第882話 秘密を話しますが何か?
「若君、裏社会の会合についてですが、……その……、大丈夫でしょうか?」
執事のシルバは、いつもの街の巡回をした後、人の姿に戻っていた。
「うん? 大丈夫とは?」
「この街の『バシャドー義侠連合』は、エンジ・ガーディー達が治めているので、問題ありません。そうなると、『聖銀狼会』、『竜星組』、『死星一家』の動向が気になります。若君は、大丈夫とおっしゃられますが、彼らは闇の住人です。利害と独自の規則で動く連中ですから、完全に信じるのは危険かと……」
シルバは、リューが騙されている場合を考えて、忠告を行った。
「? ああっ! そうか、シルバにはまだ、話していなかった!」
「そうね。ミナトミュラー家の家族になったのだから、話しておかないといけなかったわ」
リューとリーンは、失念していたとばかりに、声を上げた。
護衛役のスードは横で、苦笑している。
「?」
シルバは、予想外の反応が返ってきたので、困惑した。
「シルバ、今から話す事は、ミナトミュラー家で一番の秘密だから、内緒にしてもらいたいんだけど、いいかな?」
リューは、急に、真面目な顔になった。
リーンは、それが、おかしいのか、クスクスと笑っている。
「はぁ……? ──もちろん、若君に忠誠を誓った身です。ミナトミュラー家の損失になるような事は一切行いません」
シルバは、どう反応していいのか、一瞬戸惑ったが、秘密にする事を誓った。
「うん、それじゃあ、話すね。──実は、僕、『竜星組』の組長なんだ」
「……………………はい?」
シルバは、かなり間をおいたが、リューの色々端折った告白を理解できず、聞き返した。
「『竜星組』は、僕が設立した組織なんだ。元々、マイスタの街に前身である『闇組織』の本部があって関係者も多かったから、街の利益の為にも僕が引き受けた感じかな」
「お、お待ちください、若君……! ──えっ? ……冗談ではなく?」
あまりの予想外過ぎる告白に、普段冷静なシルバも、動揺は激しかった。
「うん。だから、『竜星組』は、一番信用していいよ。ちなみに、『死星一家』もうちと同盟関係にあるけど、実質的には、傘下に近いかな。さすがに公表はできないけどね」
リューはシルバが驚く様子が楽しかったが、今後の事もあるので、茶化す事無く話した。
「……驚きました……。まさか、若君が、あの組織の長だったとは……。良い噂は聞いていましたが、噂には尾ひれが付くもの。話半分に聞いていましたが、それなら納得です……」
シルバは、まだ、動揺を隠せない様子だったが、妙に納得する部分も大きかった。
「そういう事だから。はははっ!」
リューはようやく、笑って場を和ませた。
リーンとスードもシルバの反応を十分楽しむ事ができて、満足そうだ。
「……そうなりますと、多少信用していい相手と思っていた『聖銀狼会』が、一番信用できない存在という事になりますね……」
シルバは、ようやく冷静になると、会合成功の為の問題点が、大幅に変更された事を理解した。
「うん、それについては、僕に案があるから、『聖銀狼会』も納得してくれると思う」
リューは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「急に悪い顔をなさいますね……。ようやく、若君の姿が私の中で全て一致した思いです。はははっ。──それで、案とは?」
シルバは、この最高の主君に満足し、考えを問うた。
「『屍人会』との戦いで得た縄張りは全て、『聖銀狼会』に譲渡する、という事さ」
リューは、ミナトミュラー家の者にはすでに話している事をサラッと、口にした。
「え? 正気ですか、若君……。そんな馬鹿な条件は、『聖銀狼会』以外の組織は誰も賛成……、あっ……、そうでした。若君の組織でしたね……」
シルバは、あまりに荒唐無稽な案だと思ったのだが、当人であるリューが問題ないと言えば、それは問題ないのだ。
「そういう事。『竜星組』と『聖銀狼会』は、手打ちしているとはいえ、過去の因縁もあって、一筋縄ではいかない関係なんだけど、これなら、あちらも無理難題を押しつけてきようがないでしょ?」
「確かに、嫌がらせの一つや二つ言って、困らせようとするでしょうね……。しかし、こんな条件を出されたら、ぐうの音も出ないかと思います。──ですが、いいのですか? こちらには何の得も無い話です。裏社会の均衡も大きく崩れることになります。『屍人会』がいくら脅威とはいえ、『聖銀狼会』を大きくしたら、第二の『屍人会』になる可能性があります」
「ふふふっ。それはね──」
リューは理由をシルバにも説明した。
※826話参照
「そこまで考えておられたのですか……。確かに、『屍人会』の背後にあの公爵がいるのなら、縄張りを派手に広げれば、恨みを買う可能性は非常に高いですね……。そして、大きくなり過ぎると、それを理由に討伐される、と……。若君の考え、理解しました。問題ないと思います。──それで、若君、他に私が知っておくべき事はもうないですか?」
シルバは、リューに対し、驚くような事実はもう全て知ったと思ったが、念の為、確認した。
「他にも? そうだね……。例えば東部地方の裏社会で勢力を持つ『蒼亀組』と、『赤竜会』とも、同盟関係かな。あと、南部地方で勢力を伸ばしてる『シシドー一家』がうちの傘下とか──」
「ええ!? 『シシドー一家』と言えば、今、地方裏社会では、急成長する新勢力として動向が注目されているところですよ?」
冷静な人物であるはずのシルバは、またも、リューの言葉に驚きを隠せなかった。
「そうなの? ──シシドー頑張っているなぁ。──あっ、そうだ。あと、アハネス帝国にも『赤髪竜狼一家』という組織を──」
「帝国領に!? ……すみません、若君。ちょっと、何を言っているか、わからなくなってきました……」
シルバは、予想を超える情報の数々に、混乱を通り越して、頭がついていけなくなってしまったようだ。
「あははっ、安心して。今のところは、それくらいだから。あとは商売関係になるけど、それはこの街の情報網で、ある程度は知っているでしょ?」
リューはシルバの反応が楽しい。
普段は淡々としているが、実は、感情豊かな人物なのだと、わかったからだ。
「……はい。そこは連日、アキナ達が情報を持ち込んでいたので、知っています。まさか、若君が表だけでなく裏社会でも活躍されているとは、想像もしませんでしたが……」
驚き疲れた様子で、シルバは苦笑する。
「シルバ、驚くのはこれからよ。リューの行動力は、果てがないんだから」
リーンは自慢げに胸を張った。
スードは黙って、笑顔で頷く。
「そういう事だから、改めてよろしくね」
リューは笑顔でお願いする。
「もちろんです、若君。人生、まだ、楽しい事が沢山あるのだと、期待している自分がいます。こちらこそ、足手纏いにならないよう全力でお仕えいたします」
シルバは、深々と、頭を下げるのだった。




