第885話 会合後ですが何か?
四組織同盟は、ほとんど揉める事無く、成立する事となった。
さらに、『屍人会』への警告も兼ねて、街の襲撃と放火を行った犯人達の処刑が、この日、行われていた。
これには領民達も安堵の溜息を漏らす。
火事で亡くなった者もいたし、家財を失った者はもっといる。
この処刑で彼らの無念の気持ちに、少しは一区切りがつくというものだった。
その一方で、同盟を結んだ四組織も、これから、『屍人会』と全面戦争になる。
その出だしだから、威圧という点でも、処刑は一番の警告になった。
「……こんなにすんなりと、会合が上手くいくとは思っていませんでした……」
会合の進行役だったエンジ・ガーディーが、室内に残っているリューに、驚きもまだ収まっていないとばかりに、気持ちを口にした。
「領主様、なぜ、あんな無茶苦茶な条件を『竜星組』と『死星一家』に承諾させたのですか?」
アキナ・イマモリーも、エンジ・ガーディーと同様、縄張りの分配問題が一番揉めると思っていた。
「本当だぜ。こんな偏った条件を、一方の組織だけに呑ませるなんて、普通ありえないからな」
ケンガ・スジドーも魔法のような展開に首を傾げるしかない。
だがそれも、目の前の少年領主が可能にしてしまった。
三人は戸惑いながら、一番信頼しているシルバ・フェンリールに視線を向ける。
だが、シルバは三人の視線を感じながらも、リューが話さない限り、口を噤んでいた。
「(自分の)説得は簡単さ。目の前の利か、未来を見越した利を選択するか、だからね」
リューは笑顔で意味深に答えた。
「「「未来を見越した利?」」」
エンジ・ガーディー達三人は、抽象的な説明に戸惑う。
「『聖銀狼会』に、縄張りは全て譲っても、現地で得た金品は、それぞれの懐に入れていいわけだから問題ないでしょ?」
「ですが、縄張りから得られる利益は持続的なわけで、裏社会においては、それが一番の収入源になるかと思うのですが?」
三人の中で一番裏社会に精通しているエンジ・ガーディーが、当然の疑問を口にした。
持続的な収入を得られる方が、未来を見越した利益と思える。
この発想は間違っていない。
目の前の一時的な大金よりも、長く持続的な収入の方が、結果的に大きな利益になるからだ。
「それは長期的に見ると、だよね? でも、実際に、それは長く続くかな?」
リューはすでに『聖銀狼会』が去った後なので、三人に諭すように話し始めた。
ここでようやく、リューは、『屍人会』の背後にいるエラインダー公爵の存在と、その後、巨大になったが故に起こるかもしれない未来をエンジ・ガーディー達三人に告げた。
「「「…………」」」
エンジ・ガーディー達三人はリューの深謀遠慮に、言葉を失う。
この少年貴族は、自分達が想像した未来よりもさらに、その先を見越して、契約をまとめて見せたのだ。
『竜星組』も『死星一家』も、それに納得し、『聖銀狼会』も自分達の一番求める利益を満足する形で契約を結んだのだから、文句をいう者はいない。
義侠連合もこの街を守る為の同盟契約だから、目標を達成できている。
「恐れ入りました……。それでも、よく『竜星組』と『死星一家』のボスを納得させましたね……。裏社会の人間にとって縄張りの広さは力の証明です。頭では領主様の言葉を理解できても、利益の大きさに目が眩んでもおかしくないですよ」
エンジ・ガーディーは、バシャドー裏社会のドンとして、同業者の気持ちが理解できるだけに、納得しきれなかった。
「(ボスは僕だから)説得する必要ないですから。はははっ!」
リューは笑って、彼らにとって不可解としか思えない事を言う。
そこに、一度、退室していたマルコ達が挨拶の為、戻って来た。
マルコはリューに無言で会釈をする。
そして、エンジ・ガーディー達に向き直った。
「『バシャドー義侠連合』さん。これからよろしくお願いしますよ」
マルコは、会合の時の怖い雰囲気は全くなく、和やかな雰囲気でエンジ・ガーディー達に挨拶した。
「お陰様で、バシャドー裏社会に光明が見えました。うちとしては『竜星組』さんと『聖銀狼会』さんの説得が一番の難題だったので、領主様から説得理由を聞いて驚きました。中々、普通の組織では判断が難しい事だと思います」
エンジ・ガーディー自身も、将来できるであろう巨大な敵よりも、利益を選びそうな事案だからだ。
「うちのボスは、最初から、全組織が満足のいく要求が得られる状況だから、揉める事はないだろうとの見解でしたよ」
マルコは、エンジ・ガーディー達とリューに視線を向けると、ニヤリと笑みこぼす。
「素晴らしい見識のボスですね。領主様とも馬が合っているようで、本当に助かりました」
エンジ・ガーディーは、意外に話が分かる相手だとわかり、安堵していた。
全ては領主様と『竜星組』のボスの意見が、一致していたから成立する同盟なのだと、ここでようやく納得した。
『聖銀狼会』という巨大組織でさえ、この両者の前では、一人踊らされていたのだ。
『死星一家』は、両者の考えを理解したうえで、揉めない形で自分の利益を選んだのだろう。
エンジ・ガーディー達は、そのように推察すると、噂に聞く『竜星組』組長代理のマルコ達と意気投合し、このまま、裏歓楽街に招待する事になった。
領主であるリューも、シルバ達を連れて、参加する。
エンジ・ガーディーは、未成年であるリューを裏歓楽街に連れて行っていいものか一瞬迷い、執事に収まっているシルバに視線を向けた。
だが、シルバが黙って頷く。
それで問題ないと判断し、エンジ・ガーディーは、自身が経営するあらゆるサービスを提供するお店の特別室に、美味しい料理とお酒を用意させるのだった。
特別室は、盗聴防止の魔法が張り巡らされ、厳重な警備で、余所者が侵入するのは難しい場所である。
エンジ・ガーディーの息のかかった連中が、料理人や給仕、下働きまで務めているので、安全だった。
「それじゃあ、身内だけの飲み会になったから、本題に入ろうか」
エンジ・ガーディー達に、乾杯の音頭を勧められると、リューは突然そう言いだした。
「「「?」」」
エンジ・ガーディー達は、「身内だけ」と「本題」、という言葉を聞いて、どういう意味かわからなかった。
バシャドーの街の者という意味では、『竜星組』関係者は他所者だし、リューと『竜星組』の繋がりを考えたら、自分達が余所者になるからだ。
「『バシャドー義侠連合』は、領主として、僕の家族という位置づけだからね。『竜星組』も、その意味では、同じ家族だから、どちらも身内なんだよ」
リューは、戸惑うエンジ・ガーディー達にわかりやすく説明した。
「なるほど、領主様から見ての、家族という意味でしたか。我々裏社会の者達まで、家族扱いして頂けるとは……、光栄です」
エンジ・ガーディー達は何となく意味を理解すると、心の広さを見せるリューに感謝した。
「そこで本題だけど……、『バシャドー義侠連合』は、うちの正式な家族になる気はあるかな?」
リューがまたも不可解な事を口にした。
正式とはどういう事か、エンジ・ガーディー達も理解できなかった。
三人はシルバに視線を向けると、黙って頷いて見せる。
「どういう事でしょうか?」
エンジ・ガーディーは、三人を代表して、リューに言葉の意図を探るのだった。
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