第888話 体を張る部下達ですが何か?
リューはバシャドーの街をシルバに任せ、『次元回廊』を駆使して色々なところに移動していた。
行先は、まず、ランドマーク本領。
そこで、普段通り王都に運ぶ荷物の回収をすると、ランドマークビルで待機している者達に、荷物を引き渡す。
ノーエランド王国の海産物は、マジック収納付きの魔導具使用したピストン輸送で、王都まで毎日、新鮮なものを運べているから、お店の売り上げを確認する為だけに、少し顔を出す程度だ。
そこから、移動すると、帝国領で活動している『赤髪竜狼一家』や、部下による情報収集結果を聞く。
「現在、帝都までは情報網を広げる事に成功していますが、いかんせん人員不足で、これ以上の拡大は、少し時間がかかりそうです」
部下は急速な拡大による欠点を報告した。
「帝都まで広げられれば上出来だよ。しばらくは帝都の情報が充実するように、人を揃えてくれるかな?」
「わかりました。例の裏切者の情報はまだ、掴めていません。ですから、帝都のめぼしい貴族に絞って、情報を集めたいと思っていたんで、助かります」
部下はリューの期待に応えるべく、日夜奮闘していたが、限界もあるので、少し安堵していた。
「みんなには苦労をかけるね。現地で雇った連中にも、特別報酬を出しておくから、不満が出ないようにしておいて」
リューは、部下を労う。
「リュー、もう、日が暮れてきたわ。最後に念の為、ヤン・ソーゴスの様子でも聞いたら、王都に帰りましょう」
各地を訪れ、仕事をしているリューに、リーンが休みを促した。
「本当だ。外はもう、暗くなってきたね。じゃあ、そうしようか」
リューはリーンの気遣いに笑顔で応じる。
そして、次元回廊で帝国南部地方の辺境にある開拓村近くに移動するのだった。
「あれ? 誰もいない?」
リューは『次元回廊』の出入り口を作った付近に、テントを張って開拓村を監視している部下達が、誰もいない事に気づいた。
全員で三人、監視役として連れてきていたのだが、一人も、テント周辺にいない。
よく見ると、食事の準備途中だったようで、一部の食材が、切られて放置されている。
「何かあったのかもしれないわ」
リーンが、周囲の気配を探るが、部下達の気配はないようだ。
部下達の野宿場所は、開拓村から少し離れた北西の林の中にある。
林を抜けると、開拓村が見えるので、普段は遠目に監視してるはずだった。
「気になるね、行ってみようか」
リューは、ヤン・ソーゴスに何かあったとみて、林を抜けるのだった。
林を抜け、開拓村が見える位置に出ると、開拓村出入り口付近には、帝国軍と思われる兵士達が、かがり火を焚いて集まっていた。
「どこに逃げた!?」
「あっちの森に、人影が見えたぞ!」
「逃がすな! 抵抗するようなら、斬り捨てても構わんぞ!」
リューとリーン、スードが開拓村に走って接近すると、物々しい騒ぎになっていた。
もしかしたら、部下が騒ぎを起こしたのか? と脳裏をよぎるが、ヤンの迷惑になるような事はしないよう命じてあったので、その可能性は低い。
もしあるとしたら、ヤン・ソーゴスに何かあり、助ける為に部下が騒ぎを起こした可能性はあると考えた。
リューは、たいまつや、照明魔法で近くの森を照らす帝国兵の動きから、森を半包囲する形で誰かを探している事を察した。
「リーン、出入り口の兵士達の掃討をお願い!」
「わかったわ!」
リーンはリューの考えを察すると、仮面を付けて、出入り口付近の兵士達に向かっていく。
リューとスードも仮面を付けると、森の方に向かうのだった。
「捕らえたぞ!」
リューが森に入った直後、帝国兵の声が響き渡った。
「くそっ! こっちは何人殺られた!? 仲間の敵討ちだ、俺が始末してやる!」
「待て! こいつ、ヤン・ソーゴスじゃないぞ!?」
「何!?」
「まだ、殺すな! 拷問してヤン・ソーゴスの居所を吐かせろ!」
帝国兵達は、興奮状態にある。
どうやら捕まったのは、部下の一人のようだ。
状況的に、ヤン・ソーゴスを捕らえるべく派遣された部隊を見て、部下達はヤン・ソーゴスを逃がそうと大立ち回りをしたようである。
だが、多勢に無勢。
部下の一人がヤン・ソーゴスを逃がす為、囮になり、捕まったようだ。
リューはスードと二人、声のする方向に茂みをかき分けて向かう。
途中、周囲を警戒している一人の兵士に出くわした。
リューは、容赦なく兵士の顎を撃ち抜くように殴り、気絶させる。
そして、その先に、部下の一人が、重傷を負った状態で、帝国兵に囲まれていた。
一人の帝国兵が、ナイフを握って、部下の太ももを深く突き刺している。
「ヤンはどこだ! 吐かないと、楽な死に方はできねぇぞ!?」
帝国兵の実力行使の脅しにも、部下は歯を食いしばり、小さなうめき声しか上げない。
ひたすら、痛みに耐え、帝国兵を睨んでいた。
「こいつ、我慢強いな。──よし、利き腕の指を何本か斬り落とせ、大抵の奴はそれで吐く」
隊長らしき男が、慣れた様子で、非情な事を言い放った。
その瞬間である。
「うちの部下に何してくれてんだ!!!」
リューの怒号と共に、隊長の顔が歪み、近くの大木に吹き飛ばされた。
殴られたようだが、あまりに一瞬の事だった。
他の兵士達が、驚く暇も与えず、リューは、部下を刺した兵士の後頭部に拳を叩き落とす。
帝国兵は地面にめり込むと同時に、その衝撃で地面が割れた。
そこでようやく、他の兵士達もその威力に、慄く。
その間に、スードはドスを抜くと、『光の刃』で刀身を伸ばし、周囲の帝国兵を斬り捨てる。
リューは、部下を取り押さえていた二人の帝国兵を立て続けに殴り、茂みの奥に吹き飛ばした。
リューは即座に治癒魔法を部下に唱え、止血をする。
スードは残りの帝国兵を一掃して回った。
「大丈夫か?」
リューは、部下を抱き留める。
「若……、すみません、下手打ちました……。でも、ヤン閣下は、まだ、無事のはずなので安心してください……」
部下はリューの顔を見ると消え去りそうな声で報告した。
「よくやった。あとは任せろ」
「……頼みます……」
部下は、出血が多く、安堵した為か、その場で気を失う。
リューは、すぐ、『次元回廊』でマイスタの領主邸に部下を運び込むと、執事のマーセナルに治療を頼んですぐに、森へ引き返すのだった。




