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【8巻予約開始!】裏稼業転生~元極道が家族の為に領地発展させますが何か?~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第874話 休憩中の会話ですが何か?

 リューが牢屋から救出したシルバ・フェンリールのもとに、『バシャドー義侠連合』の大幹部三人は、毎日、訪問していた。


 リューは仕事が立て込んでいるので、三人を相手していないが、シルバのもとには休憩時、リーンと共に足を運び、食事をしながら話をしていた。


「『聖銀狼会』の大幹部が到着したと報告があったよ」


 リューはシルバの横に机を置き、リーンと一緒にサンドイッチを食べている。


「私もエンジ達から聞きました。領主殿が『竜星組』や『死星一家』を説得し、間に入るつもりだとか。裏社会の事にそんなに肩入れして大丈夫ですか?」


 シルバは、命の恩人であるリューに対し、誠実な態度で対応するようになっていた。


「この街の問題だからね。『屍人会』に対し、僕も怒りを覚えているんだ。領民カタギを巻き込んだからね」


 リューは領主として満点の答えをする。


「……その為には、裏社会の組織ともつながりを持つと?」


「その言い方は聞こえが悪いなぁ。この街の『バシャドー義侠連合』にしろ、『竜星組』にしろ、自分達の街や縄張りを守るのは、表でも裏でも関係ないと思うんだよ。逆に聞くけどシルバは、この街が嫌い?」


「いえ……。自分を受け入れてくれた者達がいる街なので、恩返ししたいと思っています」


「それって、内から湧き出るもので打算や損得勘定での想いではないでしょ? 僕はこの街の領主になった時から、領民を家族だと思ってる。さすがに一万人以上の家族を養うのは大変だけど、もとから治めている街の領民も家族として扱っているから、その方針は変わらないよ。それが裏社会の者であってもね」


「……その家族の為に、汚れ仕事をする事になるかもしれないですよ?」


 シルバはこの誠実な少年領主が、どこまで手を汚す気でいるのかわからなかった。


「午前の仕事で、処刑執行にサインをしたばかりだよ」


 リューは真面目な顔になると、覚悟を口にした。


 それは、先日の襲撃放火事件で捕らえた『屍人会』の者達に、責任を取らせる為の書類である。


「まだ、街の中に潜む連中もいるのだろうけど、彼らへの警告を含めて、一週間後の昼には処刑執行するよ」


「会合の日ですか……」


 シルバはリューが領主として優し過ぎるかもしれないと思っていたが、そんな事は一切ない事を知った。


「うん。街への放火は重罪だからね。領民に死傷者も出ている以上、厳罰を以て処すのは当然だよ。それに、会合を上手くまとめる為でもあるし」


 リューは計算もある事を示した。


 シルバはリューの冷静な判断に内心舌を巻く。


 そして、リューに対し、尊敬の念が芽生えつつあった。


 見た目はまだ少年である。


 しかし、シルバが求める主君像がそこにはあった。


 冷徹さと温かさがバランスよく同居する人物は中々いない。


 特に、有能で権力を持つ者には、だ。


 権力を持つと変わる者は多い。


 力を手に入れると守りに入り、以前のような人間性を失う者はよくいるからだ。


 折角の才能も、手にした力を守る事に費やし、自分を見失う者は多かった。


 バシャドーの街の領主になるという事は、大きな権力を手にする事と同義である。


 だが、リューは小さな街の領主時代と変わらない感覚で、この大きな街を治めようと動いていた。


「参ったな……」


 シルバはリューに、自分の理想像を見つけた思いだった。


 シルバはエンジ・ガーディー達に、『バシャドー義侠連合』のボスになるようずっと勧められてきた。


 だが、余所者である事、自分が上に立つタイプではない事、そして、何より、魔族の血を引いているので相応しくない、と断り続けていたのだ。


 そこに、リューが理想の人物像として現れたのだから、まぶしく感じずにはいられなかった。


「シルバ、あなた、リューのもとで働く気はない?」


 黙って二人の会話を聞いていたリーンが、突然、勧誘を始めた。


「え?」


 シルバは驚かずにいられない。


 どこの馬の骨ともわからない自分を、保護してもらっているだけでも驚きなのに、雇用しようとするとは、どうかしているとしか思えない。


「はははっ! リーン、シルバはまだ療養中なんだから」


 笑ってリューが注意する。


 そして続けた。


「君を雇いたいというのは、僕の意見でもあるんだ。ただ、助けた事を恩に着せるつもりはないし、今すぐ答えを出してとも言わないよ。体をしっかり治して、いろんな話がまとまった時、改めて、答えを聞かせてくれるかな」


 リューは笑顔でお願いすると、サンドイッチの最後の欠片を頬張った。


 そして、お茶で胃に流し込むと立ち上がった。


「リーン、それじゃあ、お昼の仕事に向かおうか。──シルバ、容体も良さそうだし、明日から、散歩も解禁するね。自由に城館内を歩いていいよ」


 リューはリーンと共に、退室した。


「……どこまで、本音でどこまで計算なのだろうか……。いや、魔族の混血である私を雇うリスクを考えたら、破綻した計算なんだが……」


 シルバはベッドの上で、嘆息するのだった。



「リーン、勧誘は早すぎるって」


 リューは執務室で作業をしながら、愚痴を漏らしていた。


「そう? 心の揺らぎを感じたから、誘ったんだけど?」


 リーンは、二人の会話からシルバの心が動いた瞬間を感じていたのだ。


「それでもだよ。まだ、ようやく、仲良くなったばかりだし、何より、エンジ・ガーディー達も誘う事を考えたら、やっぱり、早い」


「ごめんなさい。反省するわ」


 リーンは素直に、謝った。


「シルバは魔族の血が流れている事や、余所者である事を気にしていると思う。見た目は獣人族なのにね」


 リューはシルバを気に入っていた。


 魔獣化した時の姿も含めてである。


「それだけ、魔族が恐れられているって事よ」


 リーンは肩を竦めた。


 リーンの指摘は間違っていない。


 特に魔族とわかれば、容赦しない者は多いだろう。


 それくらい、魔族の存在は恐れられ、嫌悪されている。


 魔族が人間を見下し、容赦なく殺戮する残虐な行為が有名である事が理由の一つで、両者の間に、はっきりとした溝があるのは確かだ。


「魔族と人間との間には、凄惨な歴史があるからだろうけど、シルバは少なくとも魔族というより、こちら側の人間だよね。だからこそ、こちらにやってきたんだろうし」


「私もそう思うけど、魔族と聞いたら、恐れるというのが、歴史から学んだ結果よ」


「相手を尊重できない者は、同族でもお断りだけど、彼のような良心的な人物なら大歓迎だけどなぁ」


 リューは結局、種族の違いより、価値観の違いが一番怖い、と肩を竦めるのだった。

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