第883話 会合当日ですが何か?
バシャドーの街、中央通りにある一番大きな料亭がこの日、看板を見ると完全貸し切りになっていた。
「なんだい、ここで食べるのを楽しみにしていたのに……」
「こんなでかい料亭が、貸し切りって嘘だろ!?」
「バシャドーに来たら、この店がお勧めだって聞いたのに……」
普段は、西部地方と王都に向かう道すがら、ここで美味しいものを食べるのが、観光客や旅人、商人などの有名なスポットの一つになっていた。
だから、当日、知った者達は、愚痴を漏らす。
だがそれも、室内から出入り口に出てきて、ズラッと並ぶ『バシャドー義侠連合』の者達の厳つい顔を見ると、愚痴も引っ込んだ。
ただ事ではないのが、一目でわかったからだ。
そこに、黒塗りの馬車が続々とやってきた。
馬車の扉には、銀色の狼の紋章が描かれている。
「……聖銀狼会!?」
西部地方からやってきてる者達は、誰もが知っている紋章に固唾を呑むと、慌ててその場から離れた。
目を付けられたら最後、骨の髄までしゃぶられる事で有名な組織だからだ。
料亭の前に馬車が停まると、御者台や後部のキャビンから護衛が急いで降り、周囲を警戒しながら扉を開ける。
中から、まずは護衛だろうか、馬車が傾く程、大きな体躯の男が降りてきた。
「兄貴、どうぞ」
巨体の男が、馬車内に声をかける。
「ああ」
一声あって、車内から身長の低い男が出てきた。
巨体の男と比べるとかなり小さく見えるが、その雰囲気は周囲を威圧し、ただ者ではないのは明らかだった。
それを料亭の三階から、鏡を使ってみている者がいた。
リューである。
「ありゃ。あの人、『竜星組』との手打ち式に『聖銀狼会』の代表として来てた人だ」
「ああ。身長が低いけど、雰囲気のあった人物ね?」
リーンが記憶を辿った。
「うん、王都進出部隊の第二派を率いていた幹部だったかな。確かネザーランドという名前だったと思う」
リューは『聖銀狼会』については、手打ち式のあとから、間者をかなり西部地方に送って調べさせていた。
それがここにきて、役に立っている。
「巨体の男も、手打ち式にもいたわよね」
リーンも鏡を見た。
「ネザーランドの古参の部下みたいだよ。今、ネザーランドが、『聖銀狼会』のナンバー2になっているはずだから、あの男も組織の中では上の方にいる人物だね」
リューは、『聖銀狼会』の、今回の会合への本気度がわかって満足するのだった。
会合が行われる広い室内は、普段宴会場として使用されていたが、この日の為に、無駄な机と椅子は撤去され、一つの大きな円卓と、それを囲む椅子だけが中心に置かれているだけだ。
「うん? 『バシャドー義侠連合』さん。やけに椅子が多いようだが?」
『聖銀狼会』の会長代理であるネザーランドは、案内された椅子に座りながら、周囲を見渡した。
「今回の会合には、うちと『聖銀狼会』さんの他にも、集まってくれた組織がいくつかあるんですよ」
義侠連合の幹部の一人、エンジ・ガーディーが、疑問に答えた。
「『屍人会』を敵に回す話だよな? それを承知で集まる組織が他にいるのか?」
ネザーランドは、軽く驚いた様子だ。
今回の会合は、『屍人会』を敵に回す同盟を組む、という話である。
並みの組織は、巨大組織を相手に戦争しようと思わないから、義侠連合が他所に声をかけても、誰も応じないと思っていたのだ。
そこへ、『死星一家』のボスであるテッドと、この街に事務所を開いている幹部のゴーザが入って来た。
「こちらは『聖銀狼会』の大幹部、ネザーランド殿。あちらは『死星一家』の会長テッド殿と幹部のゴーザ殿です」
義侠連合の幹部アキナ・イマモリーが、両者の紹介を軽くした。
テッドとゴーザは、軽く両組織に会釈すると、席に着く。
「まだ、席が余っているが?」
ネザーランドは、向かい側の席を顎で指した。
「りゅ、『竜星組』のみなさんが入られます!」
義侠連合の部下が、慌てた様子で扉を開けた。
『竜星組』の名前に、ネザーランドも思わず、腰を上げた。
想像していなかった名前だからだ。
その反応を無視して、『竜星組』会長代理であるマルコが、若い部下を二人連れて入って来た。
マルコは、義侠連合の三人に会釈する。
「今回の会合にお声をかけて頂き、感謝する」
マルコは義侠連合の顔を立て、案内された席に着く。
その間、『聖銀狼会』側の席は殺気が漂い始めていた。
ネザーランド自身も、マルコとは前回の屈辱的な手打ち式後以来の再会である。
良い思い出であろうはずもないが、自分を落ち着かせるように息を吐くと、浮かせた腰を席に落とした。
「義侠連合さん、うちがあっちと犬猿の仲だと知っていて声をかけたのか?」
ネザーランドは、冷静さを保ちながら、疑問を呈した。
「うちとあなたの組織だけでは、『屍人会』の相手は大変でしょう。勝つにしても、被害を想像すると怖すぎる。ですから、この街の領主様の伝手を頼りに、『竜星組』と『死星一家』にも声をかけさせてもらいました」
エンジ・ガーディーが、宥めるように告げた。
そこへ、領主として、仲介役として、仮面を付けたリューとリーン、スード、執事のシルバが入ってくる。
義侠連合と『死星一家』、『竜星組』関係者は、立ってリュー達を出迎えた。
『聖銀狼会』は、リュー達が何者かわからないので、座ったままだ。
「みなさん、こんにちは。このバシャドーの街の領主を務めさせてもらっているミナトミュラー子爵です。今回、裏社会の揉め事とはいえ、街を焼かれた身としては、他人事ではありませんので参加させてもらいます。この会合は、義侠連合幹部のお三方を中心に進行してもらう予定ですが、聞けば、そちらの『聖銀狼会』と『竜星組』は不仲という事で、僕(領主)の顔を立ててもらい、揉め事は無しでお願いします」
リューは仮面越しとはいえ、何食わぬ顔で挨拶した。
「「「……」」」
各自この言葉には色んな思いがあったが、沈黙する。
「それでは、役者が揃ったという事で、会合を始めさせてもらいます」
エンジ・ガーディーが、緊張した面持ちで、進行するのだった。




