第897話 卒業資格ですが何か?
リュー、リーン、スードの学園復帰で、学園は色々と規則を変更する方向で検討を重ねていた。
先の大戦では、クレストリア貴族として、リューが活躍した事は言うまでもない。
まだ、十四歳だが、すでに、一人前の貴族として、名を馳せている。
リーンもその従者として、立派に務めを果たし、オサナ国王だけでなく、前国王からの信頼も厚い。
学園での成績を考えても、他の生徒とは一線を画しており、それだけで、学園側としては、卒業資格を与えていいと考えていた。
だが、リューとリーンは初めての学園生活を満喫しており、友人達との交流も大事にしているから、学園側は、リューの意思を尊重する形で在席させている。
「最早、ミナトミュラー君とリーンさんを特別扱いしても、他の生徒から文句は出ないでしょう。ならば、彼らには卒業資格を与え、本人が希望する時期に卒業できる事とし、卒業までの試験は免除。在学中は、クレストリア王国貴族としての振舞を持って、他の生徒の模範となってもらう、というのが、彼の扱いでいいのでは。リーンさんも、英雄リンデスの娘として、相応しい成績と実績があります。この二人については、名誉生徒という枠組みにしてはどうでしょうか?」
職員の一人が、職員会議で挙手すると、リューの今後の扱いについて具申した。
他の職員からも、賛成の声が上がる。
学園の人間にとって、リューは先の大戦で学園の生徒、職員だけでなく、教室に立て籠もるリズ王女も救ってもらっていたから、リューを特別扱いする事に反対する者はいない。
学園長であるチューリッツ元伯爵も、リューへの恩があるから、同意した。
「それでは、ミナトミュラー君、リーンさんは、本学園の名誉生徒とする。エリザベス王女殿下、エマ王女殿下を差し置いてではあるが、この国の貢献度を考えたら、誰も反対するまい」
学園長は、職員の前で宣言すると、オサナ国王に具申書を出すのだった。
そうとは知らないリューは、頭を悩ませていた。
もうすぐ期末テストだからだ。
さすがに、この一か月以上、学園に来ていなかったから、復習する範囲が広い。
一応、リーンとスードとは、空き時間に勉強もしていたが、教師から教えてもらうのと違って、教科書を丸暗記するにとどまっていた。
「やっぱり、長期間学園を離れるのは大変だね。特にスード君、ごめんね」
リューは護衛役として、常にリューの傍にいるスードが、勉強面で遅れる事を危惧した。
「自分は、主の下で働けているので、最悪卒業できなくても、支障はありませんよ」
スードは笑う。
「駄目だって。文武両道だよ。僕の部下として良い成績を取り、学園を卒業してくれないと」
リューはスードに注意する。
実際、リューはスードに勉強をよく教えていた。
自分の部下だからとはいえ、学園に通えなくしている事には、申し訳ないと思っていたのだ。
王立学園卒は、誰もが欲しい資格だし、リューとしてもスードには取ってもらいたい。
その為にも勉強が遅れる事を危惧していたのである。
「でもさ。リューの活躍を聞いていると、もう、そのまま、学園を辞めて、貴族としてやっていっていい気もするけどな」
ランスが、三人の会話を聞いて、口を出した。
「止めてよ、ランス。僕は学園生活が楽しいんだから。みんなと思い出を作って、一緒に卒業したいんだよ」
リューは、珍しくムキになった。
「リューの言う事はわかる気がするのう。我にとっては時間潰しだったが、みなと一緒に取り留めのない事をやるというのは、意外に楽しいからな」
いつもは気配を消して、教室では空気になっている転入生イエラ・フォレス(黄竜フォレス)が、珍しく口を挟んだ。
「だよね? イエラさんの言う通りなんだよ。僕にとって(前世も含め)初めての経験だし、それが楽しいんだから。学園を一足先に卒業するとか論外だから」
リューは、ランスの意見を真っ向から否定した。
リーンも同意とばかりに頷く。
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。リューはいつも忙しそうだからさ。友人としては、体を壊さないかと心配していたんだよ。もちろん、一緒に卒業できるのが一番さ」
ランスは友人の熱い言葉に、素直に謝った。
「……みんな、リュー君と一緒に卒業したいと思っているからね」
シズが、友人を代表して、気持ちを代弁した。
「ありがとう。その為にも、期末テストはいい点を取らないとなぁ」
リューはここで、現実的な事を口にした。
「はははっ。別に悪い点数を取ってもいいんだぜ? その分、俺達の順位が上がるんだからさ」
イバルが笑って、上司の不幸を願う。
「そうそう。リューとリーンが一位、二位を独占し続けているから、結果発表の景色が変わらなくて困っているんだ」
シズの幼馴染ナジンも、ここぞとばかりに、二人を弄る。
「それはみんなの努力不足でしょ。私とリューは、努力を怠っていないもの」
リーンがズバリ、図星を口にした。
「「「ぐっ……」」」
これには、友人一同ほぼ全員が、何も言い返せなくなる。
「我がまた、本気を出してもいいが、それだと目立って困るしのう」
イエラ・フォレスが、しれっと怖い事を言う。
「「「それは、勘弁してください」」」
リューとリーンが思わず声を揃えて、断る。
「はははっ! 冗談じゃ。我も若い者を相手に、本気を出すつもりは無いから安心せよ!」
イエラ・フォレスは、二人の息の合った返答が可笑しくて、笑うのだった。
数日後、学園からの発表で、リューとリーンが、名誉生徒に認定された。
これにより、王立学園の卒業資格を得る事になり、いつでも、卒業する事が可能になった。
生徒達は、この決定に当然ざわついたが、だがそれも、納得だった。
二人の事は、新一年生を除いて誰もが評価していたし、先の大戦でリズ王女や他の生徒を救った活躍からも、当然と思えたからだ。
「むしろ、遅いくらいじゃないか?」
「いや、仕方ないだろう。王立学園は、早期卒業資格を与えるなんて規則はなかったからな。今回は、オサナ国王陛下の判断で特例らしいぞ?」
「あの二人の化け物ぶりは、誰もが認めるところだから、当然だよ」
「僕としては、そんな二人と、同級生として学園生活を送れている事が、自慢だけどね」
生徒達は、学園側の決定を歓迎し、特別扱いにも反対意見は出ない。
唯一、よく知らない一年生の間には、疑問を口にする者もいた。
だがそれも、ハンナの兄だと聞くと、
「「「ああ! ハンナ嬢のお兄さんか!」」」
と納得してしまうのだった。




