第881話 信頼作りですが何か?
リューの勧誘により、バシャドーの城館の執事として、シルバ・フェンリールを迎える事になった。
これは喜ばしい事だが、同時に、危険もはらんでいる。
それは、シルバが魔族の血を引いているという事だ。
人類の敵とも言うべき、魔族の印象は最悪である。
このまま、リューの領主人事として、発表してしまうと、一波乱起きてもおかしくなかった。
「シルバ、やりたい事があるから、付き合ってくれる?」
「若君、なんでしょうか?」
シルバは早速、執事の恰好だった。
「数日後には、バシャドー裏社会の大会合があるわけだけど、それまでにやっておきたい事があるんだ。──シルバ、魔獣化してくれる?」
「はい?」
冷静でしっかりしている性格のシルバが、予想しない注文に、きょとんとした。
「フェンリルの姿になって」
リューは理由を説明しない。
「はぁ……、わかりました……」
シルバはリューの考えが全く読めなかったが、渋々承諾した。
見る見るうちに、銀髪、銀目の色男から、銀毛の大きな狼に変化した。
「うん、健康状態も良くなったから、銀毛がより輝いて、神々しいね! ──よし、シルバ、その姿で僕と一緒に街を巡回してくれるかい?」
「なんですと!?」
シルバは、狼姿でも当然ながら話せるので、リューのお願いに驚いた。
リーンもリューの狙いが、何なのかわからなくて、考え込んでいる。
「一番良いのは、僕を背中に乗せてくれる事なんだけどね?」
「別に構いませんが、街が大騒ぎになりませんか?」
シルバは自分が見世物になる事よりも、領民達が混乱しないかと心配した。
「最初は大騒ぎになると思う。でも、僕としてはそれが狙いだからね」
リューは意味ありげに笑みを浮かべた。
「ああっ! そういう事ね?」
リーンはようやく、リューの狙いがわかったのか、頷く。
「? ……わかりました。若君が求めるのなら、従いましょう」
シルバは、リューの狙いがわからないまま、リューを背中に乗せるのだった。
「あれは!?」
「街中に魔獣!? あっ! 乗っておられるのは、領主様だ!」
「おお! この街の現人神であられる領主様だ! 美しい銀毛の狼に乗っていると、一段と神々しいな……」
「あの銀色の狼、綺麗……! 領主様はテイマーでもあったのね!」
街の領民達は、突如街中に現れたリューと銀毛の狼シルバに驚き、大騒ぎとなった。
だが、街の大火事を水の大精霊の具現化によって鎮火したリューと、美しい毛並みの狼シルバのセットは、誰の目にも神々しく映った。
中には、神話に出てくる神の御使いではないか? と、その姿を伝説に例える者もいて、良い意味で街を驚かせ、人々はリュー達の姿を求めて集まってくるのだった。
リューはシルバにお願いすると、大きなバシャドーの街をゆっくり一周してから、城館へ戻った。
「若君、一体あれは何が狙いだったのでしょうか?」
シルバは街を混乱に陥れた狙いが、未だにわからなかった。
「ふふふっ。これから数日は、毎日、巡回するから、時間を空けておいてね?」
「は、はぁ……」
リューは戸惑うするシルバを尻目に、笑う。
「シルバ、リューのやる事にほとんど間違いはないから信用しなさい。たまに、お馬鹿な事をする事もあるけどね」
リーンは新参者にリューの取り扱いについて、講釈するのだった。
それから連日、リューとシルバは領主と従魔といった立場で、街を巡回して回った。
連日、その姿を見ようと、領民達は巡回ルートに場所を取り、その神々しい姿を目に焼き付ける。
最初こそ、シルバを魔獣だが大丈夫なのか? と心配する領民もいた。
しかし、連日の巡回で、どうやら、領主の忠実な従魔らしい事、それに、美しい銀毛姿の狼に目を奪われるのだった。
そして、三日目。
早くも、リューとシルバの巡回は、領民達が自慢する街の名物になろうとしていた。
巡回ルートには、早速、領主と狼を模したパンや、飴細工を出す出店が並び始めたし、その姿を木彫りにしたり、絵に描いて、販売する者も現れた。
「若君……、そろそろ狙いを教えて頂けませんか?」
シルバは、背中のリューに、巡回の理由を問うた。
「シルバ、初日に比べて、みんなの様子はどうだい?」
「はぁ……。私達を見ても驚かなくなり、商売に利用される程には、領民達に馴染み始めているようですが……。──あっ!」
シルバはそこでようやく、リューの狙いに気づいた。
「ふふふっ。もう少しかかるかも、と思ったけど、想像以上に、僕は領民に信頼されていたみたいだね」
リューは満足げに笑って、シルバの毛並みを撫でた。
リューの狙いとは、シルバという存在を、領民や世間に認知させる事だった。
シルバ単体で人前に現れれば、魔獣だ、魔族だと騒がれる可能性はかなり高かっただろう。
それこそ、問答無用で敵と見なされ、排除対象になっていたかもしれない。
だが、街の救世主、現人神、と讃えられているリューとセットで人前に現れる事で、印象を、がらりと変えたのだ。
領主を背中に乗せているだけで、魔獣であっても安全な存在なのだと視覚的に理解させる。
さらには、口伝や新聞、売り物によって街中に広まる事で、敵ではないどころか、街の商売の対象にもなり、親しみも湧かせた。
リューは前世の詐欺の手法を利用した情報操作を行ったのだ。
芸能人や有名人、スポーツ選手などと一緒の写真を騙す対象に見せる事で、詐欺師は、自分は信用できる人物ですよ、とアピールし安心させる。
一般的に、心理学では権威性・信頼効果と呼ばれている。
この場合、リューという有名人と一緒にいる事で、シルバを無害かつ、街の為になる存在として世間に認めさせる為、リューの人気を利用したのだ。
「……若君、私の為にありがとうございます……。これから、生涯忠誠を尽くして、お仕えする所存です」
シルバはリューを背中に乗せた状態で、跪く。
「そんなに畏まらないで。僕もシルバがみんなの信用を得て、働きやすい職場を作る義務があるからね。それに、大事な人材を活かせないと勿体ないから。はははっ!」
リューはバシャドーの街を治めるうえで、絶対必要なシルバの土台作りができた事に、満足するのだった。




