第896話 学園での妹ですが何か?
ハンナは入学してから、一年生の間では注目の的だった。
常に、ノーマンの妹で親友のココや、ランドマーク本領からハンナの親衛隊であるイトラ、フレトを連れていた事もだが、成績優秀でほとんどの教科で無双していたからだ。
さらには、同級生のオサナ国王が、ハンナを慕って仲良くしていた事もあった。
他の貴族の子息令嬢は、そんなハンナを当初、嫉妬の目で見ていたのだが、ハンナの人柄や溢れ出る才能に、嫉妬では埋まらない圧倒的な実力差を見せつけられていた。
ハンナはランドマーク家の人間らしく、敵だった者も受け入れる懐の深いところを見せていた。
そして、国王とも親しいこの器量の良いハンナを、敵に回すだけ損だ、と誰もが理解しはじめていた。
それに、平民出身の生徒達からの評判もよかった。
伯爵令嬢のはずなのに、お高く留まっているところが全くなく、好奇心旺盛に平民出身の生徒とも積極的に仲良くなる姿勢を見せていたからだ。
それに連れている友人達に平民が多い事もある。
この辺りも、リューと被るところが多い。
やはり、兄妹といったところだろうか。
そんな注目のハンナが、武術大会に出場して、女子の部でいきなり優勝してしまうと、大騒ぎになった事は言うまでもないだろう。
実際、あまりの衝撃に、混合の部で念願の優勝を果たしたランスが、霞んだくらいである。
ハンナの決勝相手が、リズ王女だった事もあるし、オサナ国王もハンナを応援していた事も、より注目される事になった。
ハンナは、経験と実力で勝るはずのリズ王女を相手に、まるで動きを全て把握していたかのように、常に先手を取って、勝って見せた。
ハンナ曰く、
「リューお兄ちゃんから、色々聞いていました。だから、手の内はわかっていたので、何とか勝てました」
と謙遜していたが、相手は、一筋縄ではいかないリズ王女である。
情報以上に、才能と経験がないと、勝てる相手ではなかったから、観客達もこのハンナに注目し、盛大な拍手を送ったのだった。
そして、今。
ハンナは、各貴族の子息から結婚の申し込みが殺到していた。
ハンナは母セシル似の美貌の持ち主でもあったから、大会での活躍後は、優良物件扱いになった。
親は『王家の騎士』の称号を持つ、ランドマーク伯爵である。
そこと縁戚関係になるのは、貴族にとってかなり大きな意味を持つ。
ランドマーク商会も莫大な資産を持つし、与力のミナトミュラー家、シーパラダイン家も同じだ。
孫の代まで贅沢しても、援助してもらえるだろうと考えれば、子供をハンナと結婚させたいと思うのが、貴族の親らしい考えだった。
「最近、お父さんのところにも、お見合いの話が、来ているみたい……」
ハンナはうんざりした様子で、溜息混じりに友人達へ愚痴っていた。
友人とは、もちろん、ココやイトラ、フレト、そして、オサナ国王である。
国王相手に、愚痴を漏らすのもどうかと思うが、愚痴を聞かされているオサナ国王も、友人の一人として、真剣に話を聞いていた。
「僕が、何かしら声明を出そうか?」
オサナ国王は、サラッと国家権力を使って、ハンナに対する見合い話をなくさせる事を思案した。
「陛下、さすがに、それをやると権力の私物化を疑われます」
ハンナの側近イトラが、慌てて止めに入る。
「俺もそれは反対ですよ、陛下。お嬢の印象も悪くなるし」
同じく側近のフレトもイトラに同意した。
「そうだね……。ハンナちゃんの印象を悪くするのは良くない」
オサナ国王は、思い付きを注意されて、素直に反省する。
「ハンナちゃんのお見合いが増えても、ランドマーク伯爵様が承諾しないと思うので、これまで通りでいいと思いますよ」
ハンナの親友であるココは、心配する必要性はないと冷静だ。
「そう言えば、お父さん、ずっとうちにいてもいいからって。お母さんも好きな人ができるまで、好きにやりなさいって言ってたわ」
両親から言われた事をハンナは思い出した。
「そうなの? じゃあ、これまで通りで良いかもしれないね。でも、何か困った時は言ってくれて構わないから。 僕が何とかするよ」
オサナ国王は、友人として、お世話になっているお姉ちゃんとして慕うハンナの為に、国家権力を使いそうな勢いだ。
「だから、陛下も大袈裟ですって」
イトラが苦笑して、止めるのだった。
「お嬢に、変な虫が付かなくなる方法ならありますよ?」
フレトが何か思いつたようだ。
「「「何?」」」
全員が注目した。
「簡単な事です。リューの兄貴に勝てる男、という条件を付けるんですよ」
フレトは、子供の頃、リューに遊んでもらって以来、リューの事を兄貴と呼んで尊敬し、慕っている。
だからこそ、ハンナを守る騎士として、リューに誓いを立て、誓いを守る為に、王都の学園まで合格し、ついてきていた。
それは、イトラも同じで、リューは理想の兄貴だから、それを上回る者はいないと考えての事だった。
これには、ハンナ以下、ココ、オサナ国王も、
「「「おお!」」」
と感嘆する。
つまるところ、ここにいる全員、リューを尊敬していたから、この提案に優るものはなかった。
「それなら、お見合い相手を全員断れるね!」
ハンナも嬉しそうだ。
「ですが、お嬢。一つ欠点も……」
イトラが、喜ぶハンナに水を差す。
「欠点?」
「リューの兄貴以上の人物はいないと思うので、お嬢は一生結婚できないと思います」
イトラが苦笑した。
「「「あっ!」」」
全員が思わず声を上げた。
「……確かに若様以上の方は、現れないと思います……。でも、ハンナちゃんの気持ちが一番大事だから、素敵な相手が現れた時、条件を変えればいいだけだと思いますよ」
ココが、柔軟な大人っぽい意見を口にした。
「そうか、守る必要はないですよね!」
フレトが、目から鱗とばかりに同意した。
「じゃあ、これからは、リューお兄ちゃんに勝ったら考える、って返事するね!」
ハンナも悩ませられていた問題が解決して喜ぶ。
「リューの兄貴には、お嬢の兄として、最強の盾になってもらいましょう」
イトラが、笑う。
ココ達も同意して、笑うのだった。
「ハックション!」
リューが、くしゃみをした。
「リュー、風邪? 気を付けなさいよ。せっかく学園にまた通えているのに、病気になったら、勿体ないわ」
リーンが注意して、治癒魔法を念の為唱える。
「大丈夫だよ。多分、誰かが噂しているんじゃないかな? いい噂だと良いけど」
リューは、楽観すると移動教室の為、体育館に向かうのだった。




