにいる全員だぜ? みんな前回のテストで上位を占めているんだからさ。そして、今度こそ俺が、上位を脅かすぜ?」
ランスが、ニヤリと笑みを浮かべる。
以前のランスなら、みんなにいつもテスト結果で負けていたので、冗談と捉えただろうが、最近のランスは、勢いに乗っていた。
先の大戦でリューが学園に助けに来るまでの間、中心となってリズを守り通していたのが、ランスだった。
ランスの奮戦で教室は死守されていたのだ。
もちろん、重傷を負ったナジンも相当頑張ったのだが、ランスが一番の功労者だったと言えるだろう。
一皮剝けた感じである。
そこから、総合武術大会での優勝に繋がっているようだった。
「今のランスが言うと、冗談に聞こえないから怖いよな」
イバルが、苦笑した。
「だが、自分も今回は手応えがあるから、負けないぞ」
ナジンが自信に笑みを浮かべる。
「みんな自信があるみたいだな。だが、うちはリュー達からじかにテスト範囲を見てもらっているんだ。負けないぞ」
イバルとしては、ミナトミュラー家の人間として、負けられない戦いがそこにはあった。
スードとラーシュ、ノーマンも力強く頷く。
「……毎回思うけど、──みんな、リュー君達に見てもらうのは反則だからね?」
シズは、頬を膨らませると、愚痴を漏らす。
「「「それな!」」」
ランスとナジンが同意する。
リズ王女も、同意とばかりに横で頷くのだった。
リューとリーンが関わらない、最初の期末テストの結果発表があと数日となった頃、ランドマーク本領と魔境の森の境に、行方をくらましていた祖父のカミーザが戻ってきた。
その日、領兵隊長スーゴが、魔境の森奥深くで、リューから任されていた若手の部下や、ノーエランド王国から連れてきた二人のゴーキとフージンの教育に励んでいた。
そこへ、上半身包帯姿となった祖父カミーザが、眼光鋭いシリアスな表情で、森から戻ったのである。
「カミーザ様、大丈夫ですか!?」
最初に気づいたスーゴが、駆け寄る。
カミーザの姿は、大怪我を負った歴戦の戦士然としていたが、見た目よりは、大丈夫そうだった。
「おう、スーゴか。なんじゃ、知らん顔ぶれが数人いるが、リューから預かった連中か?」
祖父カミーザは、シリアスな雰囲気から、いつもの飄々とした雰囲気に戻った。
「ええ、カミーザ様がいなくなった後に、坊ちゃんに任されてここで教育をしていました。……って、今はカミーザ様の話ですよ! どうしたんですか、その姿は!」
スーゴは、カミーザの姿から、魔境の森の奥地で相当苦戦する相手と戦った事は容易に想像できた。
「これか? 魔境の森の奥地はヤバくてな。勝てなさそうな相手がごまんといて参ったわい」
祖父カミーザは、笑いながら、怖い事を言う。
これには、スーゴもどう返していいのか、戸惑った。
「……スーゴ殿。こちらの方が噂の人物ですか?」
ひと月前とは違い、礼儀正しくなっているゴーキが、教育係のスーゴに聞いた。
ゴーキとは犬猿の仲のはずだったフージンも、その横で、興味深げにカミーザに視線を向けている。
「この方がリュー坊ちゃんの祖父、ランドマーク家の初代当主カミーザ様だ。失礼が無いようにしろよ。──それで、カミーザ様、傷は大丈夫なのですか?」
スーゴは、カミーザに肩を貸そうと歩み寄った。
「大丈夫じゃ。傷はほとんど塞がっとる。まあ、何度か、死にそうにはなったがな。わははっ!」
カミーザは気にする素振りも無く笑うのだったが、ただならぬ雰囲気を持つこの年上の戦士に、ゴーキとフージンは圧倒されるのだった。
「おじいちゃんが!?」
リューとリーンは、日課であるランドマーク本領の朝一番の訪問の際に、失踪していた祖父カミーザ帰還の報を聞く事になった。
いつもなら、倉庫の荷物をマジック収納で回収したら、すぐにランドマーク総合ビルに戻って従業員に荷物を預け、そのまま学校に向かうのだが、リューは急いでカミーザ達が住む離れの家に向かった。
「おう、リュー。どうした? わざわざ家まで来て」
カミーザは、ひと月ぶりのかわいい孫の顔を見て呑気に聞く。
「おじいちゃん、この一か月、何をしてたの? というか怪我は大丈夫?」
リューは、上半身に包帯を巻いた状態で食事をとっている祖父を見て、安堵の溜息を吐いた。
見た限り、いつもの祖父だ。
「怪我はもう大丈夫じゃ。セシルさんが治療してくれたからのう。まあ、こっぴどく怒られたがな。わははっ!」
カミーザは、笑って誤魔化す。
一緒に食事をとる祖母のケイは、苦笑しているだけだ。
リューは、その様子を見て、夫婦喧嘩はしていないようだと、また、別の意味で安堵した。
リューにとってこの二人の関係は理想的だったからだ。
祖父の無茶も、祖母はほとんどの事を大目に見ていた。
お互い相手を信用しているからこそ、怒る事も喧嘩する事も無く、穏やかな時間を過ごせているのだ。
「おじいちゃん、それで、なんで、魔境の森の奥に出かけたの?」
リューは本題に入った。
「理由か? ……実はのう。黄竜フォレス様に、良い話を聞いてな。ケイの魔力を取り戻す事ができるという素材を取りに行ってたんじゃ」
カミーザは、驚くべき事を口にした。
「ケイおばさんの魔力?」
リーンが、初耳とばかりに聞き返す。
「リーンちゃんは知らなかったか? ケイは昔、魔力を失ってしまったんじゃ。だから、大戦以降は、ここでゆっくり過ごしているんじゃよ」
カミーザは苦笑した。
「あなた、もういいのよ?」
ケイも苦笑すると、カミーザに、無理をしないように諭す。
「あと少しだったんじゃがのう……。儂一人では、ちと難しかったわい」
カミーザは、苦笑に紛れて、本当に悔しそうな表情を浮かべた。
「おじいちゃん、詳しく聞かせてくれる?」
リューは、大好きな祖父の力になれないか、と思うのだった。




