第873話 街の復興とそれぞれですが何か?
リューは、ミナトミュラー商会の会長という立場を使って、バシャドーの街の復興に力を入れる事にした。
バシャドーの街は商人が集まってくる土地だから、復興に必要な資材も当然運び込まれてくるのだが、そこは商人である。
値を釣り上げて稼ごうとする者がほとんどだった。
だが、ミナトミュラー商会が、リューの『次元回廊』を使って、王都から資材を抑えた価格で持ち込む事によって、強欲な商人達の企みを阻止する事になった。
この為、現人神と崇拝され始めているリューの評判は、さらに上がる事になる。
「聞いたか? 領主様が運営する商会を使って、高騰している資材を適正価格で運び込んでくれているって話」
「聞いたよ! 他所の商人連中はこの機会に荒稼ぎする事しか考えてないから、焼け出された俺達は助かったよ。それに被害に遭ったものに対して、義侠連合と協力して支援金を出したり、炊き出しも行ってくれている。ありがたいよな」
「本当だよ。この火事を機に、引っ越しを考える者もいるからな。残された土地を買い叩かれないように、領主様が自分のところで一旦適正価格で買い取り、区画整理をしてから地元の者に優先して販売をするらしいぞ」
「領主様も余所者のはずなんだが、この街の事をよく理解し、色々と考えてくれているよな」
領民達は、リューのやり方に感謝すると城館のある方に手を合わせるのだった。
「地元の建設商会も、うちの技術指導の下、協力して家屋を新築する事で、火事に強い建物を作る事に納得してくれたから良かった」
リューは、城館の会議室で地元の関係者を集めて話し合いを行い、火事で延焼後の土地を区画整理し、これまでの火に弱い建築は止める事で意見を一致させた。
バシャドーの景観もあるが、それよりも、今回のような大火事に強い街づくりの方が大切だという流れになったのだ。
「目の前で自分の家や財産が燃える姿は見たくないもの。彼らの気持ち、わかるわ」
リーンは感慨深げに頷く。
リーンの故郷は戦争で焼けてしまい、すでに無くなっているからだろう。
「これで、一気に地元経済が上向きになるよう、僕が頑張らないとね」
リューは笑顔で応じるのだった。
『バシャドー義侠連合』の大幹部三人は、リューの手腕に感心するしかなかった。
すでに、彼らの最大の目的だったシルバ・フェンリールも地下牢から救い出されて、リューに保護してもらっている。
心配なのは、シルバが魔族の血を引くという事で、リューが危険視しないか、だった。
だが、どうも、傍にいるエルフが、シルバの正体にすでに気づいているようだから、それも大丈夫かもしれない。
「シルバ殿も領主様の事は大丈夫だと仰っていましたから、問題ないと思いますが……」
バシャドー裏社会のボスであるエンジ・ガーディーが、言葉を濁した。
「なんだい? 領主様は信用できるだろ? 領民の支持も得ているしな。それに俺も一度、助けられている」
『喧嘩屋義侠団』のボスでもあるケンガ・スジドーが、エンジ・ガーディーの不安に気づいた。
「……そうなのですけどね。何かまだ、隠し事をしている気がするのですよ……」
「隠し事? ああ、『竜星組』や『死星一家』との関係があった事かい? それは説明していたじゃないか。うちでも調べてみたけど、戦争終結後、王都復興に尽力した時に接点ができているのは、事実みたいよ?」
『バシャドー商人護衛連隊』の総隊長でもあるアキナ・イマモリーは密かにリューの身辺を調べさせていた。
「うちも調べてみましたが、同じ結果でしたよ。寄り親であるランドマーク伯爵家の評判もかなり良く、領主様は寄り親への忠誠心も高いようです」
エンジ・ガーディーは裏社会の人間としての嗅覚が働くのか、出てきた情報だけを鵜呑みにする気はない。
「『屍人会』との闘いの時に、その人となりも感じたが、あれでまだ、十代前半とは思えないくらいしっかりしていたぜ? この街や領民の為に見せた怒りも本当だったしな」
ケンガ・スジドーは、喧嘩で相手を見定めてきた。
その事については、エンジ・ガーディーも一目置く程の的中率を持つ。
だから、リューの人柄に嘘はないのだろう。
だが、何か引っかかる、とエンジ・ガーディーの警戒心は拭えない。
「……専属のメイドも、ただ者ではなかったからな……」
エンジ・ガーディーは、一緒に戦ったアーサ・ヒッターの事も気にしていた。
元が付くのだろうが、同業者である事は間違いないし、側近のリーンもアキナ・イマモリーの話で、ただ者でないのはわかっている。
『屍人会』のボス、ヒューマの側近である道化師『ピエール』の名は、エンジ・ガーディーもよく知っていた。
どちらかというと、『道化師のピエール』と言えば、地方裏社会では相当な有名人である。
そのピエールを初見で退けたというのだから、相当な腕利きなのだ。
護衛についていたスードという若者も、相当な腕の持ち主だろう事もわかる。
あれだけの逸材を従えているのが、子爵程度の少年貴族だというのが、おかしな話なのだ。
「エンジ。あなた、心配し過ぎていると禿げるわよ?」
アキナ・イマモリーが、呆れた様子をみせた。
「うっ……。──それよりも、使いを出していた『聖銀狼会』の事務所から返事がきました」
「早過ぎない?」
「どうやら、あちらもうちと同盟を結んで、『屍人会』を叩いておきたいようです。大幹部が本部から近いうちにやってくるようですから」
「なんだ、心配する必要はなかったな。あとは領主様が、『竜星組』と『死星一家』を会談の場に連れてこられるかだな」
ケンガ・スジドーは、エンジ・ガーディーの報告に安堵する。
「ただし、『聖銀狼会』は、うちとの同盟を考えているのであって、『竜星組』と『死星一家』の事は知りません」
エンジ・ガーディーは、淡々と話した。
「おい、それはマズいだろ。会談の場でいきなり顔を合わせたら、揉める可能性が高いじゃないか」
ケンガ・スジドーが呆れる。
「そうしないと、あちら側が引く可能性があると思ったのですよ。『竜星組』だけこの街に呼び込んだら、それこそ、どうなるかわからないでしょう?」
エンジ・ガーディーは街の事を思えば、全く知らない『竜星組』を頼りにして、後々この街が危険に晒される事を危惧していた。
『聖銀狼会』も危険な組織ではあるが、まだ、知らない仲ではない分、頼りになりそうではある。
もちろん、全幅の信頼とまではいかないので、『竜星組』とセットで同盟を結び、お互いを牽制してくれれば有難いと考えていた。
「シルバさんに、この事は相談しておいた方がいいよ。うちに防音魔法を使える者が何人かいるから、城館でも人払いして話し合いくらいはできるだろう?」
アキナ・イマモリーは、すでにリューをかなり信頼していた。
とはいえ、『竜星組』の件は別だったから、エンジ・ガーディーの考えを強くは否定しないのだった。




