第890話 一兵卒を願いますが何か?
ヤン・ソーゴス捕縛の為に派遣された帝国軍の部隊は、リュー達によって、壊滅状態になっていた。
これには通報した村長も震え上がる。
「この村の為に尽くした人物に対し、この仕打ちはないでしょう」
リューは、部下が生死を彷徨うような重傷を負っている事もあり、怒りを滲ませて村長に詰め寄る。
「ひぃー! わ、私は監視するように命令されていただけなんです! ヤンに面会した貴族の子息がいた事を報告したら、軍が勝手に危険視したのであって、私の判断では……!」
すでにリーンが、村の出入り口にいた隊を、一人で壊滅させていた事もあり、村長の恐怖はリューとリーン、ヤン・ソーゴスがやってきた時点でピークに達していた。
「……あなたは、ヤン閣下が村人に慕われている事に、嫉妬していたそうじゃないですか。上への報告内容もかなり私情が入っていたのでは?」
リューは監視させていた部下から、村の状況や村長について数日分の報告を聞いていた。
「そ、それは……」
村長は、図星をつかれて、言葉に詰まる。
「残念ですが、あなたの通報によって、この南部の帝国軍は、ヤン・ソーゴスの抹殺と共に、この開拓村の者達全員の口封じを考えていたようですよ?」
リューは、部隊長が懐に入れていた命令書を、村長に差し出した。
「そ、そんな馬鹿な!? ──私まで始末する対象になっていたとは……」
村長は命令書を読むと、内容にショック受けて腰砕けになり、座り込む。
ようやく自分が、私憤にまみれた報告書を軍に送ったせいで、村全体が危機に陥っていた事を知った。
「僕は手を下しません。ヤン閣下も同じです。あとは全て、村人の手に委ねます」
リューが振り返って村長宅を出ると、その表には、村人達が集まっていた。
「こ、これは誤解なんだ! 軍上層部がまさかこんな風に誤解するとは──」
「黙れ、クソ野郎! あんたが、ヤンさんに嫉妬して、村全体が毒されているなんて報告すれば、軍も危険視するのは当然だろうが!」
村人の一人が、村長の書いた報告書の一部を手に、怒りを口にした。
どうやら、部隊長は命令書と共に、村長の報告書も持参していた。
それをリューが、村人達に読み聞かせたのだ。
「ち、違うんだ! その報告書は、偽物で──」
村長が苦しい嘘の言い訳をすると、村人達の怒りのボルテージは上昇する一方だった。
リューとヤン・ソーゴスが、自分達が話をすると抑えていたが、歯止めが利かなくなる。
「あなたは、選択を間違えた。言い訳でなく、まずは謝罪するべきでした」
リューは、ヤン・ソーゴス、リーン、スードに下がらせた。
村人達は、それが合図とばかりに、棍棒や鉈、斧を持った村人達が、村長を取り囲んでしまうのだった。
「ヤン閣下。あなたは森で一度死んだと、思ってください。それが、この村の為にもなります」
リューは、村の外れで、ヤン・ソーゴスに今後について説明を始めた。
「……そのようですね。私が、帝国軍を道連れに、森で大規模な火計を行った、という形が、村人達の命を助ける事になるでしょうから……」
ヤン・ソーゴスは、リューの策をすぐに理解した。
「ええ。それが良いかと……。ヤン閣下は死に、晴れてあなたは、新たな人生が送れますよ。おめでとうございます」
リューは笑顔でヤンの新たな人生を祝した。
「ありがとうございます。ですが、それよりも、モーブ殿は、無事でしょうか?」
ヤンは、最後まで自分を守ろうとしてくれたリューの部下を心配した。
「……王都にあるランドマークビルに送り、うちの家族に治療してもらっていますが、あの傷ではどうなるかわかりません……」
リューは、楽観的な事は言えない程の怪我を、部下が負っていたので、事実のみを伝えた。
「……」
ヤンは、リューの優秀な部下を、死なせるかもしれない事に責任を感じ、言葉に詰まった。
「ヤン閣下、気にしないでください。うちの部下は死ぬ覚悟を持って、僕に仕えてくれています。あなたを助けたのも、僕の命令に従っての事。あなたが気に病む事ではありませんよ」
リューは、ヤンの肩の荷を降ろしてあげる為、優しく微笑んだ。
「……リュー殿。これから私の事は、ヤンと呼び捨てにしてください。モーブ殿の代わりとして、私はあなたのもとで、一兵卒として働きます」
ヤンは、リューの眼前で片膝をつくと、忠誠を誓う。
「……ヤン。これからよろしく。でも、うちは、忙しいからね。一兵卒ではなく、もっと忙しい地位で働いてもらいますよ」
リューは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「そうよ。リューに仕えるなら、その才能を発揮できるところで、頑張ってもらわないと」
リーンもニヤリと笑みを浮かべた。
「……なんだか怖いですが……、──わかりました。仰せのままに」
ヤンは苦笑すると、深々と頭を下げるのだった。
リューは村の住民達に今後の対応について助言した。
村人達は、リューの説明を聞いて、安堵した様子を見せる。
彼らにとって、行く当ても無いし、住み慣れた帝国を離れる気にもなれなかった。
ただし、奴隷の獣人族二十数名は、リュー達に付いて行きたがった。
それはそうだろう。
人以下の扱いをされている身である。
これ以上最悪な状況はない。
ならば、命の恩人に付いて行って役に立つ方が、まだ、真っ当な死を迎えられると思ったのだ。
「君達は同胞を助ける気はあるかい?」
リューが奴隷達に聞く。
「「「そんな事ができるなら、もちろんです」」」
奴隷の獣人族達は、声を揃えて頷いた。
「じゃあ、君達は、うちの『赤髪竜狼一家』が引き受けるよ」
リューは頷くと、『次元回廊』で早速、帝国南東部に本部がある街に奴隷達を運び、『赤髪竜狼一家』のボスを務めるウルガに任せるのだった。
ヤンの方は、ランドマークビルに連れていった。
ヤンにとって、もう一人の恩人であるモーブの安否を確認する為である。
夜中に眠気眼の中、治療にあたっていた妹ハンナのお陰で、モーブは一命を取り留めていた。
ただし、傷が深かった事もあり、現場復帰は難しいかもしれないとの事だ。
それでも、ヤンは安堵するのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
「裏家業転生」1~7巻&コミカライズ1巻が発売中です!
さらに、8巻が1/15発売予定、予約も開始しています!
書き下ろしSSなどもありますので、よろしくお願いします!
各書店でお求め頂けると幸いです!
あとお手数ですが、★の評価、ブクマなどして頂けると、もの凄く励みになります。
それでは引き続き、各作品をよろしくお願いします。




