第880話 安住の地ですが何か?
バシャドーの街は、以前の活気を取り戻そうと復興が進んでいた。
領民達は区画整理された土地に新たな建物を築き、そこで商売を始める。
迷い小路と呼ばれていた裏通りも、大火事を機に整備され始めていた。
「各組合や個人の申請書、手続き関連の書類に開発計画書、その他諸々、目を通す書類が多すぎる!」
リューは執務室の机の上に山積みとなっている書類を前に、愚痴を漏らした。
「書類に目を通したり、サインの手伝いはできるけど、そろそろ執事を決めて色々任せたいところよね」
リーンもリューの忙しさはわかっていたので、同情した。
「マイスタの時みたいに、募集を掛けた方が、手っ取り早いかな?」
リューも悩まずにはいられない。
バシャドーの街は、外から集まる人々を含め、常に二万人近い人口がいる。
それだけに人材は結構いるとは思うのだが、それと同時に間者も沢山いるだろう事も予想できた。
募集するにしても、地元の領民を名乗って接近してくる者がいたら、見極めが難しいのも確かだった。
その為には、『バシャドー義侠連合』の三幹部やシルバ・フェンリールといった、地元に詳しい人材をあらかじめ雇って、人物鑑定してもらうのが手っ取り早い。
「……ヤン・ソーゴスにフラれたばかりだけど、今度は、シルバを口説き落とせるか挑戦してみようかな?」
リューがリーンに相談するでもなく自問自答した。
「いいんじゃない? 私は賛成よ」
リーンは頷く。
「よし! じゃあ、行こうか」
リューは、リーンに背中を押されると、事務作業を止めて立ち上がる。
「若様、この時間なら、内庭にいると思うよ?」
メイドのアーサが、リューの目的を察した。
「わかった、行ってみる」
リューは真面目な顔になると、内庭に向かうのだった。
内庭では、銀髪、銀目の獣人族が、散歩していた。
隣には、仕事の相談をしに来ていたアキナ・イマモリーが同行している。
「シルバさん、この数日で健康状態も、かなりもとに戻ってきたのではないですか?」
アキナ・イマモリーは、この街の裏方として、ずっと貢献してくれていたシルバの回復を、喜んでいた。
「毎日、リーン殿に上位の回復魔法を使用してもらっているからかもしれない。あのレベルの魔法は、教会で高額なお布施をしたら、ようやく使ってもらえる代物だからね」
目に見える早い回復も、リュー達の助けがあってこそだったから、シルバは感謝しかなかった。
「我々も領主様の助けで、この街を守る体制を作り直している最中です。先は長いですが……」
アキナ・イマモリーの心配は、数日後に行われる裏社会における四組織が集まっての会合の事だろう。
『バシャドー義侠連合』はともかくとして、『聖銀狼会』も会合には同意してくれている。
まだ、『竜星組』と『死星一家』からの返事はない。
リューからその返事が来る予定だが、まだなのだ。
「あの若君に、期待するしかないだろう」
シルバは、リューの能力についてはあまり理解していない。
だが、アキナ・イマモリー達からの話や、リーン、スード達の評価が軒並み高いので、信用できると思っていた。
そのリューが、『竜星組』と『死星一家』は大丈夫と言ったら大丈夫なのだろうと割り切っていた。
「今日は、アキナが来ていたんだね。こんにちは」
そこに、リューがリーンとスードを連れてやってきた。
「領主様、御機嫌よう」
アキナ・イマモリーは、リューに挨拶を返す。
「領主様、仕事中では?」
シルバはすでに、お昼休みに食事を一緒に取って話を聞いていたし、城館内も自由に散歩できたので、リューの忙しさは理解していた。
「そうなんだけどね。効率を考えると、こっちを優先した方が早いって結論になったんだ」
リューは笑って応じた。
「効率、……ですか?」
シルバは首を傾げる。
アキナ・イマモリーも、意味を理解できず、疑問符を頭に浮かべていた。
「シルバに折り入ってお願いがあるんだ」
「私にできることなら何でもやりますが?」
シルバは命を拾った恩を返せるならと、安請け合いする。
「それなら良かった。僕の下で働いてくれないかな?」
「「はい?」」
あまりにサラッとした言い方だったので、シルバとアキナ・イマモリーは、思わず聞き返す。
「だから、僕の部下として、この街の為に貢献してもらいたいんだ」
リューは、笑顔で応じた。
「お、お待ちください。私は魔族の血を引く者ですよ? 領主様がそのような人材を雇うと、世間の風当たりが強くなる可能性が……」
シルバは普段、冷静なタイプなのだが、あまりにあっさりリューが重大な事を言うので、困惑した。
「そんなの関係ないよ。あ、でも、シルバが気にするなら、執事とかどう? 僕はマイスタの街も治めているから、この街を留守にする事もあると思うんだよね。そういう時、シルバが僕の代わりに、この街を代理として統治してくれたら助かるよ」
リューは全然、軽くない権限を与える提案をした。
「どう考えたらそのような流れになるのですか! 魔族の混血に代理統治を頼むなど……」
シルバは思わず、リューの提案にツッコミを入れた。
「それはもちろん、信用できる人物だと思ったからだよ。それにアキナ達も君の事を信頼しているでしょ。周囲の信じられる人物達が、君を評価している以上、これ以上の適任者はいないと思うのだけど?」
リューは当然とばかりに胸を張る。
隣でリーンも頷いていた。
「……はははっ」
シルバはリューの言葉に、心を乱された自分が可笑しくなっていた。
そして、とんでもない事を言うリューに対しても、だ。
シルバはこれまで、裏社会で生きるしかなかった。
魔族との混血という不利な条件は、この世界では生きづらく、回ってくる仕事と言えば、俗にいう汚れ仕事ばかりだった。
そんな自分を執事に?
恩を感じている以上、汚れ仕事でも引き受ける用意があった。
だが、あまりに意表をついた誘いに笑うしかない。
「どう? シルバなら、うまくやってくれると信じているのだけど?」
リューは、迷う姿勢を見せず、真っ直ぐとシルバを見つめる。
その目を見てシルバは、この方は本気なのだ、と感じた。
リューの今後の立場を考えたら、断る事こそが正しい選択と思えたが、シルバは、リューに賭けてみたい、となぜか思った。
「……わかりました。これから若君の下で、執事として働かせてもらいます。よろしくお願い致します」
シルバは、綺麗な面に笑みを浮かべると、快く承諾した。
「シルバさん……」
アキナ・イマモリーはこのやり取りを、複雑な思いで見守っていた。
シルバの事を尊敬し、慕ってもいた。
そして、正しく評価された事も嬉しい。
だが、『バシャドー義侠連合』のボスになってほしいという思いがあったから、困惑していた。
「そういう事だ、アキナ。これから私は若君に仕え、この街をよくする為に働くよ」
アキナが知るシルバは、いつも憂いを秘めた笑みばかりだったが、今は、何か憑き物が落ちたような清々しい笑みを浮かべていた。
ああ……、この人は自分の居場所を見つける事ができたのだ。
アキナ・イマモリーは、自分達では与えられなかった居場所を与えたリューに、少し嫉妬した。
だが、それと同時に、友人が安住の地を見つけた事を、祝福したい気持ちになるのだった。
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