第898話 後輩達とテスト勉強ですが何か?
王立学園では、期末テストが始まった。
ただし、リューとリーンは、すでに卒業資格を取っている事から、テストは免除されている。
その為、二人は、ミナトミュラー家の従業員であるイバル、スード、ラーシュ、ノーマンをランドマーク総合ビルの自宅に呼んでテスト勉強を見る事にした。
そこに、新一年生であるハンナとノーマンの妹ココ、ハンナの親衛隊であるイトラとフレトも参加する。
主にリューが友人達三人を見て、リーンがハンナ達一年生を担当した。
母セシルが王立学園の教科書や勉強内容を聞いて、傾向と対策を練り、小テストも用意してくれているから、勉強会はかなり有意義な内容になっていた。
「中間テストの時は、ハンナちゃんとココちゃんは、一位、二位だったんだって?」
イバルが、勉強の合間の休憩時間に、小耳に挟んだ情報を口にした。
「リュー君とノーマン君の妹さんは、凄いですね」
ラーシュも、二人の才女に感心する。
「うちの妹は、若様の妹君には敵わないと言ってましたよ」
ノーマンが、ココから直接聞いた話を、そのまま、みんなに話した。
「私は、お母さんから学んでいるし、リューお兄ちゃんとリーンが手本になっているから、恵まれているんだと思う。でも、ココちゃんは、お兄さんから学んで、あとは独学だから、ココちゃんの方が凄いよ」
ハンナは成績トップでも驕る事なく、自分の立場を冷静に分析していた。
「ハンナちゃんは、人一倍努力しているから、凄いんだよ。私も頑張らないと追いつくどころかあっという間に引き離されちゃいそうだもの」
ココはココで、親友であるハンナを尊敬しており、その姿勢を見習っていた。
「こう見ていると、どこかの上司二人を見ているみたいだな」
イバルが、笑ってリューとリーンを見る。
「ふふふっ。そうですね」
ラーシュが同意する。
「若様達は、規格外ですよ?」
ノーマンは妹と比べるつもりはないようだ。
「主とハンナさんは似ていますね」
休憩時間も黙々と復習をしていたスードが、顔を上げると指摘した。
「「「確かに……」」」
その場にいたほぼ全員が、同意した。
リューもハンナも才能はもちろんだが、努力を怠らない人なのだ。
それに、本人は謙虚で驕るところが無いから、付け入る隙も無い。
あるとしたら、辺境育ちという事で、中央で盛んなダンスや礼儀作法に疎いというところくらいだろうか。
三年生になったリューは、今でこそダンスもまともになっているが、一年生当時は、酷いものだった。
練習相手だったリーンの足を踏む事は度々で、テストではリズが踊る相手になってリードしてくれたから、及第点を取れたようなものである。
「私もダンスは苦手かな」
イバル達がリューの苦手だったダンスを話題にすると、ハンナも兄同様苦手だと漏らした。
この辺りも兄妹といったところか。
だが、長男タウロや次男ジーロは、ダンスはそこまで苦手ではない。
リューはともかく、ハンナが苦手なのは、幼少時代から、兄であるリューの背中を追って、マネをしていた事が根本にあった。
「自分達もダンスとは縁がなかったので、お嬢の練習相手ができなくて、困っていたんです」
ハンナの親衛隊であるイトラとフレトは自分達の不甲斐なさに反省した。
「ランドマーク本領でダンスと言ったら、祭りの時に男女で豊作を祝う踊りくらいだからなぁ」
リューは、言い訳をする。
「良くも悪くも環境だろうな。中央貴族の間でダンスは必須だから、子供でも踊れるのは当然だが、リュー達のところでは、必要性が無いだろう?」
イバルは元公爵子息として嫌になる程、幼少時代に叩き込まれた事を思い出す。
「この中では、イバル君が一番得意だよね。じゃあ、今からダンスレッスンを始めようか。一年生は、イバル君に教えてもらうといいよ。こっちはみんなで練習」
リューは筆記の勉強ばかりだったので、気分転換に実技の試験があるダンスの練習に切り替えた。
ラーシュとノーマンは、意外にも少し嫌そうな顔をする。
実はこの二人、大抵の授業をそつなく熟しているが、やはり、そこは平民出身である。
密かにダンス授業は、苦手としていた。
それでも、及第点は取れるくらい、そつなく熟していたのだが、苦手意識というのは、それとは別物だった。
「はははっ。僕もリズにリードされて踊った時に、ダンスが楽しいものだと思えたけど、それまでは、苦手意識しかなかったからね。楽しく踊れるようになれば、克服できると思うよ」
リューは笑って、二人を励ます。
ちなみに、同じ平民出身のスードは、意外にもダンスが得意だった。
元々、体を動かす事は得意、という意識があったので、抵抗がないらしい。
「楽しく……、ですか?」
ノーマンは、難しそうな顔をする。
貴族とは縁遠い人間だと思っているから、苦手意識もそこからだろう。
だが、実際は、エマ王女の護衛役として、この国に同行し、同じく貴族であるリューに雇われる事になった。
王族や貴族に縁深い事この上ないのだが、ノーマンはそうは考えていないようだ。
ラーシュも卒業後はミナトミュラー商会の従業員として働き、ゆくゆくは一人前の商人になる事を目指しているから、ダンスの必要性を感じていない。
「二人とも、すでに王立学園に入学した時点で、貴族と人脈ができているんだから、楽しみながら覚えなよ」
リューは笑ってラーシュの手を取る。
リーンは、ノーマンの手を引いてリードする。
二人は困惑しながらも雇い主達に手取り足取り教えられながら、ステップを踏むのだった。
ハンナ達もイバル指導の下、基礎のステップから、練習を開始した。
イバルはひたすら、基礎を教え、出来たら褒めていく。
これは効果があった。
注意は一切せず、出来たら褒める事で苦手意識を付けさせないようにしたのだ。
ハンナ達は、最初こそ真剣な表情で取り組んでいたが、お陰で途中から笑顔を見せるようになり、楽しそうだった。
「イバル君、教えるの上手だね。早く気づいて教えを乞うべきだったよ」
リューは、イバルの意外な才能に、真面目な顔で言う。
「俺がリューにダンスを教えたら、点数差がさらに開いて困るじゃないか。それに、もう必要がないだろ」
イバルは手拍子を取って、ハンナ達の踊りを見ながら苦笑した。
ハンナ達は楽しそうに、踊っている。
「これならハンナ達は、僕が一年生の時、苦労したような事にならなくて済みそうだね」
リューは安堵する。
可愛い子には苦労をさせよ、とあるが、どうやらリューは、妹に甘いようだった。




