第884話 四組織同盟ですが何か?
裏社会の会合に、領主であるリューの参加は、『聖銀狼会』会長代理のネザーランドも気を遣うところとなった。
バシャドーの街を治めている相手なので、無下にはできない。
ネザーランドとしては、会長代理として来ている以上、メンツを守る立場にある。
相手が『竜星組』とあっては、それなりの態度を取って、立場表明しなければいけないところだが、領主が間に入ってくれた。
ネザーランドの今回の目的は、対『屍人会』同盟だから、破談にせずに済んだと内心胸を撫でおろすのだった。
「それでは、今回の会合の趣旨を説明いたします。このバシャドーの街は、我々『バシャドー義侠連合』が縄張りとして治めていますが、ご存じの通り、『屍人会』がこの地を狙って何度も襲撃を行っています。今のところ、領主様の尽力もあり、守り通せていますが、相手は国内最大級の組織です。いつまでも、我々だけで押し返せるか疑問が残るところ。それに、ここが落ちれば、西部地方裏社会やその周辺まで奴らの好きになるのは明白。我ら義侠連合としましては、みなさんと、この危機に対応してもらいたく、同盟の提案をするものです」
『バシャドー義侠連合』幹部のエンジ・ガーディーは、会合の発起人として、参加者全員に会合の意義を確認した。
「うちは、幹部のゴーザが、世話になったみたいだからな。それに、恥ずかしながら『屍人会』には裏で動かれ、うちは組織を分断されている。まあ、裏切者が早々にわかったという意味ではよかったが、舐められたままでは、裏社会で生きる以上、メンツが立たない。その為には報復しないとな。すでにうちは『屍人会』に喧嘩を売っている。お宅らが参加するなら大歓迎だ」
『死星一家』のボス、テッドは、挙手すると、エンジ・ガーディーの提案を支持した。
その上で、対『屍人会』に対し、他に対して先輩顔をする。
この辺りは、メンツから、偉そうに振る舞うという素振りをテッドは見せた。
だが、実際は、リューからの指示通りである。
「……『死星一家』の前身は、『亡屍会』だったか? ならば『屍人会』よりも、『新生・亡屍会』レベルを、まずは相手にした方がよさそうだが?」
『聖銀狼会』のネザーランドは、『死星一家』は、眼中にないとばかりに、皮肉った。
「なんだとコラッ!」
幹部のゴーザが、ボスであるテッドの後ろで、いきり立つ。
「やんのか!?」
それに応じて、ネザーランドの後ろに控えていた巨体の部下が、前に出た。
「双方とも、お待ちください! お静かに!」
義侠連合のアキナ・イマモリーが、怒号が飛び交っている中、よく通る声で制した。
その間、領主であるリュー、『竜星組』の組長代理であるマルコは静かだ。
「……もういいか?」
静かになったところで、マルコが皮肉を込めて一言漏らす。
「「「ああ!?」」」
『聖銀狼会』側のネザーランドの部下達が、この言葉にカチンときた。
「黙れ三下ども! 今、俺達は、組織の代表としてやってきてるんだ。『死星一家』は、それこそ、ボス自らやってきて誠意を見せている。それに茶々を入れる時点で、恥を知れ!」
マルコが、ドスの効いた声で、騒いだ連中を威圧した。
これには、ネザーランドの部下達も、思わず沈黙する。
そこでネザーランドが手を上げ、発言する。
「……確かに俺が、どこかの連中が参加している事にムカついて、『死星一家』のボスに八つ当たりしたのは事実だ。──すまなかった……。──これでいいか?」
ネザーランドは怒りを抑え、当初の目的を果たす事にしたようだ。
「『竜星組』は、『バシャドー義侠連合』との同盟に賛成だからこそ、ここにきた。『死星一家』の気持ちも理解しているしな。『聖銀狼会』は、どうか知らんが、『屍人会』を敵に回す事は、裏社会の人間でも躊躇する組織は多いようだ。──腰が引けているのなら、帰ってもいいんだぞ? 誰も責めやしないさ」
マルコは挙手すると、ネザーランドの目を見て、同情するように言う。
これは明らかに、テッドを挑発した事に対して、代わりにやり返した感じだろう。
「喧嘩売ってんのか!?」
ネザーランドの部下が、またもいきり立った。
「違うなら、条件を言え。全員、ここには、仲良しごっこをしに来ているわけじゃないし、冷やかしに来たわけでもない。無駄口叩いている暇があったら、集まっている各組織の為になる事を話せ」
マルコが、低い声で淡々と告げる。
ネザーランドの部下達は、またしても格の違いを見せられて黙り込んだ。
「この雰囲気で、自分の組織の利について主張するのは難しいでしょうから、僕から提案しても良いですか?」
ここまで黙って様子を見ていたリューが、口を開いた。
「どうぞ」
エンジ・ガーディーが、助かったとばかりにリューに続きを促す。
「一応、僕はこの街の領主として、義侠連合はもちろんの事、『竜星組』、『死星一家』に声をかけた身として、それぞれの条件も聞いています。そこで、唯一、聞いていないのが、『聖銀狼会』さんです。そこで僕の提案ですが、ネザーランド殿。そちらの条件を全て飲むと言ったら、どうですか?」
「なんだと……? 聞いてもいないうちの条件を、全部……だと? はははっ! 笑えるな。だが、いいのか? こっちの求めるものは、そいつらが納得できない内容だと思うぞ?」
ネザーランドは、リューの提案を笑うと、マルコ達に視線を向けた。
「納得できないかどうかは話してみないと! さあ、どうぞ、どうぞ」
リューは仮面越しだが、笑顔で促す。
「……『屍人会』の縄張りは、うちと隣接しているところが多い。つまり、一番、前線に立つ兵隊はうちだろう。『屍人会』を潰すなら、奴らの縄張りの八割はうちが貰うってのはどうだ?」
ネザーランドは、断られるのを見越して、無理難題と思われる数字を提示した。
多めに要求するのは、交渉ごとのセオリーである。
ここから、五、六割にできれば、会長も喜ぶはずだ、とネザーランドは考えていた。
「なるほど、いいですよ。バシャドーの街としては、この街を守る事が第一条件です。その事は『竜星組』や『死星一家』とも意見が合っています。ただし、『新生・亡屍会』の縄張りは、獲っても『死星一家』に譲るという事でいいでしょうか? あっ……、それで納得いかないようでしたら、『屍人会』の縄張りは全て、『聖銀狼会』さんに譲渡する形にすれば、釣り合いがとれそうですかね……? ──みなさん、どうですか?」
リューはネザーランドの要求を全面的に了承するどころか、全て渡す提案をした。
これには、『聖銀狼会』側が、驚き過ぎて言葉に詰まる。
「な、何を言っているんだ……? そんな事、『竜星組』が一番、納得しな──」
ネザーランドは、ここの領主は、計算もできないのかと呆れる素振りを見せた。
「うちは最初から、バシャドーの街が、守られれば問題ない。『屍人会』の縄張りに興味も無いしな」
その言葉を遮る形で、マルコが当然とばかりに賛成した。
これには、ネザーランド以下、『聖銀狼会』の者達は、驚いて言葉を失う。
「うちも『新生・亡屍会』を潰して、縄張りが戻ればそれで構わないぜ」
『死星一家』のボス、テッドもマルコに同意した。
「うちもこの街を守られれば、問題ない。『聖銀狼会』に、『屍人会』の縄張りを譲りましょう」
エンジ・ガーディーが、義侠連合を代表して、話をまとめるべく賛成した。
アキナ・イマモリーとケンガ・スジドーも頷く。
全員が『聖銀狼会』の要求に異を唱える事無く同意したので、ネザーランドは狐に摘ままれたような表情である。
彼らにとっては、至れり尽くせりの結果なのだが、あまりに都合が良すぎて、何か裏があるのではないかと、疑った。
だが、反対する理由も思いつかない。
ネザーランドが言い返せずにいると、
「反対意見も無いようなので、今の条件を含めて内容を詰め、同盟契約書を作成しますね」
リューがアキナ・イマモリーに、視線を向ける。
アキナ・イマモリーは、頷くと、部下に命じて契約書を作らせた。
そして、四組織同盟契約書を作成すると、各自に渡す。
ネザーランドは、同盟契約書を隅から隅まで確認し、部下にも裏がないか確認させた。
部下達は、全く問題がない内容なので、困りながら、頷く。
ネザーランドも、『聖銀狼会』が望んだ以上の契約内容になっていたので反対できず、終始困惑したまま契約書にサインをすると、会合は無事終了するのだった。




