第894話 精鋭化しますが何か?
リューは、バシャドーの街の領兵隊改革を行う事にした。
先日の『屍人会』による襲撃放火事件の際、対応した領兵隊の一部は、少し頼りなかったのだ。
隊長であるバトゥ自身が動かす精鋭部隊は、よく訓練が行き届いているが、部下に任せている部隊や予備隊は、あまり動きが良くない。
これから裏社会は、『屍人会』&『新生・亡屍会』との抗争が激化する。
バシャドーは、家を焼かれた被害者的立場なので、二度と同じ事をさせない為、徹底抗戦の構えを取っていたから、短期間で強化する必要があった。
そこで、頼れるのは、専門家である。
「専門家……、ですか?」
執事のシルバは、専門家と聞いて、王国騎士団や各貴族の私兵を想像した。
「うん。兄の軍事商会なんだけど」
「ああ! シーパラダイン子爵様のところですね?」
シルバは、この数日で、リューの家族についても、知識を詰め込んでいた。
教育係はリーンだったので、色々と偏っている可能性はあるが、寄り親であるランドマーク家はもちろんの事、次兄のシーパラダイン家についても、詳しくなっていた。
「ジーロお兄ちゃんのところが、短期間育成指導に実績があるからね。依頼しようと思う」
次男ジーロは、軍事商会を発展させていた。
アハネス帝国の侵攻があった事も追い風になっており、南東部地方だけでも、ランドマーク伯爵派閥や寄り親だったスゴエラ侯爵派閥などは、シーパラダイン軍事商会の軍事指導セット販売で、軍事面を効率よく強化していた。
その過程で、ジーロはより良くする為、試行錯誤した結果、さらに効率的な訓練や装備品の開発などを続けており、それがまた、評判になり始めていた。
一部では、東部地方の王家直轄領に常駐している軍の訓練にも、指導官として、シーパラダイン軍事商会の人間が派遣されている。
戦争は、装備類が発展すれば戦い方も変わってくるから、最先端の装備を扱うシーパラダイン軍事商会の存在は、指導方法が、古いまま変わっていない軍にとって、かなり新しく映り、評価されていた。
シルバが賛成したので、早速、予算を割いてシーパラダイン軍事商会に、指導官の派遣を要請した。
といっても、リューが『次元回廊』で迎えに行ったので、翌日には、ジーロ本人が、部下五人と共にやってきたのだが。
「僕の兄のジーロだよ。軍事の専門家なので、みんなは参考にしてください」
リューは、領兵隊長バトゥと、領兵隊に兄を紹介すると、しばらく様子を見て、全て任せる事にした。
指導風景から、大丈夫だと思ったのだ。
ジーロと部下の指導は、きわめてわかりやすかった。
基本動作を徹底的に叩き込むところから始まったからである。
何でもそうだが、基本を怠ると、そこからほころびが出るのは、自明の理だ。
ベテランの職人などは、基本を怠っていると、新たな技術習得の際、苦労する事になる。
軍人も同じだ。
寸分違わぬ団体行動から、命令の徹底、基本動作など、これができなければ、新しい事はできない。
軍は突出した個人ではなく、集団による強さが大事なのである。
リューはジーロがこれまでの経験から、それらを理解し形にしていたので、安心したのだった。
ジーロは基礎訓練を行うと、兵達の特徴を掴んだのか、すぐに領兵隊の専門化とそれに伴う配置転換を進めた。
隊長のバトゥは、最初驚いたが、ジーロの説明ですぐに納得した。
これまでは、領兵隊は、千人隊、百人隊、十人隊と分けるだけだったのだが、馬に乗るのが得意な者、剣や槍、投擲など近・中距離戦が得意な者、弓矢など遠距離戦が得意な者、魔法が得意な者、偵察が得意な者、計算が得意な者など、一括りにしていた。
だが、ジーロは、それらは分けて専門化した。
これにより、長所を伸ばし、苦手なものは得意な者に任せる事で、短時間で領兵隊の練兵度をあっという間に引き上げてしまった。
基礎である集団行動訓練も初日に徹底してやったので、振り分けた隊での移動もスムーズになり、動きは以前と比べて、段違いである。
領兵達も、それを実感したのか、あまりに自分達の動きが良すぎて、不思議がる程だった。
「……驚きました。短い期間で、こんなに動きが変わるものなんですね……」
隊長のバトゥは、部下達の動きを見て、呆然としていた。
直属の部隊と遜色ない動きをされたら、驚くのも当然だろう。
「あとは指揮官であるあなたの、指揮能力が試されます。あとの訓練は部下に任せ、隊長であるあなたの戦略戦術指導に移ります」
ジーロはニッコリ笑顔だったが、その後の指導は、母セシル直伝のスパルタだった事は言うまでもない。
おっとりしているジーロも、母セシルを手本としていたから、その辺りは厳しかった。
「「お母さん(セシルちゃん)が憑依しているみたい……」」
経過を覗きに来たリューとリーンが、その光景に、試験勉強の時がよみがえり、思わず震えるのだった。
「あははっ! 契約してもらった以上、軍隊方式で叩き込むのは、基本だからね」
おっとりに戻った次男ジーロは、二人に指摘されて笑うのだった。
「いろんな意味で震えたよ」
リューは苦笑する。
「体力があるバトゥが、燃え尽きているわ……」
リーンも机の上で、白い煙を出しているバトゥ隊長に苦笑した。
「元々の素養もあって、教えるのは難しくなかったよ。それに、彼、判断もいいね。うちに欲しいくらいだ」
次男ジーロは、バトゥ隊長を高く評価した。
「でしょ! このバシャドーの街を治めるにあたって、掘り出し物だと思ったのが、バトゥなんだよね!」
リューは兄からの評価も高いので嬉しくなり、胸を張った。
「リューのもとにはいい人材が集まるね。僕も頑張らないと」
次男ジーロは気合いを入れ直すと、休憩時間終了後、また、バトゥに続きをスパルタ指導するのだった。




