第895話 久しぶりの学園ですが何か?
バシャドーの街の統治、裏社会における四組織同盟締結、帝国領への進出など、リューは忙しい日々も一先ずは落ち着いてきていた。
「ようやく学園に戻れる……!」
リューは、マイスタの街の執務室で、執事のマーセナルでは処理できない書類の最後の一枚に目を通し、サインをすると背伸びした。
そのまま両手は拳を作り、ガッツポーズへと変化する。
すでに、学園に休学届けを出して、一カ月以上が経過していた。
「この一カ月以上、大忙しだったものね」
リーンもリューと同じ気持ちだったので、安堵する。
二人にとって王立学園は同年代の友人ができた大事な場所だったし、そこから学ぶ事も多かった。
リューは有能な部下も得られたし、前世で経験できなかった事が色々とできて充実していたから、戻れるのはかなり嬉しい事だった。
「本当だよ。まあ、バシャドーの街では、シルバ達との出会いがあったし、帝国もヤンやウルガが得られたから、頑張った甲斐はあったけどね」
「明日が楽しみ♪」
リーンは笑顔で、同意するのだった。
「ふぁ~、今日も俺が一番かな?」
ランス・ボジーンは、ここ最近、クラスで一番早く通学していた。
心境の変化というやつだ。
先週行われた全生徒参加型の武術大会で、ランスが初の優勝に輝いたのが、きっかけだった。
優勝という事で、他の生徒の模範になる立場になった事が、自覚に繋がったようである。
ランスが教室の扉を開けると、すでに、数人の生徒が教室の後ろの席で話し込んでいた。
「俺よりも早い奴がいたか……、ってリュー、リーン、スードか!?」
ランスは、特徴的な赤い髪の少年と、美少女エルフ、そして、背の高い少年の組み合わせだったから、顔を確認せずとも、シルエットですぐにわかった。
「ランス、おはよう! 久しぶり!」
「おはよう、ランス」
「ランス君、おはようございます」
リューが挨拶をすると、リーンとスードも続いた。
「なんだよ、来るなら来るで、前もって連絡しろよ!」
ランスは嬉し涙を浮かべて、リューを抱きしめると、背中をバンバン叩く。
「はははっ! 通学するだけなんだから大袈裟だよ」
リューは苦笑すると、親友の背中をポンポンと、優しく叩くのだった。
ランスが早速、リューがいない間の学園について色々と教えてくれた。
特に、リューが元々考えた行事の一つである武術大会については、熱く語った。
ランスが優勝した事はもちろんだが、女子の部で大波乱があった事も説明した。
「ああ。確かハンナが優勝したんだっけ?」
リューは苦笑した。
そう、女子の部は、まだ、入学してひと月あまりのハンナが、優勝候補だったリズ王女を決勝戦で破り、優勝してしまったのだ。
その前の試合も、優勝候補の一角に挙げられていた兎人族のラーシュに勝利していたから、注目の的になっていた。
優勝した事は、本人から(ランドマーク総合ビルの)自宅で、報告を受けていたのだが、その時はハンナを褒めてそのままになっていた。
よくよく考えると、リズ達に勝利しての優勝だから、もっと褒めてあげるべきだったなと反省する。
「あんな凄い妹なら、もっと、言っておいてくれよ! 俺達、大会当日、度肝抜かれたんだからな?」
ランスはリューの反応があっさりしていたので、呆れた。
「ごめん、忙しかったから、そんな話する余裕も無かったよ」
リューは、手を合わせてお詫びする。
「ハンナちゃんは、ランドマーク家の血筋なんだから、油断した方が悪いわよ?」
リーンは何をいまさら、とばかりに呆れた。
「いや、そうなんだけどな? 一応、リューの妹という事で、俺達も親切にしてはいたんだよ。可愛らしい子だし、困った事がないかとか、先輩としての配慮はしていたんだ。それが、アレだろ? お陰で、混合部門で、イバルとの激戦を制して優勝した俺が霞んじまったよ。はははっ!」
ランスは、当時を思い出して笑う。
「それはごめん。ハンナはうちの家族の中でも、一番才能があるんだよ。日々の努力も怠っていないみたいだし、何より、母さんがみっちり教育しているから、驚くのはこれからかもね」
リューは、自慢の妹の話なので楽しそうだ。
「ハンナちゃんは、リューの背中を見て育っているんだから、当然の結果よ」
リーンも家族の一員として、ハンナの話を自分の事のように、誇るのだった。
そこへ、シズとナジン、ラーシュが入ってくる。
「……あー! リュー君、リーン、スード君がいる!」
日頃、声が小さいシズが、思わず幼馴染のナジンの袖をぐいぐい引っ張って、大きな声を上げた。
「シズ、引っ張るなって! ──リュー、リーン、スード、おはよう。元気みたいだな」
ナジンは落ち着いた様子で、笑みを浮かべた。
「今日からだったんですね。おはようございます」
ラーシュはミナトミュラー商会の従業員として、リューの動向はある程度、会長代理のノストラから聞いていたので、驚く様子はない。
だが、友人として、久し振りに会えたのも事実なので、笑顔である。
「三人共おはよう!」
シズが遅れて挨拶すると、リーンに抱きつくのだった。
そこに、王女リズも合流する。
「リュー君、みんな、おはようございます。ようやく、一段落着いたみたいですね」
王女リズは、リューがバシャドーの街領主就任や、帝国への謀略の為に動いてくれている事を知っていたので、落ち着いていた。
そこへ、隣クラスのノーエランド王国から留学生、エマ王女達も教室にやってきた。
「リュー様、おはようございます。学園にはもう来られないのかと思っていました」
「リュー殿、忙しいみたいだな」
「リューの旦那、元気そうで何よりだ」
「姫様に心配かけさせないでください」
エマ王女をはじめとし、サイムス・サイエンや、シン・ガーシップ、アリス・サイジョーもリューの久し振りの通学に安堵した様子を見せた。
「みんな、心配してくれてありがとう。今日からまた、よろしくね」
リューは友人達が集まってくれた事に感謝する。
「ふふふっ、リュー。ハンカチいる?」
感動しているリューに、リーンがハンカチを差し出した。
「泣かないって!」
リューはムキになって、ハンカチを押し戻す。
「はははっ! リュー、俺の腕の中で泣くか?」
ランスも笑って両手を広げた。
「それは、ごめんなさい」
リューは丁寧に拒否する。
「おい! 言い方が冷たすぎるだろ!」
ランスが、笑ってツッコミを入れた。
そして、みんなが茶化す中、リューは、学園に帰ってきた事を実感するのだった。
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