第886話 三人の説得ですが何か?
『バシャドー義侠連合』の幹部達三人は、リューの意味深な誘いに戸惑っていた。
「若君。私から説明させてもらっても?」
ここでようやく、執事に収まっているシルバが、口を開いた。
「うん、お願い」
リューは、シルバに説得を譲った。
「エンジ、ケンガ、アキナ。先の事務所襲撃での大損害を考えても、義侠連合がこのままではいけない事は、わかっているな」
「もちろんです。だからこそ、今日は、四組織同盟を成立させたのではないですか」
エンジ・ガーディーが、今さらとばかりに、答えた。
「ああ。だが、他組織に、頼りっぱなしになるわけにもいかないだろう?」
「それはもちろんですが……。──ここには『竜星組』関係者もおられます。この話、後日でよいのでは?」
エンジ・ガーディーは、『竜星組』組長代理であるマルコをはじめ、関係者が数名いるので、言葉を濁した。
「先程も若君が言っただろう。ここにいるのは家族だけだと。三人とも、口外無用で、頼む。──若君は、ミナトミュラー子爵としてこの街の領主でもあるが、マイスタという街の領主でもある。それは知っているな?」
「「「ええ……」」」
三人は、不審な様子で、頷く。
「若君は、それと同時に、『竜星組』の組長でもあるのだ」
「「「……はっ?」」」
三人は、ポカンとした様子で、聞き返す。
どう考えても、リューと王都裏社会最大組織のボスが結びつかず、シルバが珍しく冗談を言っているとしか思えない。
だが、シルバは笑う素振りも無く、真剣そのものだ。
そのギャップに三人は、笑っていいのかいけないのか、困惑するしかない。
「そういう事だ。うちは、若を組長とする組織なのさ。──まあ、当然、ここだけでの秘密だが」
そこへ『竜星組』の組長代理であるマルコが、真面目な顔で、シルバの言葉を補完した。
「「「!?」」」
第三者だと思っていたマルコの言葉に、エンジ・ガーディー達は、ようやく酒の席での冗談ではない事を理解した。
とはいえ、頭が混乱する話である。
目の前の少年領主が、「『竜星組』の組長」、というのは、現実離れしすぎているのだから仕方がない。
「そういう事なんだ。君達『バシャドー義侠連合』の立場を尊重すると、中々言い出しづらくてね。説明する機会を窺っていたのだけど、マルコ達もいるし、今がその時かなって」
リューが困惑する三人を落ち着かせるように、あとを引き継いだ。
「……シルバ殿、あなたはいつから知っていたのですか?」
エンジ・ガーディーは、一番信用しているシルバから、全てを聞きたいようだった。
「私も執事になってからだから、最近の事だ。だが、若君を責めてくれるな。私なら、こんな驚くべき事実、話すどころか秘密のままにしていたかもしれない。だが、若君は、我々を信用して話してくれているんだ」
シルバは、エンジ・ガーディーの目を真っ直ぐ見つめ返した。
「参ったな……。道理で、『屍人会』襲撃未遂の際も、妙に腹が据わっていたわけだ」
ケンガ・スジドーが、全ての辻褄が合ったのか、納得した様子を見せた。
アキナ・イマモリーは、リューをまじまじと見ている。
アキナの場合、リューの下で部下として働いていたから、リューの有能さに尊敬する気持ちになっていた。
そこに、王都裏社会のドンという顔まであるというのだから、本当は子供ではないのではないかと、思わずにいられなかったのだ。
そして、エンジ・ガーディーは、そんなリューが、何か秘密を抱えているであろう事を疑っていただけに、その空いた隙間が埋まった思いがした。
「……まさか、あの『竜星組』のボスとは……。道理で、説得も容易なはずですよ。はははっ……」
エンジ・ガーディーは、ようやく、納得する。
エンジ・ガーディーは、相手の魔力が見えるだけに、ここまで、リューが何か怪しい人物という疑いをもっていた。
だが、その疑いも解消された。
「これまで秘密にしていてごめんね。でも、内緒にしていた理由も、これでわかってもらえたと思う」
リューは三人に手を合わせて、謝る素振りを見せた。
「それでだ、三人とも。若君に、従う気はあるか? もしなくても、この街を守る気持ちは、変わらずにいてくれれば、助かるのだが……」
シルバがリューの代わりに、本題に戻った。
「……私は、領主様の能力も、この街を大事にしてくれている気持ちも、疑う余地がなかったから、傘下に入っても構わないけど、二人はどう?」
アキナ・イマモリーは、嬉しそうに前向きな姿勢を見せた。
「俺も構わない。『バシャドー義侠連合』はこの街を守る為の手段であって、目的じゃない。領主様がこの街を守る為に全力なのは、一緒に戦った時点で、よくわかっているからな。俺は構わないぜ?」
ケンガ・スジドーは、喧嘩の中で相手を見極める才を持っている。
その彼が、リューを評価している時点で、エンジ・ガーディーも信じて構わなかった。
「……はぁ……。結局、裏社会時代がこの中で一番長い私が、一番、領主様を疑っていたわけですか……。シルバ殿や二人が信じるなら、私も信じましょう。ですが、『バシャドー義侠連合』は、解体できません。それはわかっていますよね?」
エンジ・ガーディーは、リューに従う事を示す反面、抵抗するような事を言い始めた。
「エンジ、何を……」
ケンガ・スジドーが、止めに入る。
「うん、当然の事だよね」
リューはエンジ・ガーディーの言葉の真の意味を理解していたから、同意した。
そして、続ける。
「四組織同盟は、『バシャドー義侠連合』あっての同盟。そこが、解体したら、同盟は白紙撤回になるもの。それに僕も、義侠連合は、そのままにしておく方が、都合が良いからね」
リューはエンジ・ガーディーの言いたい事を口にした。
そう、このタイミングで義侠連合が解体され、『竜星組』の傘下になれば、同盟はご破算。
それだけでなく、解散のきっかけとなったであろう、リューの関与は当然疑われる事になる。
『竜星組』組長の正体は、リューだと予想する者が沢山現れるだろう。
そうなると、全てが水の泡になる。
エンジ・ガーディーは、そこまで読んだのだ。
リューは、頭のキレる仲間が増えた事に満足すると、リーンやシルバ達と視線を交わし、喜びを共有するのだった。




